株式会社Things

製造業向けのAI活用型PLM(製品ライフサイクル管理)クラウド「PRISM」を展開する株式会社Thingsが、総額約3.2億円の第三者割当増資による資金調達を実施した。
Thingsは2021年9月に創業し、製造業の現場に蓄積された図面や帳票、文書などの技術情報をAIで解析・構造化し、部門横断での情報活用を可能にするPLMクラウド「PRISM」を提供する。技術情報が各部署に分散し属人化・埋没しやすい製造業界において、生成AIを活用して設計意図や不具合履歴、過去のノウハウを集約・可視化し、現場の非効率や情報断絶といった課題の解消を目指している。リリース直後から主に中堅・大手メーカーの利用が増加しており、導入企業の拡大が続いている。
「PRISM」は2023年5月に正式版をリリース。AIエンジンが紙や電子ファイル、共有フォルダなど多様な情報ソースから技術情報を自動で整理・分類する。さらにBOM(部品表)への統合や関連文書の自動連携も可能とし、生成AIアシスタントが設計や部品管理、帳票作成、レビューなど一連の業務を支援する。複数部門の業務をリアルタイムで連携し、工数削減や全社的なDX基盤構築への寄与が期待される。実際、導入企業の一部では技術情報の一元管理によって業務負担の2割削減が報告されている。
代表取締役CEOの鈴木敦也氏は、三菱商事で海外インフラ案件の現場駐在を経験し、電子楽器メーカーやAI、VRスタートアップなどで事業開発・DX推進に携わった経歴を持つ。現場の情報断絶や属人化をAI技術と現場密着のソリューションで解決する構想を掲げ、2021年にThingsを立ち上げた。
鈴木氏は、「生成AIの登場により、図面や報告書、帳票といった「取り残された80%の情報資産」にも活用の道が開かれつつあります。私たちはこの技術革新を捉え、ものづくりの現場に眠る情報資産を活かす基盤を構築し、生成AI時代の製造業インフラを日本から世界へ展開していきます。」とコメントしている。(一部抜粋)
日本の製造業は国内GDPの約2割を占め、2023年の業界売上高は約463兆円に上る。一方で、技術革新や熟練技能者の大量退職によって、従来の情報管理体制では対応しきれない課題が顕在化している。変化が少ない開発プロセスや、部門ごとに分散した情報・文書の存在が、情報連携ミスや品質不良、コスト増加の原因のひとつとなっている。加えて、膨大な技術資産の発掘と一元化、DX推進への対応力が企業の競争優位性に直結しつつあり、AIやクラウド基盤を活用したPLM導入が加速している。
PLM分野では従来型のソフトウェアベンダーが競合となるが、ThingsはSaaSネイティブで非構造化データにも対応可能なAI処理・自動関連付け機能を特徴とする。2025年の国内IT市場規模は26兆6412億円(前年比8.2%増)で、2023~2028年の年間平均成長率は6.3%になると予測されている。PLM市場では設計CAD中心からBOM・ナレッジ活用型SaaSへの移行が進み、Thingsの事業もこうした市場変化の中に位置している。
今回の資金調達には、i-nest capital、MEイノベーションファンド(三菱電機CVC)、新韓-GBフューチャーフローファンド、紀陽キャピタルマネジメント、Headline Asia、STATION Ai Central Japan 1号ファンド、キーエンスなど、国内外の事業会社やベンチャーキャピタルが参加している。
今回調達した資金は、PRISMの新機能開発やデータ利活用拡大のためのプロダクト強化、さらにはカスタマーサクセス・エンジニア・営業人材の採用や組織運営基盤の強化に充てる方針だ。今後は、製造現場での情報資産活用を推進し、業界を横断した品質および効率の向上、ナレッジ継承の支援を進める計画だ。