過去に配信したFinTech第一弾レポートでは法人カード、FinTech第二弾レポートではデジタルバンクの説明を行った。今回のFinTech第三弾レポートでは、ロボアドバイザーについて解説したい。
ロボアドバイザーの歴史
今回は、FinTechの資産運用領域に含まれるロボアドバイザーに焦点を当てる。ロボアドバイザーとは、アルゴリズムや機械学習を用いて、投資家に合った資産配分や商品などを提案してくれるサービスである。InsideBitcoinsによると、世界のロボアドバイザーの市場規模は1.4兆ドル程度であり、そのうち75%がアメリカに集中している (※1)。
ロボアドバイザーを理解するにあたっては、最大市場であるアメリカでどう普及したか知るのが大事である。ロボアドバイザーが登場するきっかけになったのは、2008年のリーマンショックによって、これまでの投資手法に懸念がもたれたことである。リーマンショック直後、ロボアドバイザーは、機関投資家のための資産ポートフォリオの調整のために使われた。しかし、新興企業のBettermentなどは、ロボアドバイザーを個人投資家向けに提供することで、資産運用にかかるコストを減らすことができるのではないかと考えた。というのも、アメリカでは、投資にあたって、対面のファイナンシャルアドバイザーを使う場面が多いからである。ファイナンシャルアドバイザーが顧客の資産に対して年1%の手数料を取るのに比べて、現在のアメリカのロボアドバイザーの手数料は、年0.25%から0.35%程度であり、25%程度に費用を抑えることができる。
アメリカと比べると、日本では、投資がまだ一般的でないため、投資を促すものとして、ロボアドバイザーは活用されている。そのため、日本でのロボアドバイザーの主要ターゲットは、投資経験があまりないものの、老後資金に心配がある会社員である。
上述の違いにより、ロボアドバイザーの機能も日本とアメリカで異なる。ロボアドバイザーには、運用をすべてロボアドバイザーに一任する「投資一任型」とロボアドバイザーの提案をもとに投資家自身が運用する「アドバイス型」の2種類ある。投資初心者が多い日本では、「投資一任型」が主流であるが、投資経験者が多いアメリカでは両方が混在する。
ロボアドバイザー市場
ロボアドバイザーが日本の家計資産に占める割合は0.02%、株式・債券に占める割合は0.1%程度と普及していない (※2と※3)。ロボアドバイザーに対する認知度が高いアメリカでさえ、家計資産に占める割合は0.9%、株式・債券に占める割合は1.7%程度である。株式・債券に占める割合が低い理由としては、ロボアドバイザーが新しい金融商品であること、また主要顧客が金融資産の少ない人々だからである。国内最大手のウェルスナビの場合、1,250兆円の金融資産を持つ60代以降ではなく、650兆円の金融資産を持つ20-50代をメインターゲットにしているため、一人当たり預かり資産は大手金融機関の投資一任契約の10%程度である(※3)。
一方で、市場の急成長は続く見込みである。米国では、2020年から2023年の3年間でロボアドバイザー市場は50%成長すると見込まれている (※1)。日本では、ウェルスナビの営業収益が前年比85%増と著しい成長を遂げている。拡大が続く理由は、若いサラリーマンなど従来の金融機関の主要ターゲットに含まれていない層が相当数いるため、運用者数が増える余地が大きいこと、またロボアドバイザーを気に入った運用者が運用額を増やすことによる一人当たり預かり資産の拡大という両輪がある。
ロボアドバイザーのビジネスモデル
運用残高に応じた手数料を受け取るというシンプルなビジネスモデルである。ウェルスナビの場合、運用残高の1%を手数料として受け取っており、同社の決算資料を見ると、おおむね預かり資産の1%が営業収益になっている。アメリカのロボアドバイザーは、普及とともに手数料を下げており、現在の手数料は0.25%から0.35%程度であるため、日本のロボアドバイザーは割高といえる。国内市場の一層の拡大には、手数料の値下げが将来的には必要になる可能性がある。ただ、アメリカのロボアドバイザーが値下げできた理由の一つとしては、ファイナンシャルプランナーとの電話相談などの他のサービスによる課金が可能になった側面もある。
ロボアドバイザーのビジネスモデルは、SaaS企業といくつかの類似点がある。一つ目として、解約率が低い点である。例えば、ウェルスナビの月間解約率は1%未満である。二つ目として、赤字企業が多い点である。一度加入した顧客はあまり退会しないことや市場が拡大期であることを踏まえると、新規顧客開拓が重要である。そのため、ロボアドバイザー企業は、多額の広告宣伝費を使っている。ウェルスナビの場合、営業収益のうち、実に40%が広告宣伝費である。日本の主要SaaS企業と比べても売上高広告宣伝費比率は高い水準にある。三つ目として、アップセルが容易な点である。SaaSサービスやロボアドバイザーを活用する場合、導入当初は小規模で始めることが多い。その後、サービスが良いと思えば、ユーザーは徐々に利用を増やしていく傾向がある。ただ、SaaS企業と違い、現状で他のサービスに乏しいロボアドバイザーの場合は、クロスセルが難しい可能性がある。
