家庭料理のテイクアウトステーションを運営する株式会社マチルダがシリーズAラウンドにて、約3.5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、W fund、ANRI、Future Food Fund、ココナラスキルパートナーズ、三菱UFJキャピタル、オリックス・キャピタル、ロッテベンチャーズ・ジャパン、東京メトロの8社。
今回の資金調達により、大規模セントラルキッチンの新設、および料理の受け取りステーション数の増加を目指す。
子育て世帯に家庭料理を
「マチルダ」は、日替わり家庭料理のテイクアウトサービスだ。主菜・副菜・汁物の3品を1セットとして販売する。
LINE上で日替わりの献立を確認して注文し、決済もオンラインで完結する。調理は同社が保有する亀戸のセントラルキッチンで行う。料理は、東京都内を中心とする6ヶ所のステーションでQRコードをかざすことで受け取りが可能だ。
週1食から週5食まで、生活スタイルに合わせた受け取りの定期プランを選択できる。また、7時から13時までの間に注文すれば、当日受け取りの注文をすることも可能だ。
3歳から小学校高学年の子どもを育てる、子育て世帯を主なターゲットにサービスを提供する。ステーションでは料理の受け取りに限らず、季節のぬりえやイベントなど、子どもたちを巻き込んだオフライン体験を提供している点が大きな特徴だ。
2023年9月時点で、1週間あたり930家庭が利用している。受け取りステーションは清澄白河や有明など、湾岸エリアを中心とした合計6ヶ所。初回利用から半年以上の継続率は約50%とリピーターも多い。
代表取締役の丸山 由佳氏は、2019年に子育て家庭のためのミールシェアサービスで起業。2021年1月にはマチルダを設立し、家庭料理のテイクアウトサービスに注力する。
今回の資金調達に際して、丸山氏に今後の展望などについて詳しく話を伺った。
楽しくて美味しい食体験を届ける
―― 起業のきっかけを教えてください。
丸山氏:大学卒業後はユーザベースに入社し、法人営業や営業組織の立ち上げに携わっていました。娘の子育てと仕事を両立させる中で、子育てに関する数多くの課題に直面し、初めて自らが当事者として、困難な状況に置かれていることに衝撃を受けた経験があります。
これまでは、自分が気づくような課題は、すでに他の誰かが解決していることが当たり前でした。それにも関わらず、自分が子育てをしてみて感じる課題が山ほどあるんです。こうした課題は、当事者たちが子育てで忙しすぎるために解決されてこなかったのではないでしょうか。
それならば私自身が当事者として、自ら問題解決に取り組むべきとの思いで子育て世帯を支援する事業を考えたのが起業のきっかけです。はじめは、半径1キロ以内に住む人々の間で、食事のおすそ分けを配送するミールシェアサービスを提供していました。
―― どのようなきっかけから家庭料理のテイクアウトを着想したのでしょうか?
ミールシェアサービスでは、多忙な子育て世帯のために、デリバリーの時間を10分単位で選べるようにしていました。一方で、夕方お迎えに行っても、子どもの都合で帰宅時間が遅くなる場合もあり、柔軟な受け取りができないと感じるユーザーもいました。
言われてみれば私もこうした経験は多く、「自分の都合で受け取れる」ことが実は一番利便性が高いという仮説を得たんです。この仮説がテイクアウトサービスの着想につながっています。
こうした中で新型コロナウイルスの流行に伴い、一時的にミールシェアサービスを停止しました。この時期、仕事と子育て、家事をしなければならずに困っていた子育て世帯は多かったはずです。サービス停止による影響範囲は少なかった一方、多くの人が使う本当に必要なサービスが提供できていたなら、停止の決断はしなかったと思うんです。
こうしたきっかけから、困っている家庭を支えるインフラとして社会に役立つサービスを提供したいという思いが強くなり、マチルダを設立して家庭料理のテイクアウトサービスとして事業展開を開始しました。
―― 料理の宅配サービスなどとの違いや特徴を教えてください。
多忙な共働きや子育て世帯に向けて、栄養満点な食事を親が短時間で用意できるミールキットや総菜を宅配するサービスは多いと思います。マチルダは、実際に食事を食べる子どもたちを主なターゲットとしている点で異なります。
特に子育て家庭においては、親は調理の時短ができると嬉しいのはもちろんですが、夕食を食べる子どもやほかの家族は、時短ができたかどうかに関心がありません。親の調理負担が減っても、重要なのは子どもたちが食事をきちんと食べられるかどうかです。
だからこそマチルダは「いかに家族全員で美味しい食事を楽しんで食べることができるか」という観点を重視してデザインし、家庭料理の提供にこだわっています。
保育園に迎えに行った帰りなどに、子どもと一緒に立ち寄って受け取ることができる点もポイントです。子どもたちの関心を引くイベントを用意するなど、子どもたちがステーションに行きたくなるような工夫を施しています。また、受け取り時にQRコードを使うことでお金のやり取りが発生しません。そのためおつかい感覚で楽しみながら、子どもが受け取りに来ることもあります。
こうした仕掛けが続くと、子どもたちがマチルダを認識し、「マチルダのご飯」を楽しみにしてくれるようになるんです。子どもが食事を楽しみにもりもり食べることは、親が何よりも望んでいることだと思います。
オンラインですべてを完結するのではなく、あえてオフラインの接点を設けて子どもたちをファンにする取り組みを推進している点は、他の中食サービスにはない大きな特徴です。
子どもたちがのびのび育つ社会へ
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
サービスの利用者も増え、お客様の注文に対して製造能力が追い付いていない日々が続いていました。セントラルキッチンを新設し、製造体制を強化し多くの人に食事を届けるために資金調達を行いました。具体的には1日5000食を製造できる大規模なキッチンとして、11月ごろに辰巳でのオープン予定で準備を進めています。設備投資に加えて人材採用も強化する計画です。
今回はVCのほかにも、当社とシナジーのある株主にご参画いただいています。これまでも共に取り組んでいる東京メトロと連携したステーション展開など、知見やノウハウなどの支援も受けながら、各社と協力して取り組んでいきます。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
まずは食事の供給能力向上と、ステーションの増加に取り組みます。どのエリアにステーション展開していくかは検討中ですが、すでに注力している湾岸エリアのほか、芝浦や田町、人形町など、子育て世帯の多い地域への展開を想定しています。2024年中には、36ステーションの展開が目標です。
食は日常生活に根付いた最も重要な要素の一つで、この体験をより豊かにしていきたいと考えています。例えば現在は夕食を提供していますが、朝ごはんやおやつなど、家庭に楽しさを提供する機会も増やしていきます。食事に限らず、週末のサマーキャンプなど、子供たちが楽しめる体験の提供も長期的には興味のある領域です。
目指しているのは、子どもたちが無邪気に過ごせる環境を提供し、愛情深く見守ることができる社会です。企業とも連携しながら、子どもたちが快適に暮らせるような社会、まちづくりに貢献していきたいと思います。
株式会社マチルダ
株式会社マチルダは、家庭料理のテイクアウトサービス『マチルダ』の企画・運営を行う企業。 『マチルダ』は、その日に作られた日替わりの家庭料理を、駅の近辺などの『受け取りステーション』で受け取ることができるテイクアウトサービス。週次注文プランや、当日注文プランなどがあり、「ファミリーセット」や「おひとりセット」などが選択できる。週の途中でも、曜日ごとにセットの種類や個数の変更も可能だという。
代表者名 | 丸山由佳 |
設立日 | 2021年1月27日 |
住所 | 東京都港区新橋5丁目31-2 |