屋内空間専⽤の産業⼩型ドローン「IBIS(アイビス)」を開発する株式会社Liberaware。今年3月に新たに4億円の資金調達を発表し、先月末には日本製鉄株式会社の製鉄所内大型構造設備にて、IBISの実機運用を開始させるなど、産業界の生産性向上や安全性向上への貢献を目指し事業拡大を続けている同社。株式会社ケップルの投資専門子会社である株式会社ケップルキャピタルは、今年設立した2つのファンドより同社に出資を完了している。
Liberaware代表取締役CEOの閔弘圭氏(写真右)と、ケップルキャピタルでファンドマネージャーを務める長谷尾勲氏(写真左)とは、長谷尾氏が前職のFFGベンチャービジネスパートナーズ時代に出資してからの付き合いで、このたび改めてLiberawareの株主になった。
その背景やLiberawareの今後の展望など、両氏に詳しく話を伺った。
原発調査用のドローン開発から、社会課題解決に向けたさらなる進化のため事業化へ
―― まずは、Liberawareの事業についてお聞かせください。
閔氏:弊社は小型ドローンを開発していて、その小型ドローンで建物内部を撮影した画像から、建物内部が今どのような状態になっているかを三次元データ化しています。例えば、三次元化したデータから図面を作ったり、前回と今回のデータの差分を検知して、その場所があとどれぐらいで工事が必要なのかなど、最終的にはその状態を確認できるようなアウトプットデータを提供するビジネスを展開しています。お客様のところへ伺って我々がドローンを飛ばして撮影することもありますし、パートナー企業へ機材レンタルサービスを提供しています。
また、JR東日本グループとCalTa株式会社という合弁会社を設立しています。CalTaから我々が技術協力した「TRANCITY」という三次元データ化のソフトを今年の5月にリリースしていて、1ユーザーあたりの収益を我々も得られるようになっています。今は色々なところにドローン単体だけではなくて、三次元化の技術も含めてサービスを広げています。
―― Liberaware の社名の由来を教えてください。
閔氏:「Libera」というのは自由という意味で、発想でも縛りを作りたくないなと。あとは、社会の課題に気づくということで「aware」。そして「ware」の部分が、ソフトウェアとハードウェアの両方の意味を持っています。
―― 事業をはじめられたきっかけを教えてください。
閔氏:元々は、私自身が千葉大学でドローンの研究開発をしていたのですが、当時やっていたのが、原発の中にドローンを入れて調査をするというプロジェクトでした。まだドローンという言葉が流行っていなかった時期で、今はもう小さい機体がたくさん出てきていますが、当時は機体もとても大きくて、直径で1mぐらいですかね。そういう巨大な機体を作って原発の中に入れるという研究をしていたのです。
当時、爆発で瓦礫がすごくて階段を上がれない状況で、中にドローンを飛ばして調査をしていました。被害状況がわからないと何もできないので、そういう目的でドローンの開発をしていたのです。そこから当時の私の千葉大の先生が、ACSL株式会社という会社を立ち上げられて、今は上場されているんですけど。私はそこでインフラとか点検などで、社会課題に密接したドローンの研究開発をずっとやっていました。その頃はまだまだ機体が大きかったので、「この大きさだとちょっと厳しいよね」というところから、当時一緒にやっていたメンバーとスピンアウトして、小さい機体を作っていこうとなったのが始まりです。
「あそこのここが見たい」とか、皆さんドローンに色々なことを求められるのですが、どうしても機体のサイズに限界があったり技術的な課題があって、そこを解決していきたくて小型ドローンの開発に至りました。
Liberawareが開発した屋内空間専⽤の産業⼩型ドローン「IBIS(アイビス)」
二社に渡ってLiberawareの株主となった経緯とは
―― お二人の出会いについて教えてください。
長谷尾氏:私は前職でFFGベンチャービジネスパートナーズで投資活動を行っていました。参加したモーニングピッチでドローン特集がありまして、DRONE FUND千葉功太郎さんのピッチを見て、1号ファンドに投資しようとその場で決めました。それが2017年の6月頃ですね。
