次世代のスタンダードへ、ワイヤレス給電が切り拓く新たな日常

次世代のスタンダードへ、ワイヤレス給電が切り拓く新たな日常

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DeepTech Trend

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KEPPLE編集部


近年、ワイヤレス給電の需要が高まりつつある。ワイヤレス給電とは電線を用いずに電力を送る技術の総称だ。給電する際に電線を必要としないことから、物理的な制約が少なく、小型電子機器や産業機器、家電といったさまざまな領域での活用が進んでいる。

矢野経済研究所によると、事業者売上高を基にしたワイヤレス給電世界市場は、2021年時点の4301億円に対し、毎年市場が110%台で成長し、2031年には1兆5496億円まで成長すると予測している。

こうした市場の成長の背景には、利便性向上やメンテナンスフリー化、IoT/IoE化に対応した電力供給の需要がある。

まず、ワイヤレス給電では充電ケーブルが不要なため、ケーブルのメンテナンスをせずに給電範囲を拡大することが可能だ。たとえば、無人輸送ロボットなどの産業機器やEVでは、送電できる範囲内なら、稼働中/走行中に半永久的に給電できる。

次に、IoT/IoE化が加速する中、モノ・人をインターネットに繋ぐ膨大なセンサーが必要となり、センサーへの給電需要が高まっている。有線/無線、地上や宇宙といったさまざまな領域を統合的に繋ぐ、Beyond 5G(6G)構想を実現するためには、あらゆるモノへのセンサー搭載が必須だ。2035年にはIoTセンサーは1兆個を超えるという試算もあり、膨大なセンサーの給電方法として、ワイヤレス給電が活用されつつある。

このような状況下で完全ワイヤレス給電技術の研究開発を手がけるのが、エイターリンク株式会社だ。

国内初の総務省認可を得たワイヤレス給電技術

エイターリンクは、「ワイヤレス給電で配線のないデジタル世界を実現する」ことを目指し、2020年に設立されたスタンフォード大学発のスタートアップ企業だ。実用化に成功した長距離ワイヤレス給電技術「AirPlug™」を基に、多領域でのワイヤレス給電化に取り組んでいる。

現状の主な注力領域は、メディカルインプラント、FA(Factory Automation)、ビルマネジメントの3つだ。

メディカルインプラントでは、ワイヤレス給電によるインプラントデバイスの研究開発を行う。心臓のペースメーカーなどバッテリー交換の際に手術が必要な医療器具の給電をワイヤレスにすることで、デバイスを小型化しながら、バッテリー交換なく患者への負担を軽減することに取り組む。

そして、FAでは産業用ロボットなどの給電をワイヤレス化する。コードがないことで、通常なら配線の困難な箇所へのセンサー設置を可能とし、また可動部センサーの断線リスクを軽減する。バッテリー交換も必要とせず、製造業をメンテナンスフリー化する。加えて、データ通信を低消費電力で実現したことで、高速データ通信による情報のリアルタイム取得を可能とする。

また、ビルマネジメントでは、ワイヤレス給電の環境センサーを提供し、効率的な空間管理を実現する。空間の湿度、温度、照度、CO2を感知する環境センサーや人感センサーを提供することで、空間データを可視化し、効率的な空間管理を支援する。たとえば、オフィス空間における空調システムでは、人が活動するスペースにセンサーを設置することで、体感温度を計測し、適温に空調調整できる。

エイターリンク ビルマネジメント
同社はこれまでに、メタサーフェスという電磁波をコントロールする送信機や電力受信技術において特許を取得している。また、2022年9月には、総務省東海総合通信局より国内初となる空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム用無線局(WPT局)の免許を取得し、運用を開始した。

さらに、2022年9月には、カンファレンス「ICCサミット KYOTO 2022」にて開催された、研究開発ベンチャー企業がピッチを行う、「REALTECH CATAPULT リアルテック・ベンチャーが世界を変える」にて優勝した。

