ショートドラマ配信アプリ「BUMP」を運営するemole株式会社がプレシリーズAラウンドにて、第三者割当増資による2.6億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、千葉道場ファンド、サムライインキュベート、D4V(Design for Ventures)、朝日メディアラボベンチャーズ、ココナラスキルパートナーズ、アドウェイズ・ベンチャーズの6社。
今回の資金調達により、安定的なコンテンツの供給体制構築やグローバル展開を加速する。
スキマ時間に楽しむショートドラマ
BUMPは、1話3分で隙間時間に楽しむことができるショートドラマの配信アプリだ。各作品、3話までは無料で視聴が可能で、4話以降は1日に1話待てば無料で視聴できるほか、広告を視聴することで1日に3話まで無料視聴、あるいは1話あたり67円を課金して視聴することが可能だ。
emoleが独自に製作するBUMPオリジナルドラマのほか、テレビ局など外部クリエイターとの共同出資による制作委員会方式でのドラマ制作や、BUMP以外のメディア用に制作されたドラマを短尺に再編集した作品などを提供している。
1日1話待つことや広告を視聴することで、ドラマの最終話まで課金をせずに視聴が可能な一方、課金ユーザーも多い。BUMPにおける収益の約7割はユーザーからの課金によるもので、残りの約3割は広告収益となっている。BUMPで得た作品ごとの収益の一部はクリエイターに還元され、「制作原価」の回収前後で報酬体系が異なる。
また、ドラマ本編に限らず、作品の制作過程も映像コンテンツとして提供している点が特徴だ。
BUMPは2022年12月末にリリースし、2023年8月時点でアプリは50万DL、各SNSで公開するPR動画の総再生回数は4.6億回まで増加した。
今回の資金調達に際して、代表取締役 澤村 直道氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
ドラマ制作を足踏みさせるマネタイズの課題
―― これまで、テレビドラマや映画の制作にはどのような課題がありましたか?
澤村氏:現在はYouTubeやTikTokを通じて、誰もが自分の好きなことを自由に発信できる世の中になっています。しかしながら映画やドラマは、こうした中でも制作の民主化が進んでいません。
ドラマや映画の制作には多額の制作費がかかります。また、ドラマや映画は出演枠も限られ、大手事務所の役者が率先して採用されるなどキャスティングに関する情報の不透明性もあり、演技力のある若手役者が自分の演技を見てもらえる場所がないことは問題だと思います。
加えて、コストを抑えた短尺の作品を自身で制作してYouTubeで配信したとしても、広告収入だけでは安定収益にしづらく、クリエイターや役者が制作を続けることができないといったマネタイズに関する課題があります。
―― ショートドラマが注目される背景について教えてください。
TikTokなど、隙間時間を充実させる短尺のコンテンツは、特に若者層を中心に一般化しています。こうした中で映画やドラマのような1時間を超える長時間のコンテンツは、時間的な拘束が生じるために視聴へのハードルが高く感じる人が増えていると思います。
一方でドラマや映画自体が敬遠されているわけではなく、コンテンツの消費スタイルが変わってきているんだと考えています。映画やドラマが好きで、短時間で見れるのであれば楽しみたいという人は実はかなり多いのではないでしょうか。
また、ショートドラマは従来のドラマに比べて、1作品当たりの制作予算をある程度抑えることができ、制作の間口が広がります。ショートドラマで収益を得る仕組みを構築できれば、なかなか地上波のドラマに出演できない若手役者でも、自分の演技を作品として発信することができます。
ショートドラマでクリエイターに新たな機会を
―― BUMPにはどのような特徴がありますか?
BUMPは、従量課金型のショートドラマ配信アプリです。マンガアプリのように1日ごとに1話が無料で視聴できるほか、広告視聴することでドラマを視聴したり、各エピソードごとに課金したりして楽しむことが可能です。
また、ドラマ再生中にコメントやスタンプを送信することができます。ほかのユーザーが、自分が見ている場面に送ったコメントや、押されたスタンプが表示されることで、他の人と一緒にドラマを見ているような感覚を体験できる点は大きな特徴です。
ユーザーが好きな役者の出演シーンなど、任意のシーンを切り取ってSNSでシェアすることも盛んに行われています。今はまだ知名度がない役者でも、多くの人の目に触れるきっかけになるんです。
BUMPでは、ユーザーは作品や、作品に出演する役者の魅力に対して課金し、収益として還元されます。役者として挑戦する人が、BUMPを入り口にステップアップできるようなサービスにできるよう取り組んでいます。
―― 創業のきっかけを教えてください。
以前から、自分の好きなことに、同じ志を持つ仲間と挑戦していくことに幸せを感じていました。一方で、社会に出てから、純粋に自分のやりたいことで生きていくことができる人が多くないということも理解していました。好きなことに情熱を傾ける魅力を感じる中で、人々が挑戦できる世界を作ろうと思ったことが創業のきっかけです。
やりたいことや目標があったとしても、お金やノウハウなど、障壁になる要素はいくつかあります。その中でも、目標に向かって一緒に取り組む仲間を集めることが特に困難だと感じ、当初は仲間集めのマッチングプラットフォーム開発に取り組んでいました。
―― BUMPは、どのようなきっかけから着想を得たのでしょうか?
2018年にemoleを設立してから、多くの苦労がありながらも、好きなことに挑戦できる世界を作るというビジョンは変えずに取り組みながら、エンタメ領域に注力していくことを決断しました。
アーティストやクリエイターのYouTubeプロデュースや、ミュージックビデオの企画を通じた知名度の向上を支援していましたが、成功することもあればうまくいかないことも多々あります。
知名度を高めるために、彼らが多くの人の目に触れる機会が必要であると思ったことや、隙間時間で楽しめるコンテンツの需要の高まり、ビジネスとしてもマンガアプリの収益構造をリプレースできると考え、BUMPの立ち上げを決意しました。
日本のコンテンツを世界へ
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
前回のシードラウンドでは、ショートドラマの視聴ニーズや、テレビがある中でわざわざショートドラマへ課金するニーズがあるか検証することができました。今回の資金調達では、安定してコンテンツ供給ができる体制を確立することや、プロダクトの改善が主な目的です。
また、ドラマや映画の制作は利害関係者も多く、権利の管理が非常に複雑です。コンテンツの制作における制作会社などとのコミュニケーションコストも増加します。権利管理や利害関係者とのやり取りをある程度システム化することで、効率よく制作のサイクルを回していけるよう整えていきます。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
今後も多くのユーザーにBUMPでドラマを視聴していただくためには、コンテンツの充実度や質を高めることが非常に重要です。加えて、作品あたりの話数を増やすことでビジネスとしての収益拡大だけでなく、クリエイターへのさらなる収益還元につなげます。
また、今後もBUMPのDLを増やすことに注力していきます。5年以内にはユニコーン企業となり、1000億円以上の企業価値をつけての上場が目標です。この頃には、アプリのDL数は国内だけでも1000万超えを目指して取り組みます。また、日本のコンテンツを世界に発信するうえで、BUMPを世界中の人が使うプラットフォームとして成長させることは非常に重要だと考えています。
これまで広告収入に依存してきたテレビ業界は、今まさに構造が変わる過渡期にあると思います。BUMPのようなショートドラマの配信プラットフォームを活用して、テレビ局制作のコンテンツを配信することで収益を上げるモデルも、十分にポテンシャルがあります。当社と事業シナジーのある事業会社などと手を組みながら、業界を盛り上げていきたいと思います。