(業界レポート)製造業の人材派遣市場、労働派遣法改正などにより大手にチャンス

(業界レポート)製造業の人材派遣市場、労働派遣法改正などにより大手にチャンス

    日本の人材派遣市場

    日本には、約143万人の派遣社員が存在し、雇用者全体に占める割合は2.5%である。リーマンショック直後は派遣社員が大幅に減少したものの、派遣社員の割合は、過去15年間安定して2~3%を推移している(※1)。

    欧米諸国に比べて、日本の派遣社員の比率はやや低い。アメリカとはあまり差がないものの、派遣業が世界で一番浸透しているイギリスとは派遣社員の比率が倍以上開いている(※2)。

    人材派遣サービス市場の最大の特徴は、寡占化が進んでおらず、多くの中小企業が存在しているということである。最大手のリクルートでさえ、6.4兆円程度ある国内の派遣市場の中でのシェアは10%程度しかない。その要因としては、「参入が容易であること」、「規模拡大が難しいこと(採用を増やさないと売上が伸びない)」が挙げられる。

    日本の派遣社員を職種別で見ると、事務職(派遣社員数の31%)、製造関連(派遣社員数の27%)、専門的技術職(派遣社員数の9%)などが多い。特定の派遣職種に特化した派遣サービス会社も多いため、派遣職種によってプレイヤーが大きく異なる。


    製造派遣サービス

    今回は、人材派遣の中で、製造派遣サービスを取り上げる。製造業が日本のGDPに占める割合は24%と大きく、グローバルな競争優位性を持つ分野が多いため、派遣社員が担う役割は大きい。国内製造派遣・請負市場は、2023年には2.4兆円程度になると見込まれている(※4)。

    一方で、製造派遣業界の課題はボラティリティの高さである。派遣業は、一般的に、景気悪化に伴い利益が減少するが、製造派遣は技術者派遣と比べてもより景気に敏感であるといえる。また、中長期的には、AIやロボットの活用により、製造派遣のニーズが縮小する可能性もある。

    業界として乗り越えるべき課題はあるものの、大手企業には追い風が吹いている。人材育成の高度化、同一労働同一賃金や労働者派遣法の法改正への対応(新制度に対応できる大手に人材が集中する傾向)により、大手数社が中小企業を取り込む動きが見られる。それでも、まだ数万社が存在する中で、大手10社のシェアは23%程度しかないため、市場の寡占化が引き続き進むと思われる(※5)。

    そのため、今回は製造派遣の大手企業に注目したい。以下の表に国内製造派遣における代表的な上場企業4社を挙げる。会社によって、売上成長率にかなりばらつきがあるが、これはM&Aに対する意欲と会計期間の違いによるものが大きいとみられる。



    アウトソーシングは国内外のM&Aに非常に積極的であるため、高い売上成長率が継続している。UTグループもM&Aを活発に行っており、新規連結事業を除いた場合、直近年度の売上成長率はマイナス7%と日総工産と同程度である。上記で掲載しているアウトソーシングとワールドHDの売上の計上期間は、2020年12月から2021年11月末までであるのに対して、UTグループと日総工産の売上は、2020年3月から2021年2月末までのものである。後者の企業群の売上数値の方が、コロナの悪影響をより受けていると考えられる。

    4社とも共通して営業利益率はそれほど高くない。派遣社員の賃金がコストの大半を占めているが、賃金は下方硬直的であるため、利益率を大幅に引き上げるのは難しい。そのため、派遣社員を増やすことによる売上成長が大事になってくる。

    国内製造派遣の企業紹介

    上記の製造派遣企業の中で、投資家から着目されているUTグループを取り上げたい。4社の中で、投資家の評価が一番高いのはUTグループである。組織再編などに伴う特別損失などでPER(株価収益率)が押し上げられている側面はあるものの、4社の中でPERは一番高い。また、直近年度の売上に基づくPSR(株価売上高倍率) は、他社が0.2-0.4倍程度に対して、UTグループは0.9倍と他社に対してプレミアムがついている。



