大規模データと生成AIが創り出す新たなビジネスモデル「SaaS+Database」

大規模データと生成AIが創り出す新たなビジネスモデル「SaaS+Database」

written by

村岡 功規

目次

  1. 急成長を遂げるSaaS市場
  2. 「SaaS戦国時代」に突入
  3. 「SaaS+〇〇」の出現
    • BPaaS「SaaS+BPO」とは
  4. LLMの出現
  5. 「SaaS+Database」のメガトレンドが到来
  6. まとめ

はじめまして。SalesNow代表取締役の村岡(@Ats_mrk)と申します。
今回はLLMやAIが台頭してきている「時代の転換点」における、SaaSのあり方について解説したいと思います。

大規模な資金調達や、生成AIを活用した新たなソリューションで注目を集めるSaaS領域は、参入企業が増えてきており、レッドオーシャンになりつつあります。

そこで、各SaaS事業者は市場を勝ち抜いていくために、「ニッチに尖らせていくVertical戦略」「シナジーの強い領域で多様なSaaSをマルチに開発するコンパウンド戦略」など、自社の事業ドメインにおいて最適であろう経営戦略を打ち出していっています。他には、BPaaS(SaaS+BPO)やSaaS+FintechなどのSaaS(ソフトウェア)に別の領域を掛け合わせた「SaaS+〇〇」のビジネスモデルによって、付加価値を増幅させ、選ばれる理由を作り出す動きも見られます。

また、ChatGPTやGeminiを初めとしたLLM(生成AI)の劇的な進化(コスト・精度の2点において)によって各社は変化をせざるを得なくなっており、プロダクト戦略の中にどのように組み込むのか、試行錯誤しているところでしょう。

そんな中「SaaS+Database」と呼ばれる、SaaSに大規模データを組み合わせたプロダクト形態が、LLM技術の進化によって世界的に注目を浴びつつあります。

このビジネスモデルが期待されている理由は、「品質の高い独自のDatabaseを保有していること」によって、LLMを用いた模倣不可能な独自モデルの開発が可能になり、確固たる優位性をつくることができるためです。

以上のようにLLMが急激な進化を遂げる中での、「SaaS」を取り巻く市場の動きについて、国内外の事例を交えながら、これらのトレンドがどのように今後のSaaSビジネスに影響を与えていくのかについて詳述します。

急成長を遂げるSaaS市場

みなさんも御存知の通り、日本だけでなく世界的にもSaaSビジネスは急速な成長を遂げております。

One Capitalさんのレポートによると、SaaS国内市場の成長の勢いに翳りはみえず、2027年には2兆円を超えると予想され、2023年からのCAGRは11%と見込まれる、とのこと。

グラフ
国内SaaS市場の成長予測(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000026.000061145.html)

今後についてもSaaS市場は「年間11%の成長」を遂げる急成長市場となっており、11%と言うと小さく見えるかもしれませんが、年11%成長が続くと10年間で約2.84倍, 20年間で約8.1倍に市場が拡大します。

「SaaS戦国時代」に突入

2023年はやや調達件数が落ち込んだものの、2021~2023のたった3年間に1000社以上のSaaSスタートアップが生まれ、資金調達に成功しています。未調達のSaaS事業者も含めると数千以上のプロダクトに登るでしょう。

資金調達動向のグラフ
SaaSスタートアップの資金調達動向(https://onecapital.jp/perspectives/japan-saas-market-24-q1)

このように、新たなSaaSが数多く生まれていることによって、プロダクトを導入するユーザの立場では選択肢が増加しています。同じ課題解決を目的に導入されるプロダクトは原則1つ。そのため、SaaS事業者が競争を勝ち抜き、急拡大を遂げるには「競合製品との差別要素や選ばれる理由を1つでも多く用意すること」が必要不可欠な状況になっております。

「代替手段との価値の差分」が大きくなることは経営指標に如実に現れます。例えば受注率が倍になると、同じ広告経路で流入した顧客であってもCACは半分になります。(厳密にS&Mコストを含めると誤差はありますが)

このように、参入事業者が多いことによって「SaaS」領域は競争が激化するレッドオーシャンの市場になっています。競合と一線を画すため、大きな成長ドライバとして考えられているのが「SaaS+〇〇」のビジネスモデルです。

「SaaS+〇〇」の出現

社内情報の入力/整理/分析ができる”単なるSaaS”だけでは課題解決の領域が狭く、競合製品との価値の差分(選ばれる理由)がどうしても小さくなりがちです。(作ったとしてもソフトウェアはすぐに模倣されてしまう)

