中国で大ブームの「共同購入」が日本でヒットする理由

中国で大ブームの「共同購入」が日本でヒットする理由

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written by

門奈 剣平


今や世界一の市場規模を誇り、さらに拡大を続ける中国ECマーケット。現在、その市場はどのような動きを見せているのか。また、中国で「共同購入」が一気に広がった背景とは。日中にルーツを持ち、シェア買いアプリ「カウシェ」を立ち上げて日本で共同購入の普及を目指す門奈剣平氏の考察を紹介する。

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中国のECマーケットは、巨大な市場規模で世界を牽引し続けています。現在のEC化比率は30%弱と堅調に成長しており、今後は50%程度まで伸びるのではないかと考えられます。中国のEC市場のサイズ(人口×EC化比率)は、アメリカよりも遥かに大きく、さまざまなスタートアップによる新たなユーザー体験が盛り上がりを見せています。そんな中国EC市場の多岐にわたる競争とソリューションの中から勝ち上がってきたのが、Alibaba(アリババ)や拼多多(ピンドゥオドゥオ)です。


中国ECマーケットにおける3つのトレンド

中国EC市場には、①ライブコマース、➁ソーシャルコマース、③エンタメ化されたEC体験という3つの大きなトレンドがあります。それぞれについて紹介しましょう。

①ライブコマース
ライブコマースは、オンラインによる店頭販売と言える形態。ECサイトとライブ配信を組み合わせ、配信者と視聴者がコミュニケーションしながら買い物できるのが特徴です。これまでのオンラインショッピングは「お得」「翌日配達」などがメリットの合理的なツールでしたが、ライブコマースはさらにリッチな消費コンテンツのフォーマットだと考えられます。

➁ソーシャルコマース
ソーシャルコマースは、私たちが今取り組んでいる形態です。SNSなどのソーシャルメディアとEコマースを組み合わせて商品やサービスを販売します。コマースというツールにソーシャル性、コミュニケーション性を掛け算しているのが特徴です。

例えば、ユーザーは共同購入という手段で、お買い得という価値を手に入れます。これはオフラインで、ママ友同士でコストコに行ってまとめて商品を購入し、お得な価格で商品をてにいれることなどと同じです。

共同購入には、ゲームロジック、遊びの要素が含まれています。ユーザーのちょっとした努力と工夫を通じて、価格は変えられる。そうしたルールのもとお得感を得ることに慣れ親しんでいる文化で、受け入れられているようです。

購買意欲の高いユーザーは、事業者にとって商品の営業マンと同じと言えます。他の人を共同購入に誘ってくれることで、購買意欲を拡散してもらえます。その行動は商品のプロモーションになるため、事業者はお買い得な価格でユーザーに商品を提供できるのです。

③エンタメ化されたEC体験
3つ目はエンタメ化されたEC体験です。ソーシャルコマースよりも、さらにショッピングと遊びの要素が混ざっていると言えます。私たちがユースケースとしている拼多多のアプリには、フルーツを育てるミニゲームが搭載されています。ゲーム上で実らせると、本物のフルーツが実際に自宅に届くのです。ゲームとコマースが強く結びつき、ショッピングモールの中にゲームセンターがある状態に近いと思っています。

他にもアプリ内にゲームを導入している中国の企業には、ECでは天猫(ティエンマオ)、京東(ジンドン)、スマホ決済のAlipay(アリペイ)、生活サービスの美団(メイトゥアン)、即時配送の餓了麽(ウーラマ)などがあります。

3つのトレンドが示しているのは、ECショッピング自体が単なる購買行動から、よりリッチな消費者体験に進化していることです。


従来、オンラインでの買い物は、すぐ手元に届くことが重要でした。日本でもその結果として、検索して倉庫から商品を調達しているような、ある意味「無機質」な体験に近づいています。しかし、そもそもオフラインでの購買体験は、単なる物資の調達ではなく遊びの要素を持った「ショッピング」なのです。中国のECマーケットには、本来のショッピングの要素が次々と取り入れられていると言えるでしょう。

中国で爆発的に広がった「拼多多」での共同購入

単一事業者のプラットフォームとして爆発的な成長を遂げた拼多多。私が上海をベースに仕事をしていた2017年当時は、拼多多を知る人はほとんどいませんでした。それが2020年には、年間アクティブユーザー数で、中国の圧倒的王者だったAlibabaを抜いたのです。


