ディープテックを再定義する時代、事業構造の本質が問われる転換点──Beyond Next Ventures 橋爪氏

ディープテックを再定義する時代、事業構造の本質が問われる転換点──Beyond Next Ventures 橋爪氏

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2025年は、日本のスタートアップを取り巻く環境において、これまでの前提が静かに揺さぶられ、再確認される場面が増えた一年だった。こうした状況を経て迎えた2026年。投資家は今、どのような視点でスタートアップエコシステムを捉えているのか。KEPPLEでは、2025年の振り返りと2026年の展望について、スタートアップ投資家複数名へのアンケート調査を実施。

今回は、Beyond Next Ventures株式会社 執行役員/パートナー 橋爪 克弥氏の回答を紹介する。

ミドル〜レイター資金の厚みと経営人材の循環が鍵に

──2025年を振り返って、最も印象的だった出来事を教えてください。 (例:注目されたビジネスモデル、政策・規制など)

2025年で最も印象に残ったのは、高市政権が発表した17の成長戦略分野によって、国として推し進めるべき重点領域が明確化されたことです。また、成長戦略分野の提示に加え、「危機管理投資」という言葉が公的文脈で扱われ、経済安全保障や防衛関連が投資テーマとして輪郭を持ちました。官が重点分野を明確にしたことで、民間としても「どこに時間と資本を投下するのか」を創業前から設計しやすくなった点は大きいと感じています。

同時に、ディープテックスタートアップへの投資の大型化が目立った一年でもありました。MUJIN、Sakana AI、Turing等に象徴される100億円超の大型資金調達は、政府が明確に打ち出した重点分野と重なりながら、技術開発や事業の前進に応じて資本が積み上がってきた結果とも捉えられます。

もちろん一概には言えませんが、少なくとも期待値だけで評価が先行する局面は減り、トラクションを伴うかたちでの資金調達が増えてきている点は、これまでとの違いとして意識しています。

また、政策面ではスタートアップ・エコシステム拠点都市や助成金、大学連携といった支援インフラはかなり整いました。一方で、経営人材やミドル〜レイターステージにおける資金供給、海外展開の実現といった部分は依然としてボトルネックであり、制度が充実している今こそ、この3つを束ねて前に進められるかが、2026年以降の競争力を左右すると見ています。

──2025年の調達環境の変化をどのように捉えていますか?課題や気づきがあれば教えてください。

2025年の調達環境は、資金が集まる企業とそうでない企業の差が明確になりました。大きな要因としては、東証の上場維持基準の見直しに伴い、上場時に求められる水準が明確に上がったことです。その結果、IPOを想定していたもののバリュエーションが想定よりも低いケースや、過去に数億〜数十億円を調達してきたものの、売上・導入実績・量産体制といった事業の進捗が当初の計画ほど積み上がっていない企業が苦戦し始めている印象です。シード・アーリー期においても、技術の新規性だけでは評価されにくくなり、「事業化までの道筋」「次ラウンドで資本が継続して供給される蓋然性」までをこれまで以上に厳密に見られるようになりました。

この傾向は海外、とりわけ米国でより先鋭化しています。私が担当するデジタルヘルスやヘルステック領域では、シリアルアントレプレナーを除けば、「ARR(年間経常収益) $1M」などトラクションを重視する見方が強く、初期臨床データの厚みや薬事承認プロセスの明確性が投資判断の前提になっている印象です。

PoCや初期的な臨床実績が十分でない企業にはなかなか資金が届きにくく、実際に2024年の米国におけるアーリーステージの資金調達額は$1B超に回復した一方で、$50M以上の大型調達はかなり限定的でした(2025年第1四半期時点)。

ディールサイズは引き続き小規模にとどまり、投資判断はますます臨床データの進捗と薬事戦略の明確さに依存する傾向が強まっています。日本も数年遅れて、同じ基準で選別される局面に入っていくと見ています。

──2026年に注目するセクターとその理由を教えてください。(海外トレンドや国内の動向なども含めて)

私たちは引き続きディープテック領域に注目しています。17の重点投資分野など政府支援が厚い領域は、国内の研究開発投資の流れが継続しやすいだけでなく、海外から見たときにも日本の優位性を打ち出しやすい領域が多いと捉えています。

