アフリカ農村部のデジタル化を先導、Dots forが描く未来とは

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KEPPLE編集部

アフリカ農村で通信ネットワーク網を構築する株式会社Dots forが、シードラウンドにてANOBAKA、クオンタムリープベンチャーズ、G-STARTUPファンドと複数のエンジェル投資家を引受先とした第三者割当増資による、総額1億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回の資金調達により、さらなる農村へのサービス提供やプロダクト開発の強化を目指す。

アフリカ農村部に通信インフラを構築

Dots forはアフリカ農村部を中心に通信ネットワーク網を構築し、デジタル化を推進する企業だ。農村住民に対してデジタルサービスと通信インフラ、デバイス販売を組み合わせて提供している。

アフリカの地方農村部では、地理的な問題や低い収入のために投資のリターンが見込めない背景から、通信設備が不足している。都市部の開発が優先されることで、約7億人の人口がいる農村部では通信インフラが整備されず、アフリカにおける急速な技術革新から取り残されている。

こうした現状に対して、Dots forは分散型無線ネットワーク技術「d.CONNECT」を利用して、通信設備の設置やデジタルサービスを提供している。これまでの基地局を中心としたスター型ネットワークとは異なり、複数の無線ルータを選択的に分散して送信することで、大規模な初期投資を不要とし、従来の通信サービスよりも安価に提供できる点が特徴だ。

分散型ネットワーク
ネットワークに接続することで、動画コンテンツの視聴など、各種デジタルサービスの利用を可能とする。数千本のエンターテイメントや職業訓練の動画コンテンツを見放題で提供し、住民が最新情報に触れる機会を創出することで、農村住民の収入増加を促進する。

農村への設備設置はDots forが行う。ネットワークへの接続には週次で利用料金を支払い、スマートフォンを持たない住民へは定額支払いによる販売も行っている。

現在はベナン、セネガルを中心にサービスを展開。2021年12月からサービス提供を開始して以降、これまでに延べ100を超える農村地域に導入されている。

今回の資金調達に際して、共同創業者兼CEOの 大場 カルロス氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

通信の普及で農村部の「消費」を「投資」に変える

―― 御社サービスの特徴や利用メリットについて教えてください。

大場氏:従来の基地局を中心とした中央集権的なインターネットではなく、ルータなどの設備一式をそれぞれの村に設置しネットワークに接続する分散型の通信網を構築することでデジタルサービスを提供しています。初期費用を抑えて通信インフラを提供できることがユニークなポイントです。

また、農村ではほとんどの人がスマートフォンを持っていません。そもそもインターネットへのアクセスができないので不要ということや、一括で購入する負担の大きさが主な理由です。当社はデジタルサービスだけでなく、週に400円程度の支払いで使えるスマートフォンの販売も行っています。

サービスを利用する農村の人々
発展の目覚ましいアフリカですが、その恩恵を受ける多くは都市部で、農村部の人々は取り残されてしまっています。通信などの巨大なインフラへの投資は都市部に集中し、農村部では通信がないことで、収入増加につながるようなデジタルを活用した自己投資が難しいのです。

通信インフラを通して、豊富な職業訓練動画などの最新情報に触れることで、彼らの知識や技術がアップデートされます。事業者の顧客獲得や、副業の開始による収入増加につながるはずです。例えば理容室であれば、ニューヨークで流行のヘアスタイルを勉強することで、他店舗と差別化したサービス提供や顧客獲得につながります。このようにDots forを通して収入が増えるケースが徐々に現れ始めています。

―― アフリカ農村部でサービスを展開する上でどのような点を工夫されていますか?

初期の商談時には、農村に当社社員が出向いて営業するほか、設備の設置以降の障害対応などは、当社が雇用するエージェントが対応します。

農村部では周辺の村同士の繋がりがとても強く、通信環境を提供していくうえでの関係構築が非常に重要です。また、村ごとに利用する言語も異なります。そのため、その地域の出身者を社員として雇用するほか、その村に住んでいる人を村ごとのエージェントとして採用しています。同じ村の顔見知りが対応窓口となることによるスムーズなコミュニケーションに加え、これまで農業しかなかった人たちへ、社員やエージェントとしての雇用や収入増加の機会を提供することにもつながります。