拼多多がこれほど急速なスピードで成長した背景には、「1人では買えない仕組み」があると私は考えています。先述した「ECショッピング自体が単なる購買行動から、よりリッチな消費者体験に進化していること」として、お客様自身によるSNSでの商品拡散を意識した仕掛けが散りばめられています。その結果、顧客獲得単価が、既存のものと比較して圧倒的に低くなりました。これが急成長した背景です。

中国では、コロナ禍で百貨店の閉店が相次いだことを機にオンラインで接客販売すべく、次々と新しいショッピング体験が立ち上がりました。それが新たな流通に繋がることで経済が循環し、人は動かずとも物が動く形になったと感じています。

共同購入の仕組みは日本のマーケットと好相性

先行する中国に対し、日本の購買比率はいまだにオフラインが90%以上のため、コロナ禍で多くの事業者がダメージを受けました。しかし、オンライン購買比率が8%しかないのは、日本のショッピング体験に進化の余白があることを表しているのです。

市場規模としても、これから新しい巨大なECモールがいくつかできてもおかしくない。それでいて、社会インフラとしての流通は、今のままだと不十分な状態に見えます。そのため、私は日本で共同購入サービスを立ち上げることを考えました。

実際にカウシェを始めてみると、思っていた以上に、日本のマーケットと共同購入という形態は相性が良いということがわかりました。共同購入は、生活協同組合の例もあるように、日本に昔からある消費行動です。そして日本は世界的に見てもTwitterが活発で、SNSでの発信や情報獲得も得意。日本で共同購入を利用している人の多くは子育て中の女性です。オンラインでの情報獲得や、ママ友同士でのリアルな情報交換によって、楽しみながら生活することに慣れています。

これがさらに進んでいくと、大人数で共同購入を成立させることもできるようになるでしょう。例えば「○○町のみんなで、共同購入しよう」といったことも可能になる。事業者はまとめて商品を配送することでリソースを節約でき、減ったコストをユーザーに還元できます。共同購入が普及すれば、配送や製造のあり方も変わるのではないかと考えています。


共同購入が解決する社会課題とは?

2020年は緊急事態宣言で人の流れが停滞し、日本では実店舗での商品の廃棄率が上がりました。一方ECも、従来のような検索中心のコマースだけでは流通力が弱いことがわかりました。検索されなければ商品は売れず、広告は無駄になり、在庫が残ってしまいます。

そういった在庫問題も解決できるのが共同購入です。私たちは食品の取り扱いからスタートし、コロナ禍でも流通を繋げ、食品ロスを少しでも減らしたいと考えました。カウシェを通じた共同購入で、食品ロスがなくなったサステナブルな事例があります。クリームパンなどを販売する八天堂は1年間を通じて廃棄が限りなくゼロに近くなり、コストカットを実現しました。京都の本家西尾八ッ橋は、これまで売上にできていなかった八ッ橋の切れ端をカウシェにて商品化し、新しい収入源を生み出しました。

ほかにも共同購入のメリットとして、倉庫の回転率アップや、まとまった量の受注による予約販売ができる点などが挙げられます。

共同購入によるバリューチェーンの未来

私たちカウシェや拼多多を始めとした共同購入ECアプリは、SNSを通じたお客様の声で商品が広まる体験をコアとして設計しています。事業者がこれまで入り込めなかった消費者のチャット空間に商品を拡散できるのが、共同購入ECアプリが提供している価値のひとつです。

今日本では、ユーザーが共同購入ECアプリを繰り返し利用しながら、この新たなEC体験への理解を深めている段階だと考えています。私たちはお客様による商品の拡散を全力でサポートすることで、事業者はより良い商品作りにフォーカスできます。そうなることで、お客様の声で消費が広まるバリューチェーンができあがるのではないかと思っています。

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株式会社カウシェ/シェア買いアプリ「カウシェ」
2020年4月に創業、サービスは同年9月にローンチ。アプリは2020年9月に100万ダウンロードを突破。共同購入の「シェア買い」1グループは平均2.56人で、全ユーザーの7割が女性。SNS最多利用チャネルはLINEで、カウシェ公式のオープンチャットの参加者の総数はおよそ1万5000人。数千人規模のオープンチャットのグループが多数ある。
2022年10月に、プロフィールに人格を持たせる機能と、自分以外のユーザーをフォローできる機能をリリース。今後、ユーザー同士が交流できる機能も開発中。


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1991年生まれ。日中ハーフ。慶應義塾大学環境情報学部卒。「Relux」を運営するLoco Partnersに、2人目のメンバーとして入社。シード前からM&A後のPMIまで経験。海外事業立ち上げ責任者を務め、事業グロースに貢献、海外担当執行役員&中国支社長兼任。 2020年4月、株式会社カウシェ創業。

about.kauche.com

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