スタートアップのM&Aが広がった2024年、インオーガニックな成長もカギに──mint武田氏

スタートアップのM&Aが広がった2024年、インオーガニックな成長もカギに──mint武田氏

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スタートアップエコシステムの関係者の多くにとって、2024年はAI技術の進化に関する話題に事欠かない年となっただろう。資金調達環境においては、欧米市場が冷え込む中、対前年で落ち込んだ2023年から回復し、実績のあるスタートアップに資金が集まる傾向が見られた。

KEPPLEでは、2024年の振り返りと2025年の展望について、スタートアップ投資家複数名へのアンケート調査を実施。今回は、博報堂DYベンチャーズで取締役COO兼マネージングパートナーとしてCVCファンドの組成や投資に携わり、2024年11月からはシード・プレシード特化VCであるmintのGPに就任した武田 紘典氏の回答を紹介する。

AIエージェントのビジネス実装が事業成長の分け目に

――2024年を振り返って、最も印象的だった出来事を教えてください。 (例:注目されたビジネスモデル、生成AIの勃興、政策・規制など)

海外においては、生成AIの基盤モデルを開発するオープンAIなど、複数のAI関連企業による数十億ドル規模の大型資金調達が続いたことが、特に印象に残る年となりました。計算資源(GPU)の確保など、大きな資本力が必要とされるビジネス領域において、グーグルなどのビッグテックに対抗する形で、オープンAIやアンソロピックなどのスタートアップが多額のファイナンスを間断なく実行する様は、米国のスタートアップエコシステムのダイナミズムを改めて感じるイベントとなりました。

また、国内においては、五常・アンド・カンパニーやNOT A HOTELによる特定投資家向け銘柄制度(J-Ships)を活用したファイナンスやPEファンドによるグロースバイアウト出資の事例が印象に残りました。スタートアップにとっての資金調達手段の多様化や未上場株式の流動性向上は、スタートアップエコシステムの裾野の広がりに繋がるものと感じました。

――2024年の調達環境の変化をどのように捉えていますか?課題や気づきがあれば教えてください。

2024年のスタートアップの調達環境は、グロース市場の軟調を受け、ミドル・レイターステージを中心に調整局面が続いているものの、有望なスタートアップは、100億円を超える大型の資金調達を実現するなど、二極化の傾向が見られます。シード・アーリーステージにおいては、連続起業家や大企業での事業経験者など実績のあるスタートアップに資金が集まる傾向にあります。また、エネルギーや医療など、解決した際に社会的なインパクトと大きな市場を創出可能なビジネス領域やグローバル市場を狙えるスタートアップ・経営チームに資金が集まる傾向にあります。

また、2024年は、大企業によるスタートアップM&Aに加え、スタートアップ同士によるM&A、ロールアップ型M&A、バイアウトファンドによるM&Aなど、M&A件数の増加とプレイヤーの多様化が見られました。2025年以降も満期を迎えるファンドが増加傾向にあることから、同様の傾向が続くものと想定されます。直近では、起業の段階から、スタートアップの成長戦略として、IPOとM&Aイグジットをフラットに見据えて起業を検討する起業家やM&Aによる成長戦略を前提にファイナンスを計画するスタートアップなど、起業家のタイプや資金調達戦略にも広がりを感じています。

――2025年に注目するセクターとその理由を教えてください。(海外トレンドや国内の動向なども含めて)

2024年は、生成AIの基盤モデルが多様な進化を見せましたが、2025年は、特定のタスクを自律的に実行するAIエージェントのビジネス実装に注目しています。労働人口の減少、人手不足という大きな社会課題がある中、マーケティング、カスタマーサクセス、人事、会計経理などの2B領域において、AIエージェントの活用による業務効率化や生産性の向上が期待されています。また、AIエージェントを活用するための業務プロセスの整理や見直しが必要となるため、システム導入やBPOを組み合わせたプロフェッショナルサービスに対するニーズも高まるものと想定されます。

一方、ガートナーのハイプ・サイクルでは、生成AIは幻滅期に入っています。AIエージェントの実装によって実現可能な業務内容と費用対効果など、企業やユーザーの当初の期待値を上回る難易度は高いと思われますが、ビジネス現場での具体的なユースケースの拡大に伴い、AIエージェント活用の巧拙によって生産性の差が生まれることに対し、企業やユーザーがより意識する年になると思います。

――2025年の資金調達環境について、どのような見通しを持っていますか?また、スタートアップが備えておくべきポイントは何だと思いますか?

2025年の日本経済は、賃金上昇や個人消費の持ち直しを受け、緩やかな回復が見込まれています。日銀による金融政策正常化の動きはあるものの、政府によるスタートアップの積極的な支援も期待されるため、2025年のスタートアップの資金調達環境は、比較的堅調に推移するものと考えています。

ただし、米国の減税・規制緩和、関税など通商政策の方向性や地政学的リスクの高まりによっては、世界経済や金融市場、日本のスタートアップの事業環境や資金調達環境に大きな影響を与える可能性もあります。スタートアップにとって、当該影響を現時点で予測することは難しいため、不測の事態の影響を低減する先回りの経営が重要になると考えます。

たとえば、投資家や金融機関とのリレーション構築、SBIRなど政府によるスタートアップ支援の確認、知財戦略の立案・実行、サプライチェーンの把握・多様化などの対策が想定されます。

――「スタートアップ育成5か年計画」発表からの2年を振り返り、2027年度に国内で10兆円規模の投資額を実現するうえでの課題や、必要なピースは何だと思いますか?

2024年の日本のスタートアップ資金調達額は、2022年対比で減少しているものの、世界的に資金調達環境が厳しくなる中、相対的には堅調に推移しています。ただし、スタートアップ投資額を2027年度に10兆円とする目標に対しては、2024年から大きな進捗が必要となります。

税制改正、補助金・助成金など政府が支援策を進める中、10兆円の投資目標を実現するためのピースとしては、ユニコーン、デカコーンの創出が必要となり、そのためには、既存産業からスタートアップエコシステムへの人材の流動性をより高め、起業の絶対数の増加と多様な経験を有する人材によるグロース戦略の実現が重要となります。

また、採用やマーケティングによるオーガニックな成長に加え、大企業連携によるビジネス拡大やグローバル展開、M&Aなどのインオーガニックな成長を実現することも重要となるため、VCとしてもスタートアップのオーガニック成長とインオーガニック成長の両者を支援できる体制を備えることが必要になると考えます。

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