「社会課題×成長」を両立する投資へ、システム変革志向が加速──インパクト・キャピタル 黄氏

「社会課題×成長」を両立する投資へ、システム変革志向が加速──インパクト・キャピタル 黄氏

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2025年は、日本のスタートアップを取り巻く環境において、これまでの前提が静かに揺さぶられ、再確認される場面が増えた一年だった。こうした状況を経て迎えた2026年。投資家は今、どのような視点でスタートアップエコシステムを捉えているのか。KEPPLEでは、2025年の振り返りと2026年の展望について、スタートアップ投資家複数名へのアンケート調査を実施。

今回は、インパクト・キャピタル株式会社、代表取締役の黄 春梅(ほぁん ちゅんめい)氏の回答を紹介する。

AI実装が進む社会課題領域に注目

――2025年を振り返って、最も印象的だった出来事を教えてください。 (例:注目されたビジネスモデル、政策・規制など)

2025年を振り返って最も印象的だったのは、インパクト投資※1市場の急拡大と、「システムチェンジ」※2の視点を取り入れる動きが増加したことです。

GSG Impact JAPANが2025年3月に発行した調査によれば、日本のインパクト投資残高は17兆3016億円に達し、前年比約150%増と急拡大。また、量の拡大のみならず「脱炭素」「地域再生」「ウェルビーイング」など、システムレベルの変革を志向する取り組みが増加しています。

システムチェンジ投資とは、個別企業の取り組み支援だけでは社会課題の根本解決に至らないという問題意識から、業界全体や制度の変革を促す投資アプローチとして欧米で発展。日本でもインパクト投資を推進する中、独自の展開を見せています。政府主導のインパクトコンソーシアムの「市場調査・形成分科会」の活動報告書では「システム的思考と協働」、「システムレベル投資」の重要性が示されました。かんぽ生命と三菱UFJ信託銀行が社会変革推進財団と連携し、国内上場企業を対象としたシステムチェンジ志向のインパクト投資ファンドの運営開始を発表。未上場領域では、当社が組成したインパクト・キャピタル1号ファンドがウェルビーイングを軸に業界変革を志向するなど、投資手法の広がりが見られました。

2025年はこうした潮流が見られ、資金供給にとどまらず、政策・規制や産官学連携を伴いながら、持続可能な社会の実現に向けた投資の役割を再定義した一年だったといえます。

※1.インパクト投資:財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動を指す

※2.システムチェンジ:社会・環境といった大きなシステムのなかで構造的に生まれた複雑な課題の解決を意図して、特定したシステムの機能や構造を変えること

――2025年の調達環境の変化をどのように捉えていますか?課題や気づきがあれば教えてください。

2025年のスタートアップの調達環境は、三つの大きな変化が際立ちました。

第一に、新規上場(IPO)の戦略性が一段と高まった点です。政府がグロース市場の時価総額100億円規模を実質的な上場基準の目安にすることで、企業は上場時期をより戦略的に見極める必要が出てきています。2025年のIPO件数(TOKYO PROを除く)は前年の86社から66社(ソニーフィナンシャルを含む)へ減少し、直近5年で最少。一方で、時価総額の中央値は前年の67億円から96億円へ上昇し、赤字企業のIPOは4社にとどまるなど、「数」よりも「質」を重視する流れが鮮明になりました。

第二に、旧株譲渡のニーズの増加です。IPO慎重化で既存株主の保有期間が長期化し、ファンドの存続期限到来に伴う旧株売却が増加。新株増資と旧株譲渡の組み合わせや、旧株のみ譲渡の相談も目立ちます。旧株譲渡の価格は直近の新規増資ラウンドより低めに設定されるケースが多く、新規投資家にとって実に魅力的な機会となっています。

第三に、調達手段の多様化です。エクイティ調達に加えベンチャーデットの活用が広がり、政府の補助金や研究開発支援も拡充。NEDOなどによる大型助成をはじめ、補助金・デット・エクイティを組み合わせた柔軟な資金調達戦略が可能になりました。

総じて2025年の調達環境は、「どれだけ集めるか」から、「どの手段を、どのタイミングで、どの目的で活用するか」へ進化した一年でした。

――2026年に注目するセクターとその理由を教えてください。(海外トレンドや国内の動向なども含めて)

2026年に注目すべきセクターは、社会課題の深刻化と先端技術の成熟が同時に進む中で、両者が交わる領域です。人口減少や気候変動など構造課題が顕在化する中、AIなどを活用・実装した社会課題解決型スタートアップの重要性は一段と高まると考えています。

国内では、高市政権の「成長戦略17分野」―AI・半導体、量子、合成生物学・バイオ、航空・宇宙、フードテック、GX(脱炭素変革)、防災、先端医療、情報通信、海洋など―の多くは、社会課題の解決に直結し得るものであり、政策支援と市場成長を同時に享受する注目領域です。海外でも、脱炭素やヘルスケアDX(デジタル変革)、食料安全保障を軸に投資が加速しています。

当社のインパクト・キャピタル1号ファンドでは、2026年にヘルスケア・介護、農畜水産DX、物流、防災など生活・産業インフラ領域で、AIやデータ活用による社会課題解決型スタートアップへ投資を積極的に進める予定です。

総じて2026年は「社会課題 × DX」が注目される投資テーマとなり、社会課題の解決と経済成長を両立する領域に資金が集まり、インパクト投資の観点からも持続的な資金循環が加速する一年になるでしょう。

――2026年の資金調達環境について、どのような見通しを持っていますか?また、スタートアップが備えておくべきポイントは何だと思いますか?