それからファンド立ち上げの最初のイベントに会場を提供させていただきました。会場にはスタートアップ展示ブースがあり、そこで最初にLiberawareさんのドローンを見て、一目惚れした感じです。小さいだけでなくて、配線も機体に埋め込まれていたりとか、「かっこいい」というのがまずありました。場所を提供した特典で二次会に参加させてもらって、閔さんと深い話ができたのも良かったですね。まだ資金調達の時期でもなかったので、進捗状況を聞きながら、資金調達の話が出てきたときには出資しようと思っていました。本当にコンセプトが良かったのです。このような小さい機体が他にはないというのもありましたし。
―― 長谷尾さんがLiberawareを応援しようと思った理由について教えてください。
長谷尾氏:原発の話もありましたが、一番大事なのはやはり人の命だと思っています。病気を薬で治す対症療法も大事ですが、予防や未病が注目されてますよね。インフラについても、今まで人が点検していたところや、逆に人が入れず点検できなかったところでも、このIBISを使えば事前に事故も防げるのです。そこを点検する人の事故も防げると考えたときに、これを使わない理由が全くないですよね。
当然、大型ドローンで物流配送などが便利になるというのも、とても大事なことだと思っていますが、このインフラ点検に関しては、IBISは世界をリードしていけるとずっとそのように考えています。
閔氏:初めてお会いした二次会で、長谷尾さんのほうから「話を聞かせてほしい」と声をかけていただいて、その後改めてアポを取ってお話しさせていただいた時に、機体を見て「男心をくすぐるプロダクトだよね」と共感していただいて。私もやはり技術者なので、我々が作ったプロダクトに対して、これだけ前向きに話を聞いてくださる方ってなかなかいないな、というのが最初の印象でした。なので、資金調達の際には相談をしにいきました。
―― 改めて、ケップルキャピタルがLiberawareの株主になった背景を教えてください。
長谷尾氏:ずっとメンターという立場で月1回は必ず話をするようにしていたというのもあり、「実はケップルもファンドを始めるので、ぜひ出資させてほしい」ということになりました。前職でも投資してケップルでも投資できるなんて、こんな幸せなことはないなと思いましたね。ケップルはたまたまその時ファンドが二つ、DXファンドとリクイディティファンドというのがあって。今回のシリーズDのラウンドは、既存のBonds Investment GroupさんとDRONE FUNDさんが出資されて、残り枠が少なくなっていました。ただ、他にも投資したい事業会社さんがいらっしゃるということで、ちょっと出資できないかなと思ったのですが、既存株主で手放さなければならない理由がある方がいらっしゃったので、もしよろしければということで。DXファンドとリクイディティファンド、両方から投資できることになりました。改めて株主という立場でお付き合いできるのは本当に嬉しいですね。
―― ケップルキャピタルの二つのファンドから出資を受けたことについては、どのように思われましたか?
閔氏:最初は全く想像していなかったので、そのお話が出たときに本当にそんなことがあり得るのかなと。実現できたらという希望と、本当なのかという気持ちの半々があったのですが、その後偶然が続きまして。参加した他の既存株主のイベントで、たまたま出会ったのがケップルの代表の神先さんだったのです。名刺交換をした際に、お互いに「あれ、なんか聞いたことある」となりまして。神先さんからも「ファンドを立ち上げるんで、ぜひ!」とお話を伺って。長谷尾さん同様、神先さんの人柄にもとても惹かれたので、ぜひお話しさせてくださいという流れになりました。もうここまでいくと必然なのかなと思いましたね。
長谷尾さんはとにかく熱い方ですね。私から見るVCとは、応援したいところは徹底的に応援するというイメージがあって。そういう意味で、長谷尾さんも応援したいから応援するという熱い想いがとても伝わってくる方だと思っています。
長谷尾氏:投資家なのでリターンを出さなければいけないというのは当然あるんですが、やはり社会を良くしていきたいと本気で思って取り組んでいる方に、自分自身も共感できるから、しっかり応援できる。できることは協力していって、お金だけでない部分をサポートするのも投資家の役目だと思います。同じ船に乗っているというつもりでやっていますね。
ドローン点検を社会インフラへ、Liberawareが目指す次の世界
―― 御社を取り巻くマーケット環境について、今後事業を拡大させていく上でプラスに働くと考えている要素などはありますか?
