スタートアップの成長ストーリーが再構築された一年、次なるカギは「数の厚み」──ジャフコ グループ 坂氏

スタートアップの成長ストーリーが再構築された一年、次なるカギは「数の厚み」──ジャフコ グループ 坂氏

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2025年は、日本のスタートアップを取り巻く環境において、これまでの前提が静かに揺さぶられ、再確認される場面が増えた一年だった。こうした状況を経て迎えた2026年。投資家は今、どのような視点でスタートアップエコシステムを捉えているのか。KEPPLEでは、2025年の振り返りと2026年の展望について、スタートアップ投資家複数名へのアンケート調査を実施。

今回は、2012年にジャフコ(現・ジャフコ グループ)に入社以来、一貫してベンチャー投資業務に従事し、投資先支援各チームの基盤を構築した経験も持つパートナーの坂 祐太郎氏の回答を紹介する。

AI前提の業務設計が、競争力を左右するフェーズに

――2025年を振り返って、最も印象的だった出来事を教えてください。 (例:注目されたビジネスモデル、政策・規制など)

2025年は、生成AIや AI-BPO、Vertical SaaS の領域において、これまでの「PoC が並ぶ段階」から「実際の業務のど真ん中に入り始めた段階」へと進んだ一年だったと感じています。AIが単なる業務支援ツールではなく、人が担ってきた高度な判断やナレッジワークまで含めて、業務プロセス単位で置き換えに向かい始めた点は非常に象徴的でした。

技術的には高度な業務でも AI で代替することは「理論上は可能」でしたが、現場ではセキュリティや責任分担、運用体制、リスク管理といった要因から、本格活用は限定的でした。2025年は、その "実装上の摩擦" が少しずつ解消され、「試してみる」段階から「領域によっては、業務運営に不可欠な基盤へ近づきつつある」転換点だったと捉えています。

また、大企業においても導入判断のスピードが上がり、コスト削減や効率化にとどまらず、AI と人・オペレーションを一体で設計する AI-BPO / BPaaS 型の取り組みが増えました。既存プロセスに AI を取り入れるのではなく、AI 前提で再設計するプロジェクトが広がってきたことが、この一年の大きな変化だったと感じています。

――2025年の調達環境の変化をどのように捉えていますか?課題や気づきがあれば教えてください。

2025年の資金調達環境を振り返ると、「資金が出にくくなった」というより、企業の"実態"や"将来のつくり方"が丁寧に見られるようになり、資金が集まる企業とそうでない企業の違いが、より明確に浮かび上がった一年だったと感じています。グロース市場の時価総額やマルチプルのつき方にも表れているように、すべての企業が一律に評価されるのではなく、将来的に世の中のデファクトとなり得るかに加えて、その中身や進め方がより具体的に問われる環境へと移ってきた印象があります。

その中で、数十億円規模の大型調達を実現する企業も着実に増えてきました。ただしそれは、誰もが大規模調達できるようになったという意味ではありません。売上の再現性や事業オペレーションの土台、将来の経営オプションを取り得る設計ができているかどうか。言い換えると、ビジョンだけでなく「どのように成長を積み上げていくのか」を具体的に語れるかどうかが、より強く問われるようになってきた一年だったと感じています。

――2026年に注目するセクターとその理由を教えてください。(海外トレンドや国内の動向なども含めて)

2026年に注目しているのは、AI-BPO / BPaaS に加えて、AI を前提に"事業オペレーションそのもの"を再構築した実業体です。従来、人手と固定コストを前提としていた領域において、AI によってプロセスそのものが再設計され、一人当たり生産性・利益率・売上高成長を同時に引き上げる収益構造が生まれつつあります。

イメージとしては、「AI ナイズされた商社」や「AI ナイズされた人材紹介会社」など、これまで人手中心で運営されてきた産業モデルにおいてプロセスの大部分が、AI とシステムを前提としたオペレーションへ置き換わっていく姿です。

これは単に AI ツールを提供するモデルではなく、AI を事業の中心的なオペレーション基盤として内在化し、自らが実業を営むプレイヤーとなるモデルです。その結果、一人当たり売上高が高く、粗利と成長率を同時に獲得できる「強い収益構造」を持ち得ます。

部分的な自動化ではなく、プロセスの再定義そのものを通じて、顧客価値と事業モデルを同時に変えていく点にこそ、今後数年における大きな成長テーマの可能性を感じています。

――2026年の資金調達環境について、どのような見通しを持っていますか?また、スタートアップが備えておくべきポイントは何だと思いますか?

2026年の資金調達環境については、スタートアップへの資金供給が大きく減少していくとは考えていません。一方で、東証グロース市場における「上場5年後で時価総額100億円」という維持基準の厳格化にも表れているように、市場はこれまで以上に「企業としてどこまでスケールし得るのか」という視点で事業を評価するようになってきたと感じています。

その前提に立つと、スタートアップ側で重要になるのは、強みを抽象的に語ることではなく、どの"数値"において市場平均から外れた異常値を出し得るのかを、明確に設計していくことだと思います。例えば、売上高成長率や利益率、ユーザー数・導入社数の伸び、継続率や利用頻度、CAC/LTV など——※あくまで一例ですが——どの指標を突破点として磨くのかを、早い段階から意識しておくことが重要になっています。

また、これらの指標は単なる評価項目ではなく、仮説検証・顧客理解・オペレーション改善の積み重ねの結果として立ち上がっていくものだと考えています。どの指標で突出していきたいのか、そのためにどのプロセスを積み上げているのかを具体的に語れる企業ほど、成長ストーリーがより立体的に伝わると感じています。

広がりのある市場ドメイン × 突き抜けた指標を明確に定義できていること

この状態を描けている企業は、2026年においても大型の資金調達を実現できる可能性が高いと考えています。

――「スタートアップ育成5か年計画」発表からの3年を振り返り、2027年度に国内で10兆円規模の投資額を実現するうえでの課題や、必要なピースは何だと思いますか?

この3年間を振り返ると、より大きなスケールを前提にチャレンジできるスタートアップ企業が、確実に増えてきたと感じています。時価総額1000億円規模に到達する企業や、その成長過程に関わる人の数が広がり、より大きな成長を"現実的なもの"として捉えられる環境が少しずつ整ってきました。

一方で、2027年度に向けた国内 10 兆円規模の投資額という観点で見ると、まだ絶対数としての厚みは十分とは言えないとも感じています。スケールを目指せる企業は増えつつあるものの、挑戦が継続的に生まれ続ける"母集団"には、もう一段の広がりが必要だと考えています。

この点は、米国の事例からも示唆があります。過去30年ほどの間に生まれ、グローバルに成長を遂げた大手テクノロジー企業は、成長の過程で多くのスタートアップを買収し、M&A の重要な担い手としてエコシステムを牽引してきました。そのプロセスに関わった人材が次の挑戦に踏み出し、新しい企業や事業が生まれていく——こうした挑戦の循環が、より大きな企業と、新しい挑戦者の両方を生み出してきたと理解しています。

日本においても、1000億円規模の成長過程に関わる人が増え、その中から「次は1兆円を目指す」という挑戦が生まれていく循環を、どれだけ広げられるかが重要になると考えています。

より大きな挑戦が可能な企業が現れ始めた今、
次の課題は、その"数の厚み"をどこまで増やせるか。

それこそが、2027年度に向けた 10 兆円規模の投資を実現するための、最も重要なピースだと感じています。

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