この記事では、7月4日週に資金調達が報道されたユニコーン(企業評価額10億ドル以上の未公開企業)を1社紹介します。この週のユニコーン企業が少なかったため、番外編として、企業評価額は不明なものの、調達金額が大きかった企業も2社取り上げます。
第1位 Flexe(企業評価額 10億ドル)
第一位は、物流倉庫シェアリングのFlexe(企業評価額 10億ドル)です。コロナ禍でeコマースの需要が急増するなど、小売業者はこれまで以上にeコマースの需要予測が難しくなっています。需要が読めない中で、自社で物流倉庫を保有するために多額の投資を行うことや物流業者と複数年契約を結ぶのは、経営リスクになっています。Flexeはこれまで小売業者が固定費として払っていた倉庫のコストについて、必要な分だけ払ってもらうことで変動費化させることに成功しています。
同社の領域は競合が多そうにみえますが、CEOの Karl Siebrecht氏によると、大企業の顧客に注力している企業は他にないそうです。類似企業として、Shopifyが21億ドルで買収したDeliverrが挙げられますが、中小の小売業者を主な顧客層としているようです。Amazonが最近始めたBuy with Prime(顧客の自社ECサイトでもAmazonプライム会員の特典を利用可能にするプログラム)は主にオンラインEC業者がサービス対象となっており、対面店舗を持つ小売業者が主要顧客の同社と立ち位置がやや異なるようです(※1)。
Flexe
設立期:
2013年
本社:
アメリカ
企業評価額:
10億ドル
今回調達額:
1.19億ドル(企業評価額の12%)
参加投資家:
BlackRock, Activate Capital, Madrona Ventures, Prologis Ventures, Redpoint Ventures, T. Rowe Price,Tiger Global
倉庫シェアリングを担う。全米の小売業者トップ10のうち、6社が同社の顧客。売上は前年比倍増した。
倉庫シェアリングビジネスは、世界各地で事業者が存在しており、イギリスではStowga、インドではXplent、インドネシアではWaresixなどのプレイヤーが存在します。日本では、株式会社soucoなどが同事業に関わっています。
株式会社souco
株式会社soucoは、物流施設・倉庫の空きスペースを抱える企業と、スペースを必要とする企業の情報を集約し、マッチングを行うサービスを運営する企業。 物流倉庫のシェアリングサービス「souco」を提供している。 「souco」は、立地、料金、利用期間、設備条件などの条件を設定し、1パレット、1カ月単位から要件に合致した倉庫を検索、申し込むことができる。賃貸倉庫、寄託倉庫どちらも対応。契約、保険、決済をオンライン上でまとめて提供し、加入保険は東京海上日動火災保険株式会社と提携している。
代表者名 | 中原久根人 |
設立日 | 2016年7月27日 |
住所 | 東京都千代田区麹町1丁目4番地4 |
番外編① Creditas(資金調達額 2億ドル)
住宅・自動車ローンのCreditasは2億ドル(転換社債を含む)の資金調達を行いました。同時にプライベートバンクのAndbankとの提携を発表しており、本提携でAndbankのブラジルでの銀行免許を取得するそうです。同社の今回の資金調達による企業評価額は不明ですが、今年の1月に資金調達を行った際には評価額が48億ドルであることが開示されていました。同社の強みは、金利が高いブラジルにおいて、既存金融機関よりも圧倒的に低い金利で貸し出しを行えることです。単に貸し出しを行うだけでなく、後払いが可能なECプラットフォーム「Creditas Store」を運営したり、EVバイクを製造するVoltz Motorsに出資することで消費者の購買データの取得やサービスの多角化を目指しています。
Creditas
設立期:
2012年
本社:
ブラジル
企業評価額:
不明
今回調達額:
2億ドル
参加投資家:
Andorra
住宅や自動車ローンの貸し出しを低金利で行う。
番外編② YuLife(資金調達額 1.2億ドル)
団体生命保険のYuLifeは1.2億ドルの資金調達を行いました。同社の顧客は企業であり、従業員は福利厚生の一環として同社の保険サービスに加入できます。同社は、保険サービスを運営するだけでなく、加入者が健康増進に関連する活動(ウォーキング、サイクリングなど)を行うことでAmazonギフト券などに交換できるYuCoinsを付与しています。
Dealroomの調査によると、2022年第1四半期の保険テック企業の資金調達は1年前より50%減少し、第2四半期はさらに低調になるようです(※2)。そのような環境下で、同社が資金調達を行えたのは、同社の業績拡大によるところが大きそうです。売上は昨年対比で5倍になっており、これまで団体保険に加入していなかった企業が売上をけん引しているようです。
また、興味深いのは、第一生命が投資家に加わったことです。第一生命は今回の出資をもって、YuLifeの強みを活かした新たな生命保険商品の開発に取り組むようです。出資を発表した翌日の7月8日には、日経平均の0.1%上昇に対し、第一生命の株価が1%上昇と日経平均をアウトパフォームしており、投資家が今回の出資を好感した可能性があります。
YuLife
設立期:
2016年
本社:
イギリス
企業評価額:
8億ドル
今回調達額:
1.2億ドル(企業評価額の15%)
参加投資家:
第一生命ホールディングス, Creandum, LocalGlobe, Target Global, Latitude, Anthemis, OurCrowd, Notion, MMC, Eurazeo
従業員向けの生命保険と健康増進サービスを運営。Del MonteやSantanderなど500以上の企業顧客を有する。