株式会社DINAMICA

「時間と距離の制約を“なくす”」というミッションを掲げ、オンラインでもリアルな職場体験を届ける。株式会社Tours(旧 株式会社DINAMICA)は、バーチャルオフィスツアーという新たな採用支援インフラを通じて、採用における情報の非対称性を解消しようとしている。
新型コロナウイルスの流行を契機に、ZoomやTeamsなどのオンライン会議ツールが急速に普及し、採用活動のオンライン化が一気に進んだ。これにより、都市部の企業と地方の求職者が接点を持ちやすくなった一方で、「企業の雰囲気がわからない」「職場環境が伝わらない」といった課題も顕在化している。
「Tours」は、こうした採用現場の変化に対応するバーチャル採用支援ツールだ。360度カメラで撮影したオフィス空間をベースに、社員紹介、設備紹介、働き方の情報、企業の価値観などを視覚的に補完し、オンラインでもリアルな職場体験を提供している。2023年8月のリリースからわずか1年で、200社以上に導入されており、企業規模や業種を問わず幅広く活用が進んでいる。

2025年4月には、シリーズA前のプレシリーズAラウンドで累計1億2000万円の資金調達を実施。これに合わせて社名もプロダクト名に統一し、「スモールビジネスで終わらせない」という明確な意思とIPOを視野に入れた成長戦略を打ち出した。
代表取締役CEO 濵田 祐輔氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
企業文化の体感を可能にするバーチャルオフィスツアー
――どのような企業がToursを導入しているのでしょうか。
濵田氏:企業規模に関しては、エンタープライズからSMB、スタートアップまで幅広いのが特徴です。導入の目的は、大きく二つのタイプに分けられます。
一つは地方の学生など、従来はオフィスツアーに参加しづらかった層にも均等に機会を提供したい企業群。ITや金融など比較的オフィス投資額の大きい業界で、主に新卒や第二新卒の採用に活用されています。こうした企業は学生からの人気が高く、母集団形成には困らない反面、大人数の応募者の対応に採用担当者が忙殺されがちです。応募者が個々にオフィスツアーを済ませることで、選考工数の効率化が進んでいます。
もう一つのタイプは、求職者にとって応募のハードルの高い企業群。物流や設備工事などハードなイメージを持たれがちな企業のほか、スタートアップも含まれます。実際のオフィスの様子や働く社員の雰囲気に触れてもらうことで、求職者に安心感を与えることができます。
スタートアップの場合、オフィス環境を公開することはミスマッチの防止にもつながります。「リモートワーク可」「フルフレックス」といった文言から「働きやすそう」という印象を持たれがちですが、実際は手狭なオフィスに従業員がひしめいているようなケースも少なくありません。応募前にリアルな職場環境を体感してもらうことで、企業・求職者双方にとって無駄な選考プロセスを省けるのではと考えています。
――Toursの導入先を急速に拡大できた理由は。
Toursの拡大を後押ししているのが、自社運営の職場体験メディア「バチャナビ」の存在です。Toursを導入した企業の情報は同メディアに掲載され、求職者がアクセス可能な仕組みになっています。
「バチャナビ」は、バーチャルオフィスツアーに加えて、企業の働き方・設備・福利厚生・社員情報といったカルチャーに直結する要素を視覚的に伝える「職場の情報データベース」。就活生や第二新卒が情報収集に使う口コミメディアに代わり、一次情報としての信頼性を提供できる存在として成長の兆しをみせています。
昨今、採用広報では演出性の高い動画コンテンツなども目立ちますが、求職者は「リアリティ」や「正直さ」をより重視する傾向があります。Toursとバチャナビの連携は、企業にとって「素の魅力」を伝えるための有効な手段となっているのです。

「職場に行く前に99%の情報が得られる」体験のデザイン
――創業のきっかけを教えてください。
私はリクルートで長く事業開発に携わり、RPOサービスの立ち上げやHR支援を通じて、現場の課題と日々向き合ってきました。そうした経験が、現在の事業展開の土台となっています。
ちょうどその頃、メタバースがこれから来ると感じていたこともあり、個人で「バチャナビ」というメディアを立ち上げました。リクルートでは取り上げにくい領域だったため、自主的にメタバース関連のSEO記事を発信しながら、360度のパノラマビュー撮影ができる簡易的なカメラを使い、試行錯誤を重ねていたんです。
この活動が、創業の前段階としてToursの着想につながっていきました。創業当初は、XR技術を活用した受託開発なども少し手がけていたのですが、自分の得意領域であるHRに軸足を戻すことを決めました。そして、リコー製のパノラマビュー作成ツールを活用し、企業のリアルな職場環境を可視化する取り組みを本格的にスタートさせたのです。当初、取材は無料で受け付けていたため、次々と企業へのアポも取ることができました。
その後は、ARグラスを活用した実証的なプロダクト開発なども経て、事業のフォーカスをToursに一本化。バチャナビへの掲載企業が増え、プロダクトの有用性が明確になったタイミングで、パノラマビュー作成機能を内製化し、HR用途に最適化したのが、今の「Tours」です。
――今後の展望をお話しください。
Toursは今後、「企業カルチャー可視化ツール」としての完成度をさらに高めていく構想を描いています。360度映像による職場紹介にとどまらず、社員情報、設備や福利厚生、働き方の運用実態といった多角的な情報を統合的に可視化できる環境を整備していく予定です。
加えて、「オフィスに足を運ばずとも99%の情報が得られる体験」の実現にも取り組んでいます。求職者がオンライン上で十分な理解を得られるようにすることで「残りの1%」つまりリアルでの接点には、より意味のある深い対話の時間を確保できます。すでにユーザーからは一定の評価を得ており、今後はさらなる没入感の向上を目指して、2025年は体験の質の向上に注力する方針です。
直近では、求職者が話してみたい社員を選べる「社員リスト機能」のリリースを予定しており、企業との接点をよりパーソナライズ化する取り組みを進めています。
また、Toursは採用領域にとどまらず、アルバイト・派遣・不動産・製造業など、「働く現場のリアル」を伝える必要がある領域への展開も広がりつつあります。これらの業界は情報の非対称性が大きく、Toursが果たせる役割は大きいと感じています。
私たちは、「時間と距離の制約をなくす」というミッションのもと、情報格差のない社会をつくっていきたいと考えています。今後もプロダクトとメディアの両輪を進化させ、社会全体への価値提供を追求し続けます。
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