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2024年11月6日から8日にかけて、福岡市で開催された日本最大級の招待制カンファレンス「B Dash Camp 2024 Fall in Fukuoka」。その中でも注目を集めたセッションの一つが「世界で稼ぐ!スタートアップの戦い方」だ。
このセッションでは、インターステラテクノロジズCOOの熱田圭史氏、ICHIGO代表の近本あゆみ氏、NextNinja代表の山岸聖幸氏が登壇し、モデレーターを経営共創基盤の塩野誠氏が務めた。各氏がグローバル市場での成功戦略や挑戦について語り合い、実体験をもとにした知見を提供した。組織制度や離職率低下の取り組みについて触れた中編に続き、今後の成長戦略と海外展開への方向性について見ていく。
海外市場への挑戦 宇宙産業における日本の地理的優位性
塩野 後半は今後の成長戦略をお伺いしたいですけど、やはりそこまで多国籍化されて、なおかつ海外向けにビジネスされてるって、日本のスタートアップの中では珍しいと思います。今後どういう形で伸ばしていくかというのは、熱田さんいかがでしょうか?
熱田 まだ我々開発段階ですが、日本政府には補助金という形で大きなサポートをして頂いていますので、初めはやっぱり政府の案件を取っていくという形になるんですけども。ただ政府の案件っていうのは急に伸びたりしない。ある程度日本の国家予算って決まっているため、それが急に変わることはないので、自分たちで自立していくしかないというところで、やっぱり初号機を打ち上げてから3年ぐらいの間で海外売上ってのは半分ぐらいにしていって、5年後をめどに8割ぐらい持っていかないと、我々に出資して頂いているVCさんのバリュエーションに合わないなっていうところがあって。そこをどんどん開拓を進めているというふうになります。
塩野 宇宙産業において、日本が持つアドバンテージってどのようなポイントなのでしょうか?
熱田 まず一つは、意外と皆さん知らないと思いますけど、「地の利」というのがあります。ロケットを打ち上げられる環境があるのは、実は技術もあるんですけど、もう一つは、立地というのがあります。地球って自転してるのは皆さんご存知ですけども、自転方向に飛ばすってなると、日本から打ち上げる場合は基本的に右側に、東側に打ち上げるか、もしくは縦に人工衛星飛ばす場合は、南の方に打ち上げます。東と南の空いてる国って、けっこう限られるんですよ。アメリカも場所を分けています。東の場合はフロリダから打ち上げますけども、南に打上げの場合はアラスカ、もしくはロサンゼルスから打ち上げます。我々の会社は北海道にありますけど、北海道で右も下も開けているっていうところで、この利点というのはめちゃくちゃ大きくて、これはかなり他の国より強いところ。
塩野 熱田さんにぜひ聞かなきゃいけないと思うんですけども、トランプ政権になることで宇宙産業ってどう変わるんですか。
熱田 皆さんご存じかもしれませんけども、昔は日本の方が先に人工衛星打ち上げの技術力がありましたけど、今の中国っていうのは国際宇宙ステーションを自分たちで運用している唯一の国になります。まさに中国が宇宙開発でかなり世界を圧巻しているというところで、バイデン政権からトランプ政権に変わったところでその状況が変わらないので、宇宙政策に関しては方向性は変わらないというふうに見ています。すなわち日本にとって何かが変わるかというと、今のところはそんなに大きく変わらないだろうなというふうに思っています。

日本のお菓子が海外で評価される理由
塩野 近本さん、今後の成長戦略としてはどういうことを考えていらっしゃいますか?
近本 私達は今までお菓子を海外に売るとことを中心にやってきたんですけど、
塩野 1セットいくらくらいなんですか?