閔氏:今だからこそ、時代の後押しがとても大きいと思っています。というのも、今まさしくDXやAIというのが出てきていますが、ただ流行って終わりではなく、色々な課題が表面に出てきています。インフラの劣化もそうなのですが、いつも通りの点検をしていた水道管が、次の日には崩落して大問題になったりしているのです。ということは、今まで通りのやり方がこれからは通用しない、今ちょうど切り替えなければならないタイミングになっているのです。でも、それをどのように変えていくのかというのが大きな問題になっているところです。今まで人が工数をたくさんかけて行ってきたことに対して、労働力も足りないという状況も起きているのです。これはインフラだけでなく、建設業界も同様です。どのように効率的に変えていくか、皆さんすごく悩まれています。だからこそ今、デジタル化が求められていて、我々のビジネスはど真ん中だと捉えています。
入り口は小型ドローンです。ドローンと言うとやはり飛ぶものという認識で、皆さん「ドローン」イコール「デジタル化」にはすぐに繋がらないのですが、今まで見られなかった部分を我々がドローン撮影よる映像で建物や構造物をデジタルデータ化するということです。これにより、歪みとか破損とかをデータで把握できる。だからこそ価値があって、今までとは違うやり方を我々が作っていく。そこに皆さん共感していただいていると感じています。その結果、JR東日本グループとの合弁会社CalTaや、先日の日本製鉄さんとの発表にも繋がっています。人がやってきた方法を根本的に切り替えていくということを、我々が今まさに広げているので、とても良いタイミングだったと思っています。
―― 韓国でも事業展開を検討されていると伺いましたが、どのような展開をお考えですか。
閔氏:韓国も今、作業者の安全というところが非常に求められています。というのが、建設現場の事故で亡くなる方がとても多かったためです。そのような事故が起きると経営者が刑事罰になるという法律が、今年の1月に施行されました。つまり「安全」という言葉が一番のキーワードです。作業者の安全を守るために、ドローンが使われているのです。例えば、人が入る前に何かが劣化して落ちてこないか、安全面は大丈夫かどうか、最初の確認をドローンで行うという用途にも使われています。この小型ドローンで建物内部を見ていくということに、海外でもやはり今ニーズが出てきていますね。
人が入れないとか、老朽化したインフラという社会課題は、日本だけでなく海外も同じ状況なので、世界的に見てもこの市場は非常に大きいと思っています。だからこそ日本でしっかり実績を作りそれを海外に展開できれば、この事業をもっと大きくできると考えています。韓国では2年ほど前からPoCという形で、色々な現場に行きニーズを発掘しています。関心度がかなり高いので、韓国にも法人を作って本格的に事業展開することを検討しています。
―― 最後に今後の展望をお聞かせください。
閔氏:我々が狙っているのは、ドローンが使われる当たり前の状況を作ること、究極は社会インフラにも含まれることです。無人化を前提にした環境作りを検討しています。どのようにすれば人が点検をする前提ではなくて、もっと効率的なシステムを作れるかということを議論しています。今、「スマートシティー」とか「都市OS」という言葉が出てきていますが、やはり今後はそういう方向に進んでいくと思います。デジタル化が次に実現する世界だと思っていて、そこを我々は推進しようと考えています。今は出来上がったものをデジタル化するという議論しかしていないので、これからは作る段階から我々が入っていくというのを実現したいです。
一番大事なのはとにかく諦めずに、やり抜くことですね。本気で実現させたいと思わない限り絶対できないので。我々は小型ドローンで点検やデジタル化ということをずっと言ってきましたが、最初は「そんなの無理だよ」とか「所詮ドローンでしょ」という意見が多々ありました。それでも自分たちがやりたい、やり抜くということを強く意識して活動していると、それを応援してくれるファンが必ず出てきて、一歩ずつ実現していっています。信じて応援してくださるファンの方々がたくさんいると、我々としてもやりがいがありますし、今後も自分達が諦めずに事業を推進していけると信じています。
株式会社Liberaware
株式会社Liberawareは、屋内で設備点検などに活用する小型ドローン開発を手掛ける。開発するドローン「IBIS」は、縦が約19センチメートル、横が約18センチ、高さが約5センチで手のひらにのる小さな機体が特徴。光が届かず暗い空間でも鮮明な映像を撮影できるカメラを搭載しており、煙突の中や配管内、天井裏など人が進入しにくい狭小空間でもドローンを活用した点検作業ができる。 撮影した画像を自動で読み取り、ひび割れなどの異常を検知する人工知能(AI)も開発する。
代表者名 | 閔弘圭 |
設立日 | 2016年8月22日 |
住所 | 千葉県千葉市中央区中央3丁目3-1 |