株式会社LMusubi

食品工場では、製造した食品の安全性を確認するために細菌検査が行われている。しかし、従来の検査には2日以上かかることもあり、結果を待つ時間が出荷の遅れや保管コストの増加につながっている。
この課題に、細菌を迅速に検出する技術で取り組むのが、北海道大学発スタートアップの株式会社LMusubiだ。同社は、細菌の増殖初期を捉える技術を活用し、従来24〜48時間かかる検査を半日以内に短縮する。試薬を入れたプレートに検体を加え、測定機にセットする簡便な操作も特徴だ。
検査時間の短縮は、賞味期限の短い食品の販売機会の確保や、輸送・倉庫保管コストの削減につながる可能性がある。一方で、食品の品質を守る現場では、長年使われてきた検査法から新しい技術への切り替えは容易ではない。同社は顧客のサンプルを用いた比較評価や工場での実演を通じ、導入に向けた協議を進めている。
代表取締役 / CEOの羽太 優理氏に、技術の特徴と食品工場が抱える課題、研究成果の事業化に至った経緯、今後の展望を聞いた。
検査にかかる2日を半日以内へ——食品工場にもたらす価値
──御社の事業について教えてください。
羽太氏:北海道大学で培われた研究をもとに、食品と水質向けの細菌検査技術を事業化しています。細菌を早く、簡単に検出する技術を、検査の現場に届ける事業です。
食品業界で導入していただくには、速さ、安さ、簡便さの3つがそろう必要があると考えています。検査時間を短くするだけでなく、現場の方が簡単に操作でき、価格面でも導入しやすい仕組みを目指しています。
──食品工場では、検査に時間がかかることで、どのような問題が生じていますか。
一つは、販売できる期間が短くなることです。例えば、製造後14日が賞味期限の食品で、検査に2日かかれば、その分だけ店頭に並べられる時間が減ります。特に乳製品など、賞味期限の短い食品では機会損失につながります。
結果を待ってから出荷するメーカーもあれば、先に製品を輸送し、店頭に近い倉庫で結果を待つメーカーもあります。その場合、倉庫の保管費用がかかります。不適合が分かれば、自社に戻して廃棄するため、輸送コストも発生します。
原因の特定が遅れる点も課題です。検査結果を待つ間も、工場では製造が続いています。不適合が分かると、その間に製造した製品は大丈夫なのか、原材料に問題はなかったのかと、さかのぼって調査しなければなりません。
検査にかかる1日、2日は、検査室だけの問題ではありません。出荷や保管、問題が起きた際の対応にも影響しています。
──検査時間を短縮する技術の特徴を教えてください。
細菌の増殖初期を、特殊な計算処理や光学検出で捉える点に特徴があります。詳細はまだ公開していませんが、増殖初期を検出する光学システムについて、特許を出願しています。
菌の種類によって培養時間は異なりますが、従来24時間や48時間かかっていた検査を、私たちの技術では半日以内で判定できます。
操作も簡単です。試薬をプレートに入れた状態で提供するので、お客さまは検体を加えて測定器にセットします。すると、菌数や細菌の検出結果が自動で判定されます。
価格の具体的な数字は控えますが、ほかの迅速検査法と比べても、比較的安く提供できると考えています。速さ、安さ、簡便さのバランスを重視しています。

──工場の運営には、どのような効果を見込んでいますか。
工場の規模にもよりますが、検査業務で1人分の省人化や、製品の保管コスト削減につながると考えています。売上が数億〜数十億円規模の工場では、年間1000万〜2000万円程度のコストを抑えられる可能性があると見ています。
ただし、まだ量産工程で継続的に使っていただき、1年間でそれだけ削減できたとの実績を確認したわけではありません。
お客さまと話す中では、将来的にそれくらいの削減につながるかもしれないとの感触を得ています。今後、実際の運用を通じて効果を確かめる必要があります。
迅速検査の普及に向けて、導入の壁をどう越えるか
──特に導入ニーズが大きいのは、どのような食品工場でしょうか。
乳製品や水産・畜産関連、食品加工など、賞味期限が比較的短い食品を扱う工場には、同じような課題があると考えています。一方、缶詰のように年単位で保存できる食品では、検査を早くする必要性は相対的に低いかもしれません。
私たちは、世界の食品分野の微生物検査には、3兆円近い市場があると見ています。ただ、市場全体に一律の需要があるわけではなく、食品の特性によって迅速検査の価値は異なります。
人手不足も、今後の需要に関わると考えています。操作の手間は、これまでは人手をかけて補えていた部分もあります。しかし、地方の工場などでは人が足りず、省人化が必要です。検査の簡便さに対するニーズも、これから高まると見ています。
──従来の検査法から切り替える際、何が障壁になりますか。
食品業界では、平板培養法※など、長年使われてきた検査方法があります。食品衛生法などに基づいて定められた「公定法」は、検査の基準として重視されており、新しい検査技術も、まずは従来の方法と比較して評価されます。長く使い続けてきた方法から切り替えていただくことが、大きな課題です。
導入を検討する品質保証部門は、食品の品質を守る立場にあります。そのため、検査時間が短くなる利点があっても、新しい方法の導入には慎重になります。積極的に評価する企業もあれば、従来の方法を重視する企業もあり、対応は分かれます。
私たちは北海道大学発ではありますが、会社としての知名度はまだ高くありません。実績が十分に知られていない会社の技術を採用することにも、心理的なハードルがあると感じています。
※ 平板培養法(へいばんばいようほう):シャーレ(ペトリ皿)に入った寒天などの培地で微生物を培養し、形成されたコロニーを数えることで、微生物の数を測定する方法。
──顧客には、どのように技術を評価してもらっていますか。
まず、お客さまからサンプルをいただき、私たちのラボで評価します。従来の方法と比べてどう違うのか、比較結果を報告書にまとめます。
その結果に納得いただき、自分たちの工場でも実物を見たいと希望された場合には、測定機や試薬を持参して実演します。資料や言葉だけでは、使いやすさを十分に伝えられないからです。
現場で見ていただくと、「これで自動的に検出されるのですね」と反応をいただくことがあります。実際の操作を通じて簡便さを体感していただくと、その後の導入協議につながることが多いです。
新しい検査法を説明するだけでなく、お客さま自身のサンプルで比較し、現場で確かめていただく過程を大切にしています。

