AIで母子の健康をサポート、途上国の分娩ケアに新風

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KEPPLE編集部


分娩監視装置のデータ解析AIおよび中央監視ソフトの開発を行う株式会社spikerがプレシリーズAラウンドにて、第三者割当増資による8300万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回のラウンドでの引受先は、インクルージョン・ジャパン、DGインキュベーション等。

今回の資金調達によりソフトウェアの販売ライセンス取得や、2024年のケニアでの販売開始を目指す。

胎児の危機にいち早く対応する

分娩監視装置は、胎児の心拍数と子宮の陣痛の圧力を計測し、分娩の状態を管理する医療機器だ。同社はAIを活用して、分娩監視装置で測定する胎児の心拍や妊婦の子宮収縮に関するデータ解析に加え、解析した内容を表示できる中央監視ソフトを開発する。

プロダクトイメージ
胎児に十分な酸素がいきわたっているかを観察し、データを解析することで、胎児への酸素供給が不十分な際にはアラートで知らせることが可能だ。

アフリカをはじめとした途上国では、医療人材の不足による周産期死亡(妊娠22週から生後7日までの胎児/新生児の死亡)が多く、同社のソフトウェアでこうした課題解決に取り組む。

すでにルワンダの一部の医療機関で治験を開始しており、その効果を検証している。今後は製品販売のライセンス取得を進め、2024年以降にケニアでの製品販売を目指す。

今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 笠井 綾子氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

途上国の医療人材不足を支援

―― これまで、アフリカをはじめとした途上国での出産にはどのような課題がありましたか?

笠井氏:胎児の死亡原因に関する調査で、約40%が呼吸障害により起こる仮死状態であることがわかっています。加えて、周産期死亡の約95%は途上国で発生し、年間390万人もの胎児が亡くなっています。

こうしたリスク管理をするために、先進国ではほとんどの分娩医療施設で分娩監視装置を利用しています。しかし、途上国の施設では、産前のリスク管理がうまくできていないことも少なくありません。データが揃わないままお産を迎えるため、突如容体が急変した際の対応も困難です。

また、分娩監視装置のデータ判読については、医療機関ごとに熟練した医師の指導の下、長期間のトレーニングが必要とされています。トレーニングをしても、現場で実際のデータを判読することはかなり難易度が高いため、機器をうまく活用できていないこともあります。

一方でデータの判読方法には国際的な規格が定められているため、AIがデータ判読を支援することで、特に途上国ではリスクへの対処を早めることができます。一部の医療施設での実験では、助産師によるデータ判読に有効で、データを基にした患者への医療介入の初動も早くなっています。

スタートアップスカウト

―― 創業のきっかけを教えてください。

私自身は実際にアフリカで妊娠をし、さまざまな病院で診察をしてもらった経験があります。MBAを取得し、卒業後5年程度たったころに、MBAの同期とともにこの先のキャリアを考えました。何かできることはないかと議論する中で、途上国ではリスクを感じながら出産している人が多いこと、出産時の安全性において先進国との差が顕著にあることなどを知り、かなりショックを受けました。

また、日本でも赤ちゃんがお腹の中で亡くなってしまう、悲しい出来事が知人の身に起きたこともあります。日本でさえ病院の外に出ると、自分の赤ちゃんの状態を知ることが難しく、こうした課題が各所で存在するのであれば、世界に向けたソリューションとして展開できると思い、創業をしました。

青年海外協力隊に参加した経験もあり、その際には、これまで非常に恵まれた人生を日本で過ごしていたことを実感しました。アフリカはまだ日本人の進出も多くなく、課題も山積みで、今後のポテンシャルも非常に高い点で面白さを感じています。

すべての赤ちゃんが元気に生まれる未来へ

―― 資金調達の背景や使途について教えてください。

当社は医療業界に向けた取り組みをしておりますので、製品を開発するまでの投資が非常に大きく、売上が立つまでに時間がかかるビジネスです。これまでは自己資金や補助金を駆使してきましたが、製品開発も進み、ソフトウェアの販売を開始して経営を順調に進めるために資金調達を行いました。

アフリカ地域のビジネスであることに加え、医療分野のスタートアップということもあり、今回資金を集めることには大変苦労しました。ご出資いただいたインクルージョン・ジャパンの吉沢さんは、実際にケニアまで足を運んで投資検討いただきました。非常にアクティブで心強い投資家に株主として入っていただいたと思っております。

具体的には、アフリカでの販売に向けたライセンス取得やAI研究の促進、PRの強化に資金を充当します。ライセンスを取得して実際に販売を開始するのは、2024年以降の予定です。

―― 今後の長期的な展望を教えてください。

まずはライセンス取得後、ケニアでの販売を軌道に乗せ、社内で掲げている販売目標の達成を目指します。我々が扱うのは母子の健康にかかわる医療機器で、アフリカの医療現場では新たな取り組みになります。正しい情報を届けて、医療に詳しくない方でも理解できるよう、丁寧な説明を続けることが重要だと考えています。

妊婦の画像
当社の機器は医師や助産師など、現場での評判が非常に重要です。しっかりと現場業務を支援して必要な機器であることを理解いただければ、自然と他の医療機関にも導入いただけると思います。

中長期では、途上国に横展開していくことを目指します。病院における課題感は、地域間で大きく異なることはあまりありません。途上国においては、人口が爆発的に増える中で医療人材の不足という共通の課題を抱えていますので、ケニアで利用が浸透すれば他の途上国にも展開していく予定です。

途上国への販売にまずは注力しますが、最終的には日本へも当社技術で妊婦の役に立ちたいと考えています。日本では病院以外で、赤ちゃんの様子を知る手段が多くはないため、科学的な方法で胎児の健康状態を知ることができれば、妊婦さんの不安が解消されポジティブに生活することができるはずです。

今回の8300万円の資金調達に加え、2023年以内に最大で7000万円の追加の資金調達を予定しています。当社ビジョンに共感し、出資をご検討いただける方にはぜひお声がけをいただきたいです。

株式会社spiker

株式会社spikerは、医療機器CTGに関する、データ判読AI(人工知能)の研究・開発を行う企業。 CTGとは、出産時に「胎児の心拍」「子宮の収縮」から胎児の状態を観測する医療機器。 同社は、アフリカなどの途上国での周産期死亡(妊娠22週から生後7日までの胎児および新生児)率の高さに着目。CTGの値段の高さに加えて、データの判読に医学的知識と長い教育期間が必要なことで、途上国ではあまり活用されていないという。 同社では、医師レベルのCTGのデータ判読ができるAI『AI-CTG』の研究・開発を行う。

代表者名杉本大輔, 笠井綾子
設立日2020年11月6日
住所千葉県千葉市稲毛区弥生町2番5号
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