近本 1セットは送料込みで50ドルです。
塩野 けっこう高いですよね。6、7千円くらいということですね。
近本 ただ、アメリカ向けなので、アメリカでは今めちゃくちゃ物価も上がっているので、アメリカで同じようなお菓子を同じぐらいの値段で買えるかというと、全くそうではなく。
塩野 日本人からすると50ドル高いと思いますが、アメリカ人からすると安いと。
近本 そうなんですよ。なのでそういう値段で売ってるんですけども、多分お菓子を消費するっていうよりは、日本の食文化を海外に広げるっていう文脈で今までお菓子を扱ってきたんですけど、私達が一貫して海外向けにビジネスやってきて、海外向けのマーケティングっていうのにけっこう長けてきたかなというふうに思ってるので、今インバウンドで日本に海外の方がいらっしゃる方がめちゃくちゃ増えているというところもあり、そこをキャプチャーしない手はないよねって思っています。
今年の夏に、日本の国内企業をM&Aしたんですけど、そこはテイクアウトでスイーツを販売してる会社になるんです。日本の観光地にわたあめとか日本古き良きお祭り文化を想起させるようなスイーツを売る会社なんですけども、そこをM&Aしまして。そういった食文化って海外の方にもすごく人気があって非常に価値があるんですけれども、その会社はまだその海外向けマーケティングがあまりできてないっていうところが私達と非常にマッチするかなというふうに思ってまして。なので、今後越境ECももちろん続けていきますし、商材とかはお菓子からもうちょっと広げたいなと思っているところもあるんですけど、それと同時にインバウンドを獲得していく、同じく食文化ところを海外の方に広めていくっていうようなものが、中期的な戦略という感じです。
長期的には、日本の食文化を海外にも出していきたいというふうに思ってまして、私達のお客様は欧米の方がすごく多いというふうに。今のところ90%が欧米なんですけれども、インバウンドで考えると逆にアジアの方の方が半数以上を占めているという現状もあるので、越境ECが向かないようなアジア諸国に、日本の食文化を直接現地に持っていくようなことも戦略としては考えてます。

デジタルコンテンツで攻める海外展開
塩野 山岸さんにもお伺いします。
山岸 僕らは二つありまして、今出しているプロダクトが三つあるんですよね。二つは世界中に出しているので、世界中のデータが取れるんですね。世界でウケるものをまず日本で作って、KPIを見て良くして、そのあと海外に出すっていうパターンでやってるんですけど、そのプロダクトラインを増やす。
それと海外が伸びてきているので、海外の売上比率は50%なんですけど、これを90%ぐらいまで増やします。というのも市場がそもそも20倍ぐらい大きいんですよね。かつ、海外マーケットをやるとそうなるんですけど、海外の方がユーザー獲得単価が安いんですよ。海外を見ると、日本のIPでゲームを持っているという会社はまだまだ非常に少ないと。なので、成長余地はものすごくあると思っていて。ゲーム市場全体でいうと、その緩やかな伸びで急拡大な伸びじゃないんですけど、そのゲーム市場の中のIPコンテンツっていうと、もうこれから爆上がりしかないなと思っていて、そこを攻めていく。僕らはほとんどデジタルマーケティングでやってるんですけど、デジタルマーケティングの改善っていうのが、まだまだ伸びしろしかない。各国ごとにKPIが違って、ここをいじると北米だとかヨーロッパとか、アジアだと上がりにくいとかっていうのが見えてきてるので、それをもうガンガン改善していって、日本で作るプロダクトラインを増やし、海外マーケを強めて、海外の市場を取りに行くっていうのが基本設計です。
プロダクトラインを増やすのが実は大変で、300人いるんですけど、全然足りないんですね。それはM&Aでラインを厚くしようと思ってます。メイドインジャパンは変わらず、日本の会社をM&Aして、去年1社M&Aしたんですけど。ゲームスタジオを去年買いまして、2ライン任せてるんですよ。だから、ラインごとにそういうふうにスタジオを増やしていったんです。
僕らは物がないじゃないですか。デジタルのバーチャルなものを売っているので、全てデータで取れるわけですね。在庫もないし、要はゲーム作ってストアにあげて広告配信すればもうユーザー獲得できちゃうっていう。

日本の宇宙産業、人材活用で広がる可能性
塩野 やっぱり宇宙となるとプレイヤーは、全然日本にもっといそうな気もします。宇宙スタートアップがもっと出てきて良いはずみたいな。