ただ、「ディープテック」という言葉自体は見直す時期に来ていると感じています。重要なのは技術の深さそのものではなく、「事業成長における本質的な論点がどこにあるか」です。例えば、創薬のようにサイエンスや研究開発の進捗が事業価値と強く相関する領域がある一方で、医療機器やデジタルヘルスでは、研究開発の比重が大きい手術支援ロボットのような領域はありつつも、多くは臨床ニーズを適格に捉え、薬事や保険償還の戦略、ビジネスモデルの構築を通じて製品化させていくことが最大のポイントになります。

私たちが力を入れているフードテック領域においても、優れた革新的技術を持ちながら、最終的に消費者にいかに製品を届けるかが重要になるという意味で、ボトルネックの置きどころが異なります。この見極めを誤ると、優れた技術であっても事業としての時間軸が合わなくなります。

東京大学の馬田氏が「ディープテックスタートアップをRDD&Dで分類する」と述べられているように、注目されるディープテックを再定義・再分類することで事業戦略の見直しや国の支援方針の検討にもつながり、投資判断や支援の仕方、制度設計は、この分類ごとに大きく変わるべきだと考えています。

実証や事業開発の比重がより高い医療機器・デジタルヘルス・アグリ・フードテック領域ではM&A(クロスボーダーを含む)がさらに増える可能性がありますし、研究開発先行の領域であるバイオ、新材料、量子などでは、単一の研究シーズに依存するのではなく、複数の研究者・技術を束ねて、創業前から技術をロールアップし、国家的なスタートアップを生み出す力が求められると考えています。

──2026年の資金調達環境について、どのような見通しを持っていますか?また、スタートアップが備えておくべきポイントは何だと思いますか?

2026年の資金調達環境について、外部環境の変化が速く、前提が短期間で更新されやすい局面が続く以上、資本が向かう先は引き続き選別的になりやすいと感じています。

その中でスタートアップが備えておくべき最大のポイントは、「時間をどう短縮するか」です。LLMの登場を含むAIの進展によって、仕事や生活のあり方自体が見直されるいま、10年単位の将来はもちろん、資金調達のマイルストーンを置く1〜2年後でさえ外部環境を読み切るのが難しくなっています。

だからこそ、明確な事業進捗を継続的に示しながら、変化の激しい市場に対して常に製品やサービスを柔軟にブラッシュアップし続け、短いサイクルで仮説検証を回せる組織であるかどうかが、投資判断において重要なポイントになりつつあります。

もう一つは、国内投資家からの資金調達だけに依存しない事業設計です。海外投資家、海外拠点、海外市場を「いずれ」ではなく、最初から織り込んでおくことが重要だと考えています。創業前の事業計画をつくる段階から、どの市場で価値を証明し、どの資本とネットワークを味方につけるのかを考えておくことが重要だと考えています。

──「スタートアップ育成5か年計画」発表からの3年を振り返り、2027年度に国内で10兆円規模の投資額を実現するうえでの課題や、必要なピースは何だと思いますか?

この3年を振り返ると、政策の後押しもあり、挑戦の数だけでなく、質も上がってきたと感じています。ディ―プテック領域でも担い手の裾野が広がり、創業前からグローバル市場を見据えて入念に準備を重ねるケースが増えています。

そのうえで、10兆円規模を実態として積み上げていく際の最大の課題としては、ミドル〜レイターステージで数十億・数百億円を供給できるプレイヤーが国内で不足している点にあると考えています。その結果として、事業が十分に育ち切る前にIPOを選ばざるを得ない状況が続き、成長の果実を次の挑戦に還流させにくい構造になってしまっている印象です。

もう一つ重要なのが、経営人材の循環です。とりわけディープテックでは、技術の優位性だけでなく、事業をつくり、伸ばし、最後までやり切るための経営経験が成果を大きく左右すると考えています。

そこで注目しているのが、上場や事業売却を経験された起業家や経営者の存在です。足元では、2回目の起業をディ―プテック領域で挑戦される方が増えており、今後こういった事例がさらに増えることで、事業成功の再現性が高まりやすくなると考えています。

政策・資金・人材を点ではなく線としてつなぎ、成長の途中で資本や人材が途切れない設計にしていくことが、2027年度に向けて欠かせないピースだと思います。

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