スタートアップの成長ストーリーが再構築された一年、次なるカギは「数の厚み」──ジャフコ グループ 坂氏


2025年は、日本のスタートアップを取り巻く環境において、これまでの前提が静かに揺さぶられ、再確認される場面が増えた一年だった。こうした状況を経て迎えた2026年。投資家は今、どのような視点でスタートアップエコシステムを捉えているのか。KEPPLEでは、2025年の振り返りと2026年の展望について、スタートアップ投資家複数名へのアンケート調査を実施。
今回は、TOPPANでベンチャー投資およびM&Aを通じた事業開発を担当する内田 多氏の回答を紹介する。
――2025年を振り返って、最も印象的だった出来事を教えてください。 (例:注目されたビジネスモデル、政策・規制など)
東証グロース市場の上場維持基準の見直しの公表です。9月の公表を受けて、起業家・スタートアップも投資サイドも、規模感と時間軸の更新に向き合っている印象です。
言葉で言うのは簡単ですが、既存の成長戦略を大きく更新・実現していくことは簡単ではない中で、スタートアップの戦略オプションとしてM&Aを具体的に検討するケースも増加している実感があります。
そしてM&Aにおいても、メガベンチャーや伝統的な事業会社がスタートアップを買収するという従来型のアプローチに加え、スタートアップ同士のM&Aによって、さらに大きな成長戦略をもとに急成長を目指すアプローチが増加している点も特徴的な潮流と感じています。2024年以前もいわゆるロールアップモデルのようなスタートアップ同士のM&Aは見受けられましたが、会社としてのステージやビジネスモデルを問わない戦略オプションとして、M&Aが一般化していくきっかけになった大きな出来事だったと考えています。
――2025年の調達環境の変化をどのように捉えていますか?課題や気づきがあれば教えてください。
海外の投資家や国内の事業会社(CVCのような定常的な投資の仕組み以外)からのスタートアップへの大きな金額の投資が印象的でした。全体感として、従来の国内VC・CVCからの株式での資金調達以外に、金融機関や専門ファンドからの融資や、研究開発型スタートアップを中心とする公的機関(NEDOなど)からの助成など、億円単位の資金調達における選択肢が広がっているという実感もあります。
株式での資金調達においては、最も印象的だった出来事で言及した上場維持基準の見直しを受けて、投資サイドのEXITに係る解像度が高まった結果、各調達時も資本政策全般を今まで以上に具体的な議論がなされていると思います。資金調達に関する選択肢が広がっている中で、株式での資金調達を選択する場合は、スタートアップも投資家も、投資としての出口戦略について、方法や時間軸の観点でより柔軟な姿勢で、複数のオプションをより具体的に想定することが必要と考えています。
――2026年に注目するセクターとその理由を教えてください。(海外トレンドや国内の動向なども含めて)
AIは産業変革の軸として引き続き注目しています。
AIエージェントやパーソナライズAIの構築過程で生じるオペレーションや作業をBPOとして受けることは、これまで同様に需要の大きい領域と考えています。2026年では、このAIの実装過程で生じる需要から進んで、AIと協働していくための技術開発や事業開発が顕在化してくると思います。物理的なロボティクスや計算・コンピューティングもそうですし、AIによって、個人と法人の情報の非対称性が縮小はされていく中で、正確な情報・事実を選別する技術とオペレーションという面でのセキュリティも重要度が高まると考えており、より注目していきます。
産業変革とそのための事業開発というアプローチにおいては、私たちも事業会社の1社として、個々のプロダクトやサービスではなく、ポートフォリオやサプライチェーン全体の最適化を軸に試行していくことが必要と考えています。
――2026年の資金調達環境について、どのような見通しを持っていますか?また、スタートアップが備えておくべきポイントは何だと思いますか?
全体での資金調達額については、大幅な変動はないのではないかと考えています。
繰り返し言及している上場維持基準の見直しはありますが、結局は成長戦略と資本政策に関するスタートアップと投資家の合意形成だと思います。
プライマリー投資では、「①大きな成長戦略を有するスタートアップに対する以降の追加投資を基本とする早期投資、②比較的早期にキャッシュフローがプラスになり、他社へのM&A(グループイン)を見込む早期投資」など、シード・アーリー期から規模と時間軸の粒度を上げた成長戦略や資本政策の迫力が求められる。ミドル期以降では、従前スケーラビリティを重視し、実績も蓄積してきたスタートアップには、引き続き投資競争がある。必ずしも単独での成長にこだわらない・踊り場に差し掛かったスタートアップ等、戦略的にセカンダリーやM&Aの選択を採っていく。というようなイメージです。
マイナー・メジャー×プライマリー・セカンダリーといった選択肢の中で、「いつ」「どのくらい」という観点をスタートアップと投資家で合意形成していく粒度を高めることで、資金や株式の異動は、むしろ加速していくのではないかと考えています。
――「スタートアップ育成5か年計画」発表からの3年を振り返り、2027年度に国内で10兆円規模の投資額を実現するうえでの課題や、必要なピースは何だと思いますか?
ここ3年間で実感していることの一つに、スタートアップ関連の仕事に取り組む人材が大きく増加していることです。
スタートアップ自体で働く方々はもちろん、スタートアップを顧客としたり、その顧客となったり、という取引関係を有する人が本当に増えたなと感じます。かくいう私もTOPPANという伝統的な企業の中でCVC組織の一員として取り組んでいる1人です。この人材の集まりは、10兆円には届いていないものの、スタートアップへの投資額の増加が後押ししていることは間違いないと思います。
この投資額の増加について、より角度を上げていくためには、ヒト・モノ・カネで言う、モノにあたる事業の規模と数が必要なピースと考えます。分解すれば、投資資金の出し手にしっかりとリターンを提供できるスタートアップ投資家が増えること、そして投資家がリターンを出せるのは大きな価値を生み出してくれるスタートアップが増えること、さらには、大きな価値を創出してくれるスタートアップの挑戦に貢献する人が増えること、という要素において、1桁ずつでも目指す規模を大きくしていくことが重要という考えです。
スタートアップも投資家も全体数は増えてきた中で、閾値としての規模を上げて実行していくことが、自戒を含めて必要と考えています。
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