持続可能性と健康ニーズへの挑戦──食品スタートアップの最新動向

持続可能性と健康ニーズへの挑戦──食品スタートアップの最新動向

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2024年のスタートアップによる資金調達総額は8097億円(※プレスリリース情報に基づく速報値)で前年比15.5%増となった。対前年で落ち込んだ2023年から回復し、2022年比でも増加するなど、堅調な一年だったといえる。

(株)ケップルは、スタートアップの動向を把握するうえで、資金調達と同様に重要な指標として「従業員数」に注目。2023年12月~2024年12月の国内スタートアップの従業員数を集計し、スタートアップ動向レポート「従業員数から読み解く国内スタートアップの現在地2024」としてまとめた。今回は、レポートの中から食品セクターの従業員数推移や市場動向に関する解説を紹介する。

本記事で触れるセクター別レポートの全文は、ケップルが提供するスタートアップデータベース「KEPPLE DB」のスタータープラン(初期費用・月額無料)に登録することで閲覧できる。

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「健康」「サステナビリティ」志向がフードテックをけん引

近年、世界的にフードテック・スタートアップが急増している。その背景には、社会問題の深刻化と技術革新がある。食料自給率の低下や人手不足、地球温暖化といった問題は、既存の食産業だけでは対応が難しくなっており、テクノロジーと融合する新たなアプローチが求められている。

また、経済成長や生活水準の向上に伴い、消費者の「食」への意識も大きく変化している。単なる栄養補給や空腹を満たす手段としての食ではなく、健康への寄与や価値観の反映としての食が重視されるようになってきた。たとえば、植物由来の代替肉やグルテンフリー、ヴィーガン、ローフードなど、食習慣や体調、倫理観、文化的背景に応じた商品への需要が拡大している。

注:上場したスタートアップや閉鎖企業などを含む

これらの動きを受けて、食品ロス削減や持続可能な生産体制といった視点をもつスタートアップも次々に誕生している。とくに2010年代後半から、その数は目に見えて増加してきた。

2020年以降は、新型コロナウイルス感染症の影響により食品サプライチェーンが混乱、スタートアップの設立数が一時的に減少した。しかしその反面、環境に配慮しながら効率よくサービスを提供する仕組みが注目され、食品ロス削減や定期配送型(サブスクリプション型)の食品サービスなど、新しい形のスタートアップも生まれてきている。

堅調な拡大を反映し、従業員規模もじわじわと成長中

注:2024年1月時点=100として指数化(セクター全企業の従業員数が対象)

代替肉、フードロス──社会課題に挑むフードテック最前線

世界の食品市場は2024年に約9兆ドル規模に達する見通しであり、2029 年にかけてCAGR6.5%の成長が見込まれている。

たとえば、食品ロスの問題に対しては、海外を中心に新しい取り組みが次々と生まれている。アメリカの「Full Harvest」やイギリスの「Oddbox」といったスタートアップは、形が不ぞろいであることから市場に出回らなかった規格外野菜を有効活用し、飲食店や家庭向けに提供している。こうしたサービスは、フードロス削減と食材の有効利用を両立する新しい仕組みとして注目されている。

さらに、アメリカでは「Impossible Foods」や「Beyond Meat」などの企業が、植物由来の代替肉を開発して市場が拡大。これらの企業は、AIやバイオ技術を活用し、肉を使わずに肉のような味や食感を再現することで、健康志向の人々や環境意識の高い層に支持されている。同様に、チリ発のスタートアップ「NotCo」は、独自のAI技術を使って植物の組み合わせを分析し、動物性食品の代わりになる製品を生み出している。これらの企業は、新たな「食の選択肢」を世界に広げている。

日本では、共働き世代が増加したことで、料理の時短ニーズ、企業の健康経営ニーズにこたえるスタートアップが増加。オフィスに野菜を宅配する『OFFICE DE YASAI』を展開する株式会社KOMPEITO、日々の食事を効率的にサポートするためプロのシェフが家庭に出張する株式会社シェアダインなどは従業員数が大幅に増加した。

世界・日本それぞれの市場において、社会課題やライフスタイルの変化に即した多様なアプローチが進化しており、食品業界は今後もさらなるイノベーションの余地を大きく残している。

国内市場の縮小と海外・環境対応への転換

日本の食品産業は、依然として巨大な規模を維持しており、2021年には食品製造業の生産額が36.5兆円に達した。しかしその一方で、少子高齢化や人口減少といった構造的な変化により、国内市場は中長期的に縮小傾向にあると見込まれている。

こうした背景から、多くの食品企業は成長機会を海外市場に求める動きを強めている。政府は2020年に「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」を策定し、2020年時点で約1兆円だった食品輸出額を、2025年に2兆円、2030年には5兆円へと引き上げる目標を掲げた。この戦略を追い風として、食品メーカー各社は現地の嗜好調査やローカル企業と提携、海外市場の獲得を図っている。

一方で、国内においては食品ロスの削減が喫緊の社会課題として注目されている。日本では、年間472万トンもの食品が廃棄されており、これは国民1人あたりに換算すると毎日おにぎり1個分に相当する量である。国際的に見ても極めて高い水準であり、環境負荷の大きさが問題視されている。

このような状況を受け、企業の間ではサステナビリティやCSR(企業の社会的責任)への関心の高まりが顕著だ。食品ロスの抑制は、単なる環境対策にとどまらず、コスト構造の見直しや在庫管理の効率化といった経営上のメリットにも直結するテーマといえる。

現在、この領域では、AIやIoTを活用した在庫管理・廃棄予測システムの導入が注目を集める。これにより、需給バランスの最適化や過剰在庫の抑制が可能となり、食品業界全体の持続可能性の向上に寄与することを期待したい。

各セクターの詳細レポートが見られるのは「KEPPLE DB」だけ

本セクターの、2024年従業員数ランキング(2023年12月から2024年12月までの期間を集計)と主要なカテゴリーに属する国内外のスタートアップの動向、掲載企業の一覧は KEPPLE DB でご覧いただけます。

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Writer

高 実那美

高 実那美

株式会社ケップル / Data Analysis Group / Database Division / アナリスト

新卒で全日本空輸株式会社に入社し、主にマーケティング&セールスや国際線の収入策定に従事。INSEADにてMBA取得後、シンガポールのコンサルティング会社にて、航空業界を対象に戦略策定やデューディリジェンスを行ったのち、2023年ケップルに参画。主に海外スタートアップと日本企業の提携促進や新規事業立ち上げに携わるほか、KEPPLEメディアやKEPPLE DBへの独自コンテンツの企画、発信も行う。

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