導入した農村の親戚が、近隣の村にいることも非常に多いです。一つの村で導入されると、隣接する農村へ口コミが広がり、周辺地域への普及も行いやすくなっています。

スタートアップスカウト

―― 創業のきっかけについて教えてください。

元々ソーシャルアントレプレナーシップに関心があったことや、中学教師をしていた母が若くして亡くなったことは大きなきっかけです。多くの人が母の死に涙している様子を見て、自分の人生においてこの先何を残せるかを考え、起業という選択に至りました。

Dots forの設立前は、タンザニアで農村の電力問題解決に取り組む日本のスタートアップで働いていました。農村へ足を運んで多くの課題を目にする中で、教育のように成果が上がるまでに時間を要する投資と比べて、通信環境を整えることは農村民の収入増加につながるなど、短期間で成果を得られるのではないかと思ったんです。

以前からこの分散型通信のアイデアは持っていましたが、通信機器やデバイスの高額な費用を背景に事業化を断念しました。しかし、現在では高性能で安価なルータやスマートフォンの普及が進み、ビジネスとしての採算が見込めると考えました。

私自身が多くの国を旅する中で、アフリカ農村が一番世界から取り残されていると感じましたし、伸びしろが非常に大きいマーケットと彼らの課題を解決できるアイデアがあるならばと、本格的な事業展開を決意しました。

アフリカの急成長を農村へも

―― 資金調達の背景や使途について教えてください。

2022年にはプレシードラウンドで4800万円の資金調達を行っています。アフリカ農村部で通信インフラのニーズが実際にあるのか、またスマートフォンを分割販売した際の返済が問題ないかなどの仮説検証を実施する目的で実施しました。

今回は、よりサービスレベルを高めるためのソフトウェア開発やハードウェアの改修、農作物の販売マッチング、採用強化が主な目的です。

通信環境を得て収入が上がっても、商圏が農村内で閉じていては、単なる小さなパイの奪い合いになります。そのため、通信という特性を活用して、都市や先進国のようなより大きな経済圏から収入を得て、農村の小さな経済圏を拡張することが重要です。その一例として、農作物を買い付けたい都市部のレストランオーナーやバイヤーをマッチングして販売できるサービスや、日本やアメリカなどの先進国からの仕事を農村住民が請け負えるサービスを構想しています。

―― 今後の長期的な展望を教えてください。

直近の2年では、サービス提供の拡大や農村民の収入の増加に注力します。職業訓練の動画コンテンツでスキル習得を促すほか、農作物販売のマッチングなど、より収入を得やすい環境を作ります。

加えて、事業で得られたデータを活用したサービスも検討中です。当社では、通信インフラの構築からデバイスの普及とサービス提供までを行うことで、これまで獲得が困難だったアフリカ農村部のあらゆるデータを収集しています。

例えば、農村住民のクレジットスコアを可視化することができます。こうしたデータを活用して、高い返済率の中で農機やバイクなどの高単価製品を販売するなど、メーカーが低いリスクでアフリカ進出できるような仕組みを構築したいと考えています。

現地の通信会社と協力しながら、ナイジェリアやコンゴ、タンザニアなどアフリカ地域の国々への進出も検討中です。中長期的には、アフリカに限定せず、南アジアやカリブ海の島など、人口が少なく、インフラ設備が不足している地域にフランチャイズモデルとして、弊社サービスを提供していくことも計画しています。

ラストフロンティアとして注目されているアフリカですが、現状フォーカスされているのは都市部です。しかし、今後のアフリカ市場の成長において、人口増加が目覚ましい農村部も欠かせません。通信インフラの構築を基にして、今後10年でアフリカ農村部におけるポジションを確立していくことが目標です。

その上で、日本企業との連携にも力を入れたいと考えています。日本のコンテンツをアフリカ農村向けに配信することや、バイク販売など、あらゆる連携を模索しながら取り組んでいきたいと思います。

株式会社Dots for

株式会社Dots forは、分散無線ネットワーク技術『d.CONNECT』を提供する企業。 『d.CONNECT』は、基地局を中心とした従来のスターネットワークとは異なり、複数の無線ルーターを介して分散方式で選択的に伝送する分散無線ネットワーク技術。インターネット通信網が未発達なアフリカ各地に点在する農村に設置し、常時インターネットアクセスや各種オンラインサービスを提供する。

代表者名大場博哉
設立日2021年10月22日
住所東京都千代田区外神田3丁目6番4号第一勧業信用組合秋葉原ビル5階
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