ナレッジ管理SaaS「Qast」開発のanyが約10億円調達、マルチプロダクト戦略推進へ
ナレッジプラットフォーム「Qast」(キャスト)を運営するany株式会社がシリーズBラウンドにて、第三者割当増資と北國銀行からのデット・ファイナンスによる総額10.55億円の資金調達を実施したことを明らかにした。今回の調達により、累計の調達額は約17.5億円となった。
今回のラウンドでの引受先は、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ、農林中金キャピタル、横浜キャピタルなど10社。
Qastは、企業向けのナレッジプラットフォームサービスだ。Qastでは、各所に散逸しがちな社内情報をまとめて保持し、業務上のナレッジを集約する。ユーザーはQA形式で情報を探したり、生成AI搭載の機能を活用して簡単に情報を検索したりできる。
2024年11月現在で、Qastの契約社数は数百社に上り、ユーザー数は7万人を突破した。
今回の資金調達により、Qastの生成AI機能の向上やセカンドプロダクト開発、ナレッジマネジメントの認知拡大を目指すPRを実施し、2029年12月までにARR100億円を目指す。
今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 吉田 和史氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
資料をシステムに取り込むだけでナレッジベースを構築
―― Qastについて教えてください。
吉田氏:Qastはナレッジマネジメントプラットフォームです。Qast上に作成したドキュメントや、アップロードした社内資料、「社内知恵袋」のようなQA形式での回答を蓄積します。ユーザーは質問しやすい環境で部署横断で知りたいことを質問でき、高い検索性で知りたい情報を検索できます。今年AIを使った機能を実装しまして、蓄積したデータをAIが学習して自動で回答を返すなど、機能が向上しました。
社内に散らばった大量のドキュメントや個人が持っている暗黙知を集約していつでも呼び出せるようにすることで、組織内でナレッジが循環します。知識や情報を持つ人はそれをアウトプットでき、情報を必要とする人は情報にすぐ辿り着けるので、組織全体の成長サイクルを速めます。
―― 社内におけるナレッジの管理にはどのような課題があるのでしょうか。
ナレッジマネジメントは「個人が持つ暗黙知や形式知を集約し、組織全体で活用できるようにする経営手法」と定義されています。個人が持つノウハウを組織の集合知に変えて全体の生産性を高めようということです。
当社は毎年アンケートをとり、ナレッジマネジメントの認知度や浸透状況、取り組みについてヒアリングを行っています。そこから見える実態は、ナレッジマネジメントを認知しているという回答は半数、実施しているが課題があるという回答が8割近い状況です。
組織が大きくなるほどサイロ化しやすく、業務に必要な情報が属人化したり、本部が用意した社内資料を現場では見つけられなかったり、必要な情報を探す負荷が高くなります。この課題に対して、現状は明確なソリューションが浸透していないのが実情です。
従来のナレッジマネジメントは、個人が保有する暗黙知を誰でもアクセス可能な形式知化するという点に重点を置いていました。当社はそこにも着手していますが、知識を持つ個人が積極的にアウトプットしなければ活用が進まないという課題も見えました。そこで、社内に眠っている資料をナレッジマネジメントの基礎にするというアプローチも合わせて行っています。
―― Qastの開発経緯について教えて下さい。
創業後に手掛けて事業売却したプロダクトはマーケットインの発想が強かったこともあり、次の事業はプロダクトアウトの発想で作ろうと決めていました。BtoBの領域でチャレンジしたいという前提で社会課題をリストアップしていくと、ナレッジマネジメントに関する課題がありました。
社内情報の多くはアナログでほぼ管理できておらず、情報を持つ人を探して聞く必要があります。情報を持つ人も、多くの人から同じ質問を受けることになり非効率です。このような、社内情報へのアクセスのしにくさや暗黙知を形式知化できていない課題は、未解決の領域なのではないか。そう仮説を立てて、検証の過程で多くの企業が課題視していることもわかったため、プロダクト開発に乗り出しました。
サービスのローンチ直後は、ITベンチャーに興味を持っていただくケースが多数でしたが、ツールをリプレイスするコストはかけられないと最終的に判断される場合が多く、契約獲得は困難でした。約半年を経過した頃、オウンドメディアを通じてエンタープライズ企業の流入が増えていて、なかには「まさに探していたサービスです」と評価いただけることもありました。それからエンタープライズに注力した事業展開を進めています。
「匿名」で投稿ハードル下げ全社活用推進
―― 競合サービスと比較したQastならではの特徴について教えてください。
組織横断で知見を溜めることの難易度はやはり高く、機能があれば成立するものでもないと感じるところですが、Qast(キャスト)の優位性と言えることはいくつかあると思います。まずポジショニングです。Qastは、利用人数の多い大規模なエンタープライズで、かつSaaSを日常的に利用していないユーザー層がコアなターゲットです。業種でいえば建設業や製造業を始めとする、非IT業種です。日本企業の97%は非IT業種が占めているにもかかわらず、これらのユーザーに向けてソリューションを提供しているプレイヤーは現状ほとんど存在していません。
それから、ITリテラシーに頼らないUXも特長です。必要な情報に迷わずたどり着けるよう、ユーザーによるカスタマイズ性をなるべく排除したシンプルなUIにするなど、現場が負荷なく使えるように工夫しました。とくに、質問を投稿しやすい仕掛け作りにはこだわっています。全社規模のユーザーが見るところで質問をするのは心理的なハードルが高いことも考慮し、匿名での投稿機能を設けました。
さらにコンサルタントによる支援を行い、高い利用率を担保しています。ナレッジマネジメントの目的やゴールは企業によって違います。生産性向上、売上増加、人材育成。目的がどれかによって蓄積すべきナレッジは異なります。企業ごとのゴールに基づいたKPIを設定し、伴走しながら支援するコンサルティングサービスにより価値提供できていると思います。
コンパウンド戦略で5年以内にARR100億円の達成へ
―― 調達資金の使途について教えてください。
まず、組織体制を強化していきます。これまでは少数精鋭で取り組んできましたが、成長速度を上げていくために組織を拡大していくフェーズです。具体的には、Qastの生成AI関連の機能向上と、Qastの顧客セグメントに訴求するセカンドプロダクトのローンチに向けて、人材を増やして体制を整えていく方針です。
さらに、事業ドメインやプロダクトに関する認知拡大のためのPRに注力します。当社が毎年発刊する「ナレッジマネジメント白書」もそうした取り組みの一つですが、ナレッジマネジメントという領域やそのソリューションとしてのQastをより多くの人に知ってもらえるよう、さらなるPRに取り組んでいきます。
―― 今後の長期的な展望は。
将来的には日本を代表するようなSaaS企業になっていきたいですね。現在上場しているSaaS企業でも、ARRが100億円に到達している会社は十数社程度ですが、anyも5年以内にその規模に到達することを目標に掲げています。
達成するための大方針として、Qastの顧客セグメントを強固にし、複数のプロダクトを組み合わせるコンパウンド戦略をとっていきます。anyのプロダクトを複数組み合わせて利用することで、ユーザーにとってメリットがある状態を作っていきたいです。展示会を活用してマーケティングも強化します。
現在anyは、事業の下地ができている状態で10億円以上の資金調達ができました。ここでジョインする方には、面白いチャレンジを能動的にしてもらえるフェーズだと思います。チームで事業を拡大していきたい人にとっては最適な環境を提供できると自負しているので、当社や事業に少しでも興味を持ってくださった方はぜひご連絡ください。