そのため、SaaS+BPO(BPaaS)やSaaS+Fintechを筆頭に、SaaS(ソフトウェア)に別の要素をAdd-onすることによって付加価値を増幅させるトレンドが世界的に来ています。

BPaaS「SaaS+BPO」とは

「BPaaS」とはSaaSに特定の業務全体を外部委託するBPOを組み合わせた「SaaS+BPO」のビジネスモデルです。サービス提供者としては単なるSaaS経由の売上だけでなく業務のアウトソーシングの費用もサービス料金に含むことができるためARR(売上)、ARPA(1社あたりの売上)が上がりやすくアップセル / クロスセルに繋がることからNRR・LTVの向上にも繋がります。

利用者側としてもノンコア業務を外注することで「コア業務に集中できる」、専門チームによる業務フロー構築ができ「オペレーションが洗練される」などのメリットが挙げられます。

このように単なるSaaS(ソフトウェア)だけでなく周辺の業務領域を巻き取ることによってワークフローを抑える「BPaaS」のビジネスモデルを採用する企業が増えてきております。国内プレイヤーだとChatWork社がBPaaSに積極的に組んでいます。

日本国内だけでなくグローバルでも急拡大を遂げるマーケットとして注目を浴びています。

BPaaS市場 : 2028年までの世界予測
BPaaS市場 : 2028年までの世界予測(https://chosareport.com/mnmtc1440/)

LLMの出現

ChatGPTを中心として「実用的なLLM」が市場に投入されたことをきっかけに、LLM(Large Language Model)は目まぐるしい成長を遂げています。今だけでなくこれから先も、年間成長率は37.2%(US)にも至ると想定されており、類を見ない成長が予想されています。

ChatGPT、Geminiなどは膨大なデータセットを用いたトレーニングにより、自然言語処理の精度と応用範囲が飛躍的に向上しています。ビジネスインテリジェンスやカスタマーサポート、自動化されたコンテンツ生成など、多様な分野での活用が進んでおり、LLMは今後さらに市場を牽引する重要な技術として位置付けられています。

グラフ
Large Language Model Market Trends(https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/large-language-model-llm-market-report)

どのソフトウェア企業もこのLLMの急速な市場成長を無視できません。LLMのプロダクトへの組み込みが当たり前となった世界では「独自かつ高品質なデータ」を保有する企業が覇権を握ると言われています。

前提、LLM領域における独自モデルの品質は「どんなデータを元にするか」によって学習精度が決まります。そのため、豊富で質の高いデータを持つ企業は、より正確で有用なモデルを作成(他社には作成できない実用的なモデルを提供)でき、競争優位性を確保することができます。LLM時代においては、データそのものが他社と差別化する要素となり、より顧客から選ばれる理由を作り出すことに繋がります。

「SaaS+Database」のメガトレンドが到来

前述のとおり、「独自かつ高品質なデータ」を持つ会社が実用的で高品質な独自モデルを作成することが可能になり、それそのものが確固たる競合優位性を築くことに繋がります。

そのため、LLMにレバレッジをかける大規模なDatabaseを兼ね備えた「SaaS+Database」のビジネスモデルが注目されています。

通常のSaaSと比較した「SaaS+Database」の特徴

「SaaS+Database」はSaaS(ソフトウェア)による価値提供に加え、大規模かつ独自のデータベースを提供することで付加価値を高めることを可能にしています。

単なるSaaSで扱う「社内にある情報」だけでは解決できない領域に、大規模なデータベースが掛け算で加わることで、顧客満足度を飛躍的に高めることができます。

大きな変数として「Database」が加わることで事業の複雑性・難易度は高くなるが、その分「付加価値」が大きくなり課題解決の幅が広がります。

もう少し通常のSaaSとの相違点を具体的に記載すると「Databaseの初期構築のハードルが高い」「Databaseを活かす最適なソフトウェアを実装する必要がある」「Databaseを作る専属チームが必要なためSaaSよりも原価がかかりやすい」など、経営難易度が高いビジネスモデルと言えます。

また、「SaaS+Database」領域で急拡大するプレイヤーは大規模データの処理を可能にするチームを保有し、"内製で"高品質なデータベースを構築を試みているのが特徴です。