水の研究との出会いから、食品分野での事業化へ
──バイオ分野で起業した背景を教えてください。
幼い頃から、周囲の環境が人にどう影響するのか、人の体内では何が起きているのかに興味がありました。その関心から生物化学を学び、大学・大学院では、人工骨に抗菌性を付与して評価する研究に取り組みました。日々、細菌を扱う環境にいました。
その後は長瀬産業、ドイツ化学メーカーのメルク、ウシオ電機で働きました。最後は半導体の後工程に関わる装置の営業マネジメントをしていました。半導体の仕事にも面白さはありましたが、自分の原点であるバイオ分野で社会に貢献したい思いがありました。
研究論文を読む中で見つけたのが、共同創業者である北海道大学の佐藤 久教授の研究です。水中の微生物を迅速かつ簡便に可視化する技術に、世界の健康問題を解決する可能性を感じました。
2025年3月、研究室のホームページから連絡し、事業化を提案しました。それが創業のきっかけです。最初から今の事業を思い描いていたわけではありませんが、大学院まで研究していた細菌の分野に戻れたことを、うれしく感じています。

──水質検査の研究から、食品分野にも対象を広げたのはなぜでしょうか。
当初は、水分野での事業化を考えていました。ただ、細菌を早く簡単に測れることで、誰が価値を感じるのかを確かめる必要がありました。
そこで、2026年2月の創業までの1年弱、さまざまな業界にヒアリングしました。日本では上下水道の衛生管理が進んでいることや、規制への対応が必要なこともあり、事業化を検討する中で、食品会社の方が技術へのニーズが高いと分かりました。
そのため、食品分野に技術を応用しています。研究が始まった分野に限らず、必要としてくださるお客さまを探した結果です。
水問題への関心は変わりません。ただ、会社を継続するうえでは、短中期で食品に注力する方が事業を進めやすいと考えています。
食品で収益基盤を築き、海外展開と水問題への挑戦へ
──直近では、どのような事業基盤をつくりたいと考えていますか。
まずは食品会社や一部の水処理会社との取引から、安定した収益を得たいと考えています。技術の認知度を上げ、接点を持てるお客さまを増やすことが、直近の課題です。
創業間もない、まだ十分に知られていない会社に来てくれた従業員には、感謝しかありません。雇用を安定させ、さらに仲間を増やすためにも、会社の基盤を固めたいと思っています。
──食品分野の海外展開においては、どのような準備を進める考えですか。
海外展開は、3年後をめどに考えています。まず、食品検査に関する国際的な規格への登録を目指しており、その準備に2〜3年かかると見ています。
登録がなければ海外で事業を展開できないわけではありません。ただ、海外のお客さまから信頼を得るうえでも、国際的な基準に沿って評価を受けておくことで、事業を進めやすくなると考えました。
まずは国内事業を安定させながら、海外展開の準備を進め、将来的な顧客の獲得につなげたいと考えています。
──水分野では、どのような展開を考えていますか。
共同創業者の佐藤教授は、創業前からスリランカの大学などと研究上のつながりを築いてきました。現地には、日本のように上下水道が十分に整備されていない地域もあります。
一方、水分野では、現段階で現地から対価をいただく事業を成立させる難しさがあります。そのため、食品分野とは異なるアプローチで、これまでの研究上のつながりを起点に、JICAやODAなどの枠組みを活用した取り組みも視野に入れ、少しずつ取り組みたいと考えています。
世界の水問題には、長期的に取り組む意義を感じています。使える人員や資金は限られているため、時間軸を分け、将来的には水分野の優先順位も上げたいです。
──長期的には、御社の事業で微生物検査の現場をどう変えたいですか。
検査にかかる時間や手間を減らし、少ない人員でも食品や水の安全を管理できるようにしたいと考えています。日本の過疎地域や海外の農村では、検査を担う人が減るほど、一人ひとりの負担が増します。安く、簡単に、その場で結果が分かる検査技術を届けることで、こうした現場を支えたいです。
そのために、検査時間のさらなる短縮を目指しています。現在は半日以内で判定できますが、最終的には細菌をリアルタイムで検出したいと考えています。時間差なく検出できれば、下水を通じて、どの地域でどのような菌が増えているかを可視化するなど、日々の検査にとどまらず、公衆衛生にも役立てられる可能性があります。
こうした技術を広く届ける会社へ成長するため、10年後には売上100億円、国内の食品検査で10%以上のシェアを目指しています。検査が早く簡単になれば、お客さまは限られた人員や時間を、新製品の開発などに振り向けられます。検査の負担を減らし、その先の活動まで支えられる試薬やシステムを提供したいと考えています。