    UTグループは、①マニュファクチャリング事業、②ソリューション事業、③エンジニアリング事業の3つを展開している。各々見ていきたい。

    マニュファクチャリング事業では、製造工場への人材派遣・請負を行っており、連結売上の60%を占める中核事業である。直近3年間の売上成長率は年平均3%程度と安定した伸びを見せている。分野別でみると、半導体・電子部品向けがこの事業の44%、自動車関連が29%と大きい。海外売上もあるが、全体売上に占める割合は限定的である。

    ソリューション事業は、大企業向け(日立、東芝など)に、顧客企業の社員をUTグループの社員として受け入れる構造改革ソリューションを行っている。連結売上に占める割合は26%と大きくはないが、直近3年間で売上が年平均24%程度伸びており、「成長事業」という位置づけである。

    エンジニアリング事業は、設計開発・ソフトウェア・IT・建設エンジニア等の技術者派遣を行っている。この事業の最大の魅力は、利益率の高さであり、「キャッシュ・カウ」と位置づけることができる。EBITDAマージンは、16%と3事業の中で群を抜いて高い。同じく、技術者派遣を行っているテクノプロやメイテックも営業利益率は10%を超えている。専門性が高いことによる高い単価が利益率を押し上げているとみられる。製造派遣の他3社に比べて、UTグループの営業利益率が高い理由は、この事業が存在しているからといえる。直近3年間では、売上が年平均9%程度と技術者の人手不足を背景に順調に成長している。

    中期経営計画では、21年度対比で売上の年平均成長率25-31%増、EBITDAの年平均成長率38%増と非常に意欲的な目標を掲げている。今後のアップサイドポテンシャルとしては、製造・技術者派遣領域でのM&A、人材育成による単価アップ、新規事業(人材紹介、HRテック領域など)の本格稼働が挙げられる。

    製造派遣業界で、UTグループが高く評価されている理由としては、①成長期待が高い半導体業界向けのエクスポージャーが大きいこと、②成長事業・キャッシュカウなどもあり、事業バランスが良いこと、③社員に優しい制度(正社員雇用など)を打ち出すことで離職を抑制できていること(2017年3月期の離職率は3%程度と業界平均の7-8%を大幅に下回っている) (※6)、④中期経営計画で高い成長にコミットして、業績を伸ばしてきたことが挙げられる。

    海外企業の事例

    製造業に特化する大手の海外派遣会社は限られている。そのため、日本の大手は、海外展開にあたって、現地の小規模な製造派遣会社を買収するという流れが続いている。例えば、UTグループは、2020年にベトナムのGreen Speed Joint Stock Companyを買収、アウトソーシングは、2016年にドイツのOrizon Holdingを買収している。

    世界では、総合人材派遣会社が製造派遣も担っていると考えられる。Adecco(スイス)、ManpowerGroup(アメリカ)、Randstad(オランダ)が世界の人材派遣会社の中で規模が最も大きい3社である。これらの企業の競合には、海外展開をしているリクルートやパーソルが含まれる。日本の派遣市場と同様だが、世界でも各社のシェアは細分化しており、差別化が難しい業界(世界トップ3企業のEBITDAマージンは4-5%程度)といえる。

    (※1)
    https://www.jassa.or.jp/keywords/index1.html
    (※2)
    https://www.yumeshin-hd.co.jp/ir/uploads/FY19-FY21_medium-term.pdf
    (※3)
    https://ssl4.eir-parts.net/doc/2154/ir_material_for_fiscal_ym26/111850/00.pdf
    (※4)
    https://www.nisso.co.jp/ir/upload_file/m005-m005_07/210512-1.pdf
    (※5)
    https://www.outsourcing.co.jp/-/media/outsourcing/jp/top/ir/irlibrary/midiplan/VISION2024.ashx
    (※6)
    https://www.fisco.co.jp/uploads/utgroup20170816.pdf

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