株式会社カウシェ
お買い物アプリ「カウシェ」を運営する株式会社カウシェは、シリーズCラウンドでの資金調達を実施し、累計資金調達額が約46億円に到達した。
今回の調達では、デライト・ベンチャーズがリードインベスターを務め、三井住友海上キャピタル、AGキャピタル、ポーラ・オルビスホールディングスなど7社がエクイティに参加。加えて、日本政策金融公庫およびUPSIDER Capitalからのデットファイナンスを組み合わせた。
2020年設立のカウシェは、当初「シェア買い」型の共同購入アプリとしてスタートしたが、2023年以降、AIを活用した“発見型EC”モデルへと転換。従来の「検索して買う」形式では実現しづらかった、“ふと欲しくなる”商品との偶然の出会いを軸とした購買体験を提供している。アプリは累計400万ダウンロードを突破しており、ピボット以降の事業成長も顕著で、GMV（流通総額）は25倍、売上総利益は90倍に拡大しているという。
代表取締役CEOの門奈剣平氏は、「世の中がどんどん便利になる一方で、合理性だけでは人生が味気なくなる。買い物こそが日常に楽しさをもたらす体験であるべきだ」と語る。単なる効率性だけでなく、“人の感情に触れる体験”としてのECを目指す姿勢を明確にし、「これまでECを使ってこなかった層にまでリーチしうる、新しい生活圏のかたちを構築したい」と今後の展望を語った。
アプリ利用データも特徴的だ。アクティブユーザーは1日あたり平均3〜4回アプリを起動し、1回あたりの平均滞在時間は約30分にのぼる。月間訪問回数は20回以上に達し、利用者の約9割は商品検索を行わず、アプリ内のレコメンドやタイムラインを通じて商品と出会っている。こうした“検索しないEC体験”が広く受け入れられつつあることがうかがえる。
この発見型ECの中核には、AIによる商品スコアリングとユーザーレコメンド技術がある。商品は価格や品質に加えて、レビュー評価、CTR（クリック率）、CVR（購入率）といった複数の指標によりスコア化され、ユーザーの行動履歴に基づいて表示順位が最適化される仕組みだ。COOの山田悠太郎氏は、「広告出稿に左右される従来の検索型ECに対し、良い商品が自然と評価され、上位に表示される仕組みが、出品者と消費者双方にとって健全な構造をつくっている」と説明する。
また山田氏は、「我々は既存ECと競合するのではなく、彼らがまだリーチしていない日本のEC化率約9%の外側にある未開拓市場を開拓していく」と語る。日本国内の小売市場において、未だ約9割がオフライン取引で占められていることに着目し、EC市場全体の拡張に貢献する姿勢を示している。
今回の資金調達により、同社はプロダクト開発や人材採用、組織体制の整備を強化する方針だ。特にエンジニア採用に注力しており、社内ではAIを用いた開発効率化や情報共有の仕組みもすでに実装されている。商品説明の自動生成、レビューの要約、資料作成の自動化などが進められており、AIが開発と運営の両面に浸透している。
ユーザー体験においても、同社の特徴が現れている。レビュー投稿には、「娘が初めてこの食材を食べた」「家族との会話のきっかけになった」といった、生活の変化に言及する声が多く寄せられており、単なる商品比較を超えた、共感を呼ぶ購買体験が形成されつつある。
門奈氏は、「買い物そのものが日常を楽しくする体験である。一億人の日常をアップデートしたい。AIの時代にも変化を恐れず、むしろその中心に自分たちが立ちたい」と語り、ECの枠組みにとどまらず、消費の未来そのものを設計していく意志を表明している。
山田氏も、「日本のECは完成された市場に見えるが、実はまだ手つかずの領域が広がっている。私たちのような新しい切り口から、この分野を再発明できると信じている」と述べ、既存の常識にとらわれない事業拡張への意気込みを示した。
カウシェが目指すのは、検索や価格比較に依存しない新たな買い物の「当たり前」の再構築。買い物に“楽しさ”を取り戻す体験を通じて、日本のECに次なる潮流を生み出す構えだ。
