予算編成を最適化、WiseVineが挑む自治体DX

予算編成を最適化、WiseVineが挑む自治体DX

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KEPPLE編集部

自治体の財政業務を支える新たな風として、予算編成を中心とした行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるスタートアップ「WiseVine」。

行政予算の決定に関する業務は、財政課の職員が多くの時間と労力をかけて実施している。国の財政に関わるその重要な業務のほとんどが、紙やExcelを中心に行われるというから驚きだ。

WiseVineは、2024年4月に自治体向け予算編成・経営管理システムの「WiseVine Build&Scrap(以下:BnS)」をリリースした。すでにいくつかの自治体でも受注した実績がある。

多忙を極める財政課の支援をはじめ、より効率的で持続可能な行政運営を実現するためのプロダクトを開発しているWiseVine代表取締役社長の吉本 翔生氏に、プロダクトの詳細や今後の展望などについて詳しく聞いた。

予算編成に対応する財政課は“超”多忙

吉本氏:民間企業向けに我々のプロダクトに近いことをやられている会社もありますが、BnSは、より行政に特化して作ったと捉えていただくとわかりやすいかもしれません。

日本には1788の自治体が存在し 、それぞれの予算配分案は基本的に財政課が決定しています。民間企業における経営企画に近い役割です。

ところが、この財政課が非常に忙しい。予算編成の最盛期には残業時間が月150時間にも上る職員がいるそうです。これだけ残業していても予算査定が追いつきません。

そのため、要求内容の十分な査定ができずに前年同額の予算が踏襲されてしまう事業も少なくありません。結果的に、真に必要な経費がこのような継続経費に圧迫され、これまで積み立ててきた基金を取り崩すなどして財源を捻出しなければならないほど持続困難な状態に陥る可能性があります。

加えて、これから少子高齢化が加速します。さらに税収が減少し、社会保障費が増加していくと、より多くの自治体でこうした課題が顕著になってきます。

必要なのは事業の優先順位づけ

自治体の予算額のうち、約65%は法令で定められた事業に使われています。逆に言えば残りの35%は、自分たちで地域の実情に合った事業を行えるはずです。ただ実際にはそうなっていません。

なぜかといえば、事業のスクラップ(廃止・削減)ができていないためです。その結果、多くが継続事業になってしまっているのです。

課題のイメージ図

単純な数字の増減で事業の良し悪しを判断できないため、紙やExcelで前年度比較することが非常に困難です。そのため、財政課は時間をかけて査定のための下準備をしています。それだけで財政課の時間が圧迫され、事業をスクラップするための判断基準が明確にならないまま査定が進んでしまうのです。

民間企業では、例えば利益率が高い事業を優先するなど、優先順位が明確になっているはずです。行政ではKPIが政策ごとに設けられており、統一的な優先順位がつけにくい現状があります。BnSでは、財政課の工数削減、事業の優先順位をつけるフレームづくりの実現を目指しています。

アナログな予算編成からの脱却、予算の最適配分を実現

実際の画面では、予算の差分を比較できます。左側に本年度、右側に前年度の予算を表示し、システムから直接入力された情報をもとに、差分が生じているものは背景色を変更してわかりやすくしています。これまで紙を並べ、定規を当てて見比べていたような前年度比較を、デジタルで実現するのです。

画面のイメージ図

これまで、査定の過程で生じた指摘は、予算要求書(紙)にメモ書きした付箋を貼って回覧されるような状況でした。BnSにはワークフローの機能を備えているため、各事業に紐づいて回覧の履歴が残り、どのような経緯で予算額が決定されたのか遡って確認できます。

BnS上で前年度比較から回覧まで一気通貫で行うため、予算編成の工数は50%も削減できます。

重要なのは、空いた時間でより高度な経営管理を実施することです。システム上で政策や施策、それに紐づく事業を可視化することで、各事業の目標に対する実績が一目でわかります。政策目標を達成するために、どの事業に優先的に予算配分すべきかの判断基準ができるわけです。