海外のロボアドバイザー企業紹介
米国市場では、既存金融機関やネット証券の規模が大きい。最大手は、インデックスファンドに強みを持つVanguardである。VanguardのロボアドバイザーのポートフォリオにはVanguardのETFが組み入れられており、本業との相乗効果を生み出している。また、Vanguardのロボアドバイザーの規模が大きい理由としては、Vanguardが運用する他の商品からの移行が大きかったことも挙げられる。また、運用残高が非開示なため、下記の表には記載していないが、投資信託大手のフィデリティ証券もSchwab Intelligent Portfoliosと同程度の運用残高を保有している可能性がある(※4)。
米国の新興企業の最大手は、Bettermentである。Bettermentは最小投資額をゼロに設定したり、投資額が5,000ドル以の場合、手数料をゼロにするなど、初心者が始めやすいような仕掛けを施している。また、BettermentはカナダのWealthsimpleの米国事業を買収しており、拡大を続けている。
UBSがWealthfront、J.P. MorganがNutmegを買収するなど、既存金融機関がロボアドバイザーのスタートアップを取り込む動きも盛んにみられる。既存金融機関がこれまで獲得できなかった若いユーザーを取り込む上でロボアドバイザーを買収することは理にかなっているといえる。
米国企業が規模で他の国の企業を圧倒しているが、米国企業はグローバル化できていない。各国の規制環境や投資慣行の違いなどに対応するのが難しいからだ。そのため、ヨーロッパやアジアなど、各地でローカル企業が存在する。
日本のロボアドバイザー企業紹介
アメリカでは、2010年前後にロボアドバイザーのサービスが始まったが、それから6年後の2016年に日本でも主要企業によって、サービスが開始された。日本における最大手は、ウェルスナビであり、同社のIR資料によると、国内のロボアドバイザー市場の預かり資産の74%を占めており(※3)、同社の一人勝ちの状態が続いている。ウェルスナビが成功した理由は、「ロボアドバイザー事業への高いコミットメント」と考える。同社は、ロボアドバイザー事業に特化し、積極的な広告、販売パートナー開拓、アプリのUI/UXの改善などを愚直に行ってきた。また、AIの精度強化による運用パフォーマンス向上も積極的に行ってきたと考えられる。2017年から2022年の5年間における同程度のリスクの他のロボアドバイザー商品と比べると、シュミレーション結果では、ウェルスナビのパフォーマンスが一番よかった (※6)。他社は、他の事業を展開する大手金融会社も多く、ウェルスナビほどロボアドバイザー事業に力を入れてこなかった可能性がある。これは、楽天やヤフーなどの大手の参入がありながら、圧倒的優位を築いたメルカリのフリマアプリ市場と状況が似ている。ただ、新規参入も増えているため、ウェルスナビが今までのような競合優位を今後も維持できるかは注目である。
海外同様、既存金融機関がロボアドバイザーを買収する事例が見られる。FOLIOは2021年にSBIホールディングスに買収され、エイト証券は2018年に野村アセットマネジメントに買収された。
市場拡大のために、各社は新たな取り組みを強化している。フィデリティ証券は、人によるアドバイスとロボアドを組み合わせた投資サービスを開始した。また、sustenキャピタル・マネジメントは、日本初の成功報酬型のロボアドバイザーを始めた。ウェルスナビは少額投資非課税制度(NISA)を活用した「おまかせNISA」のサービスを昨年から提供している。efitは、他社がETFなどの投資信託に投資するのに対して、個別の金融商品に着目し、AIによる自動売買機能を提供している。
ウェルスナビ株式会社
ウェルスナビ株式会社は、個人投資家の資産運用を指南し、世界の株式や債券に自動で分散投資するロボットアドバイザー(ロボアドバイザー)『WealthNavi(ウェルスナビ)』を運営する企業。 『WealthNavi』は、。2020年10月時点で、預かり資産 3,000 億円を突破している。ポートフォリオ(資産の組み合わせ)を自動生成して「長期・積立・分散」型投資を行うことができるという。 2019年10月、『WealthNavi』スマートフォンアプリが、『2018年度グッドデザイン賞』を受賞。
代表者名 | 柴山和久 |
設立日 | 2015年4月28日 |