2026年の資金調達環境は、補助金・デット・エクイティなど調達手段の多様化が進み、スタートアップにとって選択肢は引き続き広がります。一方で、IPOの難易度は高まり、未上場段階での資金調達でも企業選別が一層厳しくなり、淘汰が加速する可能性があります。そのため、スタートアップは以下の3つの観点が重要です。

①中長期視点での事業戦略設計
高い視座で中長期の事業戦略を描くことが不可欠です。製品・サービスを磨く際には顧客だけでなく、関係する最終受益者まで視野を広げ、彼らの声を反映しながら競争優位性を構築すること。さらに、各ステークホルダーに対し、短期・中長期でどのようなアウトカムを提供し、それが企業のスーパーゴールにどうつながるかを整理し、ストーリーとして示すことが重要です。その整理のツールとして、インパクト投資のロジックモデルを推奨します(事例は当社「IMPACT REPORT 2025」※3を参照)。

➁グローバル市場を視野に入れた戦略
日本は少子高齢化など世界課題の先進国であり、ここで磨いたビジネスモデルは、同様の課題に直面する国々でも活用できる可能性があります。まず日本市場でのビジネスモデルを確立し、早期から海外展開を視野に入れ、現地の情報収集や推進できる人材の確保をすることが理想です。

③上場後を見据えた投資家との早期接点
IPOを目指す企業は、できるだけ早い段階で上場後の国内外の投資家と接点を持ち、対話を開始することを推奨。信頼構築に加え、上場後に求められる視点を理解し、長期視点で準備することが成功の鍵になり得ます。

※3 IMPACT REPORT 2025
https://impactcapital.jp/wp-content/uploads/2025/12/Impact-Report-2025.pdf 

――「スタートアップ育成5か年計画」発表からの3年を振り返り、2027年度に国内で10兆円規模の投資額を実現するうえでの課題や、必要なピースは何だと思いますか?

2027年度に国内で10兆円規模の投資額を達成するには、資金供給側の多様化、資金需要側(スタートアップ)の成長、投資家の役割の進化、出口選択肢の拡大、そして量的な目標だけでなく質的側面も重要だと考えます。

第一に、資金供給側の課題。国内機関投資家のリスク許容度は依然低く、投資サイズは欧米に比べて小規模です。投資有限責任組合形式が多く、中長期保有が難しい構造も課題です。大学基金やNEDOの補助金など政府による資金拠出の継続強化に加え、年金基金や保険会社など長期資金のスタートアップ投資参入が不可欠と考えます。

第二に、資金需要側の課題。10兆円規模を吸収するには、ユニコーン級企業やディープテックの成長加速が不可欠です。前述のとおり、中長期視点での事業戦略設計、グローバル市場を視野に入れた戦略に加え、本業を強化するためのM&Aも有効な選択肢となり得ます。さらに、近年グロース市場の低迷が指摘される中、IPOは国内市場に限定せず、海外市場も視野に入れる柔軟性が求められます。

第三に、投資家の役割の進化。スタートアップのリソースは限られるため、資金提供に加え、戦略設計支援やキーとなる顧客・人材の紹介など、投資家の伴走支援の量と質の両面での強化が不可欠です。インパクト投資では、インパクト測定・マネジメント(IMM)を通じた伴走支援のフレームワークが確立しつつあります。さらに、資本市場活用の観点では、GSGが発行した「インパクト企業の資本市場における情報開示及び対話のためのガイダンス」※4など、投資家が活用できるツールも増えています。

第四に、出口戦略の課題。日本のスタートアップはIPO偏重で、IPOとM&Aの比率は米国の1:9に対し約7:3です。M&Aの税制優遇、事業会社による買収促進、セカンダリーマーケットの整備も必要となります。

最後に、スタートアップの育成には、量的目標だけでなく、質的側面として社会課題解決型投資を組み込み、インパクト投資の視点を強化することが日本の競争力を高める鍵となると信じています。投資家も資金提供にとどまらず、知見やネットワークを日々磨き、スタートアップの成長ステージに応じた支援を設計することがますます重要になるでしょう。


※4 インパクト企業の資本市場における情報開示及び対話のためのガイダンス 第1版
https://impactinvestment.jp/data/media/resources-pdf/Impact-IPO_word_JPN_v1_FIX.pdf

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