画面のイメージ図

これまでは事業単体を見てその良し悪しを判断してきました。これからは、BnSのように成果を出すための事業設計ができるフレームワークを取り入れることが必要です。

コンサルタント時代の経験をもとにプロダクト開発を決意

私は大学・大学院では気候変動政策を専門に学び、学生時代から行政の仕事を研究していました。その後、新卒で野村総合研究所に入社しました。

野村総合研究所では、国内外の行政に関する仕事に携わりました。その際に気になったのは、「ヒト・モノ・カネ」や課題の情報がまったく一元化されていないことでした。

気候変動ひとつとっても、民間は民間、国は国といった具合に、それぞれで改善に向けて動いていて横ぐしのつながりがない。技術情報のデータベースをそれぞれで開発しているような状況でした。これらを統合的に管理し、閲覧できるようにしたいと思ったのが始まりです。

代表取締役社長の吉本 翔生氏の写真
代表取締役社長の吉本 翔生氏

ところが、行政の現場の方々に補助金のデータベースについて説明しても、あまり賛同いただけませんでした。

今ならよくわかりますが、そうしたサービスを求めるのは管理職です。管理職向けのシステムを現場の方々に提案してしまっていたのです。そこから予算編成システムに形を変え、現在は財政課向けに提供しています。

“やめること”ではなく、“何を残すか”をまず決める

重要なのは、「スクラップアンドビルド」ではなく「ビルドアンドスクラップ」を推進していることです。

そもそも、行政のお財布には上限があります。だからこそ適切にスクラップをして、余剰財源で何か新しいことをやる必要があります。

一方で、スクラップアンドビルドだと意思決定ができません。例えば、高齢者福祉と子どもの福祉を比べて、優先順位をつけることは中々できません。「何をやめるのか?」を先に議論すると決まらない、そうすると両方やろうとなってお財布だけ膨らんでしまう。

それであれば、先に「優先すべき重点事業」を決め、その他は一律で縮小する。こうすれば、ある程度意思決定ができるようになるのです。

ほとんどの人は、やりたいことであれば出しやすいと思います。やりたいことを出せば出すほど、他の不要な既存事業が圧迫されてくる。「やりたいことをやるために、泣く泣く他の事業をあきらめた」という形であればみんな納得しやすいわけです。結果的に事業の新陳代謝に繋がります。

これは、当社が設立に携わった「新しい自治体財政を考える研究会」で、全国の自治体財政課へのヒアリングを通じて見出した概念です。

予算編成から人事・調達領域へ拡大

プロダクトは正式リリースしたばかりですが、来年度中には50自治体への導入を目指します。足元では予算編成・執行管理からスタートしつつも、だんだん人事領域にも切り込んでいきます。タレントマネジメントや基金管理などのイメージです。

自社ですべてを開発するつもりはなく、人事領域では外部の事業会社との提携も進めています。多くのスタートアップに輪の中に参加してもらい、関係者全員でシステムを発展させていく考えです。

リリーススケジュール

お伝えしたいのは、我々が取り組んでいるのは「must have」な領域だということです。

予算編成をDXして、財源の最適配分を実現しなければ私たちの未来はありません。消費税が数十パーセントに跳ねあがっている、子どもたちが暮らす日本をそんな風にしたくないですよね。

市場自体もものすごく大きい。その中で当社は、これらの課題に転機を与え得るチャレンジングな環境にいます。「新しい自治体財政を考える研究会」も同じです。こうしたコミュニティから、我々しか知り得ない課題感がたくさん出ています。

すでにいくつかの自治体から、プロダクトの熱烈なファンとして応援いただいています。最近では海外政府からも引き合いが来るようになりました。我々ならではの強みを活かして、今後もプロダクトを全国に広げていきたいと思います。

Tag
  • #行政
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