スタートアップの成長ストーリーが再構築された一年、次なるカギは「数の厚み」──ジャフコ グループ 坂氏


2025年は、日本のスタートアップを取り巻く環境において、これまでの前提が静かに揺さぶられ、再確認される場面が増えた一年だった。こうした状況を経て迎えた2026年。投資家は今、どのような視点でスタートアップエコシステムを捉えているのか。KEPPLEでは、2025年の振り返りと2026年の展望について、スタートアップ投資家複数名へのアンケート調査を実施。
今回は、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)で投資および事業開発を管掌するパートナーの河原 三紀郎氏の回答を紹介する。
――2025年を振り返って、最も印象的だった出来事を教えてください。 (例:注目されたビジネスモデル、政策・規制など)
2025年は、これといった大きな変化が顕在化せず、2023年から続くアフターコロナの流れが継続・加速している印象でした。「東証の100億円問題」や上場スタートアップの粉飾決算問題などもありましたが、ポジティブな印象としては、2025年8月にAxelspaceが上場し、2024年に上場したSynspectiveとAstroscaleと合わせ、2018年頃に投資した小型衛星スタートアップ3社が全て上場してくれたことが個人的には嬉しかったです。スペースXの上場の報道などもありますが、宇宙関連のスタートアップのステージが変わった印象があり、今後の大きな発展に期待しています。
宇宙を含めて、私自身が注力してきたディープテック領域は、10年前はまだ研究開発型スタートアップと言われていた時代から考えると隔世の感があり、2025年も着実にこの領域の取り組みは進歩しており、今後もグローバルに活躍するスタートアップがさらに増えてくることを期待しています。
――2025年の調達環境の変化をどのように捉えていますか?課題や気づきがあれば教えてください。
2025年の国内の資金調達環境の全体感としては、重苦しさが続いている印象です。実際、統計でも2022年をピークに社数、金額とも低下傾向が続いており、資金調達の二極化、つまり、集まるスタートアップにはより集まるが、全体としては調達に苦労するスタートアップが多い状況で、我々の投資先も同様です。
国や業界全体でいくつか改善策が取られているものの、現時点では反転する兆候が見られない状況が続きますが、個人的にはあまり悲観しすぎない方が良いと考えています。
もともとスタートアップの資金調達は、個別のスタートアップの資金調達が日々ドタバタするのに対し、全体としては緩やかに変動する傾向があります。長期的な観点では、現在の重苦しさは単純に循環のボトムであるというだけで、想定の範囲内という理解をしております。
長い視点で過去を振り返れば、シリコンバレーは当然として、他のグローバルなエコシステムでもこういった循環の波を乗り越えながら、むしろその後に大きな成長につながっていたことは歴史的事実であり、日本のスタートアップエコシステムの成長ポテンシャルはまだまだ大きいと確信しています。
個人的には比較的楽観的にとらえ、未来を見据えながら地道に取り組む良いタイミングだと期待しています。
――2026年に注目するセクターとその理由を教えてください。(海外トレンドや国内の動向なども含めて)
世界における地政学的な影響から、この3年ぐらいで日本のグローバルにおけるポジショニングは大きく良く変わってきており、日本のスタートアップ、特に私達が注力しているディープテックにとっても、追い風になると思います。
ディープテックの中でも、宇宙や核融合などへの注目が顕在化している一方で、バイオの低迷があります。東証グロース市場での上場だけを目指す展開から、M&Aに主軸を移すような動きもあり、2026年に成功例が出てくることを期待しています。
AIは、2026年も引き続き大きな話題が出ると思いますが、NVIDIAやOpenAIの短期的な話題よりも、その影に隠れている長期的なトレンドを変える可能性のある変化を個人的には重要視しています。AIはもはや生活の一部に入り込んでインフラとなっていく中で、スタートアップにとっても、AIを単純に使えばよかった時代から、より深い理解と活用が必要になってきます。
具体的には、ソフトウエアだけでなく今後出てくる省電力の新しいAIチップなどのハードウエアとの融合、ビッグデータとアルゴリズムのより深い融合(業界特化型の深化など)、コンピュータ基盤の光化(通信が銅線から光ファイバーに置き換わってきた歴史がこれからコンピュータの中でおきる)、などです。
――2026年の資金調達環境について、どのような見通しを持っていますか?また、スタートアップが備えておくべきポイントは何だと思いますか?
先にお話しした通り、資金調達環境の反転の兆しはまだ顕在化しておらず、二極化も続くと思っています。そのため、個々のスタートアップとしては手元のキャッシュを厚めに、地道に開発や事業のトラクションを積み上げることが一番重要だと思っています。
一方で、都区内ではスタートアップが活用できる助成金が増えたり大型化する傾向や、デットによる調達などは今後も増える傾向は続くと思うので、積極的に活用していくと良いと思います。
また、スタートアップ側でも、今までのシンプルなIPOを目指す展開から、M&Aの可能性を模索したり、グロースファンドやセカンダリ投資家の活用など選択肢が増えると思います。これらの取り組みは業界としてまだ経験値が不足しており難しい点もありますが、徐々に事例も出てきているので参考にされると良いと思います。
夜明け前が一番暗いので、現状に悲観することなく、私達自身もできることを積み上げていきたいと思っています。
――「スタートアップ育成5か年計画」発表からの3年を振り返り、2027年度に国内で10兆円規模の投資額を実現するうえでの課題や、必要なピースは何だと思いますか?
育成5か年計画もすでに3年が過ぎており、色々な議論はすでにされて、課題はほぼ整理されてきていると認識しています。
具体的には、スタートアップのGo Globalの推進、 東証グロース市場の活性化、小型上場問題、国内VCのさらなる育成、大企業との連携、海外VCやスタートアップの呼び込み、税制やVisaなどの法的整備、などなど。課題は整理されているので、あとは実践あるのみ!
正直、数値的には、現在足元の投資額が減っている中で、2027年度の国内で10兆円規模というのはほぼ無理であるとは理解しつつ、個人的には全く悲観しておらず、海外と比較しても、日本全体の経済規模と、懸念はされつつもまだ国際競争力がある科学技術の基盤があるという観点で、10兆円という規模は、長期的に十分実現可能な数値だと考えています。
実際、過去10年間で日本の投資額は3~5倍となっている実績がある一方で、成長余地はまだまだ大きく、ホワイトスペースだらけというのが個人的な印象です。日本のポテンシャルや現場感覚では、10兆円はむしろ小さいぐらいに考えております。
これからは、具体的な成功事例を地道に一つ一つ積み上げていくことが必要で、一定の時間もかかると思います。成熟化した日本にとって、スタートアップは今後の長期的な成長ドライバーであることは明白で、10年後、20年後にまた振り返るのを楽しみにしています。
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