前述のとおり難易度が高い代わりに、SaaS(ソフトウェア)にデータベースの付加価値が加わることによって、SaaSで主要なKPIであるARPA, LTV, Unit Economics, NRRなどのあらゆる経営指標を高水準に保つことを可能にします。

「SaaS+Database」領域のプレイヤー

「SaaS+Database」の領域で急拡大を遂げた海外プレイヤーは数多く存在します。海外企業の一例を4社ほどピックアップしました。

  • ZoomInfo
    企業、人物、製品、業界に関する一般情報を提供するウェブサイトおよびCRM。100万件以上のレコードを持ち、企業データベースとして広く利用されている。ZoomInfoは特にソーシャルメディアマーケティングのためのリソースとして評価されており、企業情報の抽出や意思決定のための包括的なデータベースを提供する​​。
  • Dun & Bradstreet
    企業データ、クレジットレポート、ビジネスインサイトを提供し、リスク管理やマーケティング戦略を支援するサービス。
  • UpLead
    B2Bリードジェネレーションのための精度の高い企業および連絡先データを提供し、営業活動を効率化。
  • Apollo.io
    営業およびマーケティングチームがターゲット顧客にリーチするための包括的なデータベースとアウトリーチツールを提供。

特に、Zoominfo社については時価総額1兆円を超えるほど大きな企業で、SaaSとセットで大規模なビジネス情報をDatabaseとして提供することによって課題解決を実現しています。「企業データ」を軸に高品質かつ包括的なデータベースを構築することに成功しています。

  • SalesNow:「SaaS + Database」でセールスの働き方を変えることに挑戦

当社が提供するSalesNowは、数年前から「SaaS+Database」のビジネスモデルに着目し、SaaSに加えて日本全国543万社を完全網羅した数百億規模の「Database」を用意することで「セールスの働き方を変える」ことに取り組んでいます。

SalesNowのデータベース説明図

前述のとおり、通常のSaaSプロダクトに「Database」という大きな変数が掛け算で加わるため、プロダクト作りの難易度が非常に高くなりますが、大規模データがなければ現状のアナログな働き方を変えることはできないと判断しました。(以下、セールス現場で起きているアナログな働き方の例)

セールスの負

難しいビジネスモデルですが、その分大きな課題解決が可能です。具体的には「セールスのアナログな働き方を根本的に変えられる」「日本国の最重要課題である生産性向上を実現できる」などの大きな社会的意義を日々感じています。

高品質な独自データを保有する企業はLLMで化ける

冒頭から中盤にかけて記載しているとおり「SaaS+Database」はChatGPTやGeminiを始めとしたLLM(Large Language Model)が密接に関わる領域です。

LLMの鍵となる独自モデル生成には、膨大なデータの解析と学習が必要となっており、数百億規模の膨大な大規模なDatabaseを保有しているからこそ、LLMのポテンシャルを最大限引き出すことができます。独自モデルの品質やユニークさは、保有しているDatabaseの正確性・情報量に大きく依存します。

SalesNowでは、データ処理のオペレーションにLLMを組み込むことでコスト・品質の最適化に取り組んでいたり、ファインチューニング・プロンプトエンジニアリングによってデータから新たな顧客価値を作り出すための検証を日々進めています。

以下はほんの極一部の取り組みではありますが、当社でのデータ×LLM活用の事例を一部掲載しておきます。

まとめ

いかがだったでしょうか。SaaS市場は急速に成長し、多くの参入者で競争が激化しています。

今後のSaaSビジネスで成功するためには、「SaaS+〇〇」のビジネスモデルが重要な差別化要素となります。特に、「SaaS+Database」はLLMの進化とともに注目され、独自の高品質データベースを活用することで他社にはない価値を提供できる点が強みです。企業は、どの分野と組み合わせて付加価値を高めるかを常に考え、データの質と活用方法を重視する必要があります。これからのSaaS市場では、独自のデータを駆使したイノベーションが鍵となり、業界の動向を見据えた戦略が求められます。読者の皆様も、この視点を持って今後のビジネス戦略を練り、変化の激しい市場での競争力を高めていただきたいと思います。

学生時代はデータ分析の研究に従事。レバレジーズ入社後、新規事業立ち上げとセールスマネージャーを務め、事業を50名規模に成長させた。データ技術やスクレイピングを駆使し、年間200~300件の商談創出に貢献。非効率なBtoB営業プロセスに課題を感じ、2019年にSalesNowを共同創業。共同創業者の粂と共に、SalesNowのMVPを開発・リリースした。

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Tag
  • #SaaS
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