歯科専門クラウドバックオフィスを運営する株式会社SABUがシリーズPreAラウンドにて、第三者割当増資による2億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、basepartners、オリックス・キャピタル、ココナラスキルパートナーズ、その他個人投資家。
今回の資金調達により、累計680以上の医院への事務代行サービス提供を目指す。
院長の時間を創出する歯科向けクラウドバックオフィス
同社は、歯科医院のバックオフィス業務の事務代行を請け負うことで、院長がコア業務である診療や技術研鑽、教育に注力できる環境を作る。
請け負う業務には、歯科医院における求人票の作成や日程調整、社労士への連絡など、人事関連の業務が多い。他にも総務や経理、患者向けの資料作成やSNS運用など、あらゆるバックオフィス業務をオンラインで代行している。
地方の医院も多く利用しており、日本全国の歯科医院を支援する。費用は月額135,000円(税抜き)で、月ごとに25時間分の業務を依頼することが可能だ。
2020年3月にサービス提供を開始し、2023年7月時点で270以上の歯科医院が事務代行サービスを利用している。
今回の資金調達に際して、代表取締役社長 兼 CEO 齋藤 篤氏、執行役員 CFOの高 晨飛氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
重要疾患の予防に口腔ケアが必要
―― 歯科業界の現状について教えてください。
齋藤氏:国内には約18万の医療施設が存在し、そのうち歯科医院は約7万施設と、約40%を占めています。ここまで歯科医院が充実しているのは他の国にはない特徴ですが、一方で定期健診の受診率はわずか5%と、口腔ケアに関する意識は非常に低いです。
また、虫歯や歯周病など口腔内の病気は、心疾患や糖尿病など、全身疾患を引き起こすリスクにつながります。逆に生活習慣病の指導や口内の清潔を保つなどの対策を取ることで、動脈硬化や脳卒中などの疾患リスクを軽減することができるんです。
こうした背景から、国民皆歯科検診をはじめとして、DXの推進や歯科検診のサポートを行う方針を打ち出しています。さらに、受診者数や治療ニーズが増加することを見越して、医院で受け入れ患者の数や対応可能な治療を増やし、歯科医院の規模を大きくするような施策を開始しています。
―― 歯科医院はどのような課題を抱えていますか?
齋藤氏:とにかく院長の時間が足りていないことは大きな課題です。院長が診察や経営、教育など全てを一人で担っている現状があり、必要な技術の研鑽にも十分な時間が取れません。
バックオフィス業務のために事務代行を雇うと、費用や教育コストがかかります。加えて歯科医療人材は不足しており、採用活動も困難です。こうした背景から院長の負担が増し、とにかく時間が足りないため、医院の規模を拡大する取り組みがなかなか進みません。
求められていたのはDXではなく余裕
―― 創業のきっかけを教えてください。
齋藤氏:父の病気と介護を経験し、医療の重要性と予防の大切さを実感したことで、歯科向けコンサルティング会社に転職をしたことが大きなきっかけです。毎月医院に訪問して課題を解決しながら、100以上の歯科医院の経営改善に携わりました。業績が向上して来院患者も増える一方で、その分業務も増加し、院長の時間が不足していく様子を目の当たりにしました。
より抜本的な業務支援を通じて、歯科業界にインパクトを与えて行くべきだと感じ、SABUの創業を決意しました。
―― 事務代行を始めたきっかけを教えてください。
齋藤氏:当初は予約管理ツールなどのSaaS事業を考えていましたが、調査をしたところ、歯科分野ではあまりSaaSの導入が進んでいませんでした。歯科は診療時間も長い傾向にあることも影響して、院長の時間がとにかく足りず、忙しいのでサービス導入をする暇はないと言われることも多々ありました。
そのためまずは歯科医院の忙しさを解決し、将来的にはDXを実現できるようなサービスを提供したいと思い、事務作業の代行からスタートしています。
―― 御社の事務代行サービスにはどのような特徴がありますか?
齋藤氏:訪問による事務代行を行う企業はありますが、地域によって制限があったり、特定の人物に依存するため属人的になってしまうこともあります。当社はオンラインでの支援を行っているため、訪問型と比較して、低価格で多くの医院を支援することができます。
また、月に一度院長と定例MTGをオンラインで実施しており、先生方の悩みを整理する時間として利用しています。課題を解決しながらノウハウを蓄積し、医院が独自にPDCAを回せるよう支援している点も特徴です。
最初はオンラインでの事務代行は進展しなかったものの、コロナの流行により、院長自身もオンラインでの勉強会に頻繁に参加するようになりました。こうしたきっかけでオンライン商談への抵抗感も薄れ、当社サービスが本格的に受け入れられるようになりました。
事務代行を足掛かりに業界全体のDXを加速
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
高氏:今後も質の高い事務代行サービスを提供していくために、当社内でのオペレーションの効率を向上させる必要があります。エンジニアと連携し、さらなる効率化のための仕組みを構築し、これから1年で680以上の医院に事務代行をご利用いただけるよう取り組みます。
加えてマーケティングや営業、カスタマーサクセスを中心に採用を進め、2024年の夏ごろには100名規模の組織にしていく予定です。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
齋藤氏:まずは事務代行を拡大させつつ、今後はペーパーレスや人材プラットフォームなど、DXのためのSaaS事業を展開していきたいと思っています。
未だに紙で業務を行う歯科医院は、非常に多いです。スタッフのエンゲージメントが高い医院を可視化して採用につなげることに加えて、事務代行で培った基盤をもとにペーパーレスも支援することで、業界全体のDXを進めていきます。
日本は世界からみてもかなり高齢化が進んでいます。高齢化が進む日本人の健康や歯に関するデータを蓄積し、早期に分析することで全身疾患との関係性や予防の重要性などの研究に役立てることができれば、世界に通用するビジネスを作り出すこともできると考えています。加えて今後は、歯科に限らず動物病院や、介護領域への展開も検討しています。医療業界全体を変えていくために、共感いただける事業会社や投資家と協力しながら、取り組んでいきたいと思います。
株式会社SABU
株式会社SABUは、歯科医院に特化した、事務代行事業『歯科医院事務代行サービス』・ウェブサイト制作『ウェブ事業部制作サービス』などを運営する企業。 『歯科医院事務代行サービス』は、スタッフの採用、教育コストや退職のリスク、雑務に要する労力や時間、ホームページの修正などの課題を、アウトソーシングサービスで支援する。 そのほか同社では、歯科医院のホームページや、矯正などの専門サイトの制作も行う。
代表者名 | 齋藤篤 |
設立日 | 2019年8月8日 |
住所 | 東京都港区南青山1丁目26番5号 |