住所 | 東京都渋谷区渋谷2丁目22番3号渋谷東口ビル9F |
株式会社お金のデザイン
株式会社お金のデザインは、資産運用事業を手がける。 顧客の年齢や現在の金融資産額などの情報から、AI 搭載ロボアドバイザーが一人一人にあった資産運用を提示するロボアドバイザー「THEO(テオ)」を運営していたが、同事業を分割し、2021年8月にSMBC日興証券に売却。お金のデザインは運用事業に専念している。
代表者名 | 山辺僚一 |
設立日 | 2013年8月1日 |
住所 | 東京都港区赤坂1丁目9番13号 |
株式会社FOLIO
株式会社FOLIOは、オンライン証券サービス「フォリオ」の開発・運用をしている企業。 「フォリオ」の「テーマ投資」では、ドローン、VR(拡張現実)、人工知能、京都などのテーマに関連した有望企業を厳選しており、10社に分散投資することで、誰でも簡単に資産運用できる。また、「おまかせ投資」では、ロボアドバイザーが、ノーベル賞受賞理論をベースにしたアルゴリズムで資産を運用する。 「個」の持つあらゆる才能や想いを、正当な価値として評価し、社会に還元される機会を生み出す組織であり続けることをミッションとしている。
代表者名 | 甲斐真一郎 |
設立日 | 2015年12月10日 |
住所 | 東京都千代田区一番町16番地1 |
株式会社efit
株式会社efitは、誰でも簡単にプロの投資を自動で実現できる投資プラットフォーム「QUOREA(クオレア)」を提供する会社。 「QUOREA」では、資産運用のサポートをする、2,000体を超えるロボットを利用することができる。投資ロボットの運用成績や投資に伴うリスクはすべてオープンにされ、自身にあった優秀なロボットを選べる。 AIにすべて任せた投資手法ではなく、AIを使用した効率的な情報収集から「自分で動かす投資」を実現しようとしている。投資を変えることで、未来を変えていこうとしている会社である。
代表者名 | 宮原勝利 |
設立日 | 2017年10月19日 |
住所 | 東京都千代田区神田東松下町41-1 |
エイト株式会社
エイト株式会社は、「クロエ」と呼ばれるロボアドバイザーを商品展開する中で、投資スタイルを新風を吹き込む証券会社。 クロエはスマートフォンのアプリケーションであり、「クロエ」はお客様との投資一任契約に基づき、お客様から投資判断のすべてを一任する商品。最適なポートフォリオを提案するとともに、口座開設や取引、運用報告の確認まですべてのプロセスを一括で管理が可能で 最新の技術を駆使して、安価でシンプルかつ新しい投資のスタイルの構築を目指す。 同社は2018年4月、野村アセットマネジメント株式会社に買収された。
代表者名 | 佐伯進 |
設立日 | 2001年12月25日 |
住所 | 東京都江東区豊洲2丁目2番1号 |
株式会社sustenキャピタル・マネジメント
株式会社sustenキャピタル・マネジメントは、個人および機関投資家向け投資運用サービスの提供を行う企業。 アクティブ型投資信託より低コストで、パッシブ型・インデックス投資より費用控除後のリターンが高い運用を目指す投資運用業準備会社だ。最新のテクノロジーを駆使した新型の運用を提案しており、世界の株式・債券・為替などが投資対象として挙げられる。 家族や友人にすすめられる投資運用サービスを創出することをミッションとし、誰もが安心して暮らせるsustainable(持続可能)な社会の実現をビジョンとして掲げている。
代表者名 | 岡野大, 山口雅史 |
設立日 | 2019年7月4日 |
住所 | 東京都港区虎ノ門1丁目3番1号東京虎ノ門グローバルスクエア |
※1
https://insidebitcoins.com/news/us-robo-advisors-industry-to-hit-a-1trn-value-this-year
※2
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB155Z20V10C22A3000000/
※3
https://ssl4.eir-parts.net/doc/7342/tdnet/2085348/00.pdf
※4
https://www.am.mufg.jp/text/oshirase_200828.pdf
※5
https://www.roboadvisorpros.com/robo-advisors-with-most-aum-assets-under-management
※6
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB081TN0Y2A400C2000000/
※7
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB00006_X11C21A1000000/