熱田 我々も海外人材をどんどん積極的に雇おうとしている中でけっこう衝撃的な事実ですけど、航空宇宙系の人材って、日本に1万人しかいないんですよ。衝撃的ですよね。生産労働人口はだいたい人口の半分ぐらいですから。自動車関係って大体600万くらいいると思うんですけど。だから単純に国のGDPは、ほぼほぼ自動車の一本足打法だと言っても過言ではないぐらいの割合がありますと。
航空宇宙のサプライチェーンは1万人だけで完結してるんで、本来的にはポテンシャルがあるんです。ただやっぱり1万人のプールを取り合ってしまうだけではナンセンスだと思っていて。例えばですけど、アメリカの航空宇宙系の人材になると200万人ぐらいなんです。日本プレミアムがあるのであれば、そこを積極的に使った方がいいなというところがかなりあります。やっぱり最近の傾向で言うと理系を選択する人がいないっていうのもあるかと思います。医学部とか比較的人気があるでしょうけど。かつ機械系でいくとですね、ダイバーシティの観点で言うと男性が非常に多いですから。私も航空宇宙系の出身ではありますけど、大体100人いたら女性は2,3人ですので。こういう分野でも、アメリカだと全然違うんですよ。3割か4割くらい女性がいます。
どうやってやってるかっていうと、宇宙っていうものに夢を持たせてですね、宇宙から地球を変えていくみたいな話を小さい頃から聞いているわけですよね。航空宇宙系に関われるっていうのがアメリカンドリームの一つになっていて。日本もそういうモノ作りの地の利や財産があるのであれば、自動車だけに使うんじゃなくて、航空宇宙系の方にやっていく。ただ、人材を育てるというのは中学高校とか大学でかなり時間かかるものですから、将来的には日本の人材プールがもっともっと大きくなって欲しいなと思いつつも、今はやっぱりアメリカだったりとか欧州とかっていうところのプールをうまく使っていくというのが重要です。
塩野 最後は海外向けのビジネスの楽しさを皆さんにメッセージとしてお願いします。
山岸 僕らはtoCビジネスをやってるんで、お客さんに対して毎月4回ぐらい生放送やったりとかしてるんですね。僕自身はYouTubeで生放送とかやってるんですけど、頑張って英語でやってるんです。海外ではめちゃくちゃリスペクトされるんですよ。ソーシャルゲームって日本だとヘイトがけっこう運営に来るんですけど、海外だとイベント行ってもめちゃくちゃリスペクトされるというのがあります。数字も上がるし。いいことしかないので、ぜひチャレンジして頂けるといいんじゃないかなと思います。
近本 私は今メインで扱ってるお菓子は日本人にとってみると、もう身近にありふれているというか、もう小さいときからずっとそばにあるという感覚なんです。山岸さんの話にも近くなるかもしれないんですけど、海外の人からしてみると、その日本人ならではの四季折々の味をお菓子に再現した期間限定のものだったりとか、日本の本当に高い技術で作られた甘さ控えめだけど美味しいお菓子みたいなのが、非常に価値が高いんですね。
私もこのビジネスを始めてお客様に結構教えられたことも多いんですけど、日本のお菓子だったりとか、日本のプロダクトっていうのが、こんなに価値があるものなんだみたいなことを改めて気づかされたというか、本当に日本っていう国が再評価されているみたいなことは、海外の方にビジネスをやらないと多分気づけなかったことだろうなっていうふうに思うので、そこはすごくやっていてやりがいがあるというか、楽しいですね。
熱田 二つあるかなと思いまして、一つは先ほど申し上げたようにタレントプールですね。日本の持っているものを、海外のタレントプールを使うことによってさらに良くしていくっていうことができるようになりますと。数字に関しては先ほど申し上げた通り、桁が二つくらい違うタレントプールが海外にはいますというところをまず一つ。あとは売上の観点ですけども、我々は国内と海外でこういうカンファレンスがあったりとか、宣伝とかいろいろやっていますけど、海外の人の方がやっぱり刺さりやすいんですね。パイプラインは海外の方が圧倒的に立てやすいので、こういうところをもう狙っていけるんだったらやっちゃった方がいいんじゃないかと。
塩野 陰ながら、今は国際協力銀行のJBICというところの投資員として、チケットサイズでワンショット10億20億まで出せるぞっていうのを今やってるので、海外行きたい方はおっしゃって頂ければと思いますけれども。今日はよくこういうセッションですと、なんかもう苦労話を聞いて、そうだよねみたいなのが毎回多いと思うんですけど、かなりポジティブオーラをいただいたんで、良かったなと思いましたね。かなりリアルに、そして「割とできるんだな」っていう思いをいただいたので本当に良かったです。本日は皆さんありがとうございました。