同社でプロジェクトマネジャーを務める田中 卓巳氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

プロジェクトマネジャー 田中 卓巳氏

メディカル領域からの応用展開

―― 従来の給電技術における課題について教えてください。

田中氏:ケーブル、バッテリー式の給電それぞれで課題があります。まず、従来の有線を用いた給電には、断線問題や配置の制限があります。ロボットアームなど産業用ロボットでは可動する際に、ケーブルが絡まって断裂するリスクがあります。

大規模な自動車製造工場ともなると、アーム1台で1分間に数百万円の生産価値があるため、断線トラブルで製造ラインがストップする機会損失は計り知れません。また、ケーブルを配置することができる箇所しか設備を設置できません。環境センサーなどさまざまなデータ収集を行うセンサーの配置にも制限が生じてしまいます。

次に、現状のバッテリーを用いた給電では、バッテリー交換を頻繁に行う必要性があります。基本的には、ビルの空調設備を行う設備のバッテリーが天井に配置されるケースが多く、交換の手間が大きくなります。また、ペースメーカーなどの医療器具では、バッテリー交換を手術によって行うため、患者への身体的な負担があります。

―― 御社の技術はスタンフォード大学のどのような研究開発から生まれたのでしょうか?

元々、同社CTOの田邊は、早稲田大学で電磁波や音波など波長に関する研究を行っていました。早稲田大学で博士号を取得した後、スタンフォード大学でマイクロ波技術を応用したメディカル分野の研究員として従事しました。

スタンフォード大学では心臓のペースメーカーをワイヤレスで給電する技術の研究を行っていました。具体的には、世界最小で従来の1/1000のサイズ、米粒程度の大きさの心臓のペースメーカーを開発して、それをカテーテルを通して心臓の中に入れて体外から体内へワイヤレス給電をする研究です。当社のワイヤレス給電技術であるAirPlug™は、このとき開発された技術に基づいています。

エイターリンク AirPlug
―― 最新技術の開発背景と事業化できたポイントについて教えてください。

田邊がスタンフォードにてワイヤレス給電の技術を開発した際に、メディカル領域でのビジネス化に壁を感じていました。メディカル領域では、人体に機器を直接埋め込むことから、多くの規制があり、商用化するには時間を要すると考えました。

商用利用を模索していた頃に、商社に勤務していた現エイターリンクCEOの岩佐と出会います。岩佐は当時、自動車工場の生産ラインにおける効率化に従事していており、電線ケーブルの断線トラブルに課題感を持っていました。そして、岩佐がアメリカに赴任している最中、二人は共通の友人を介して出会い、FA領域への応用などについて議論を重ねていきました。

そして、ワイヤレス給電技術を用いた事業をはじめることとなりました。デバイスの開発を進めながら、総務省に働きかけて国内での空間伝送型ワイヤレス電力伝送の認可を得たことが、事業拡大に向けた大きな一歩となりました。

ワイヤレス給電インフラで「バリューチェーンOS」に

―― 御社の技術が普及した先には、社会や消費者にどのようなメリットがあると思われますか?

AirPlug™️が普及した先には、バリューチェーン全体でリアルタイムの情報をデータ化可能となり、リアルとデジタルが繋がる社会に変わります。バッテリーレスでワイヤレスなAirPlug™️を活用することで、今まで取得できなかった領域のデータ獲得を行うことができ、AIを使ったクラウド上でそのデータを分析して活用することが可能となります。

たとえば、スーパーマーケットの棚札価格を曜日や天候、人流に応じて需要を予測して、ダイナミックプライシングとして、リアルタイムで価格変動させるには電子化する必要があります。しかし、電子棚札を普及させるためには、バッテリー消耗の問題が生じますが、ワイヤレス給電化することで実現可能です。

また、体内に埋め込むインプラントデバイスであれば、ワイヤレスに常に給電することでバッテリーを必要とせず、小型化が可能となり、身体的な負担を軽減してバイタルデータを取得することが可能となります。正確な体温のデータを活用して、空調設備を自動で調整することなどができるはずです。

このように当社の技術は、あらゆる領域に設置された送信機と受信機を給電するインフラとなり、「バリューチェーンOS」として、データ業界を牽引できるようになると考えています。

エイターリンク バリューチェーンOS
―― すでに取り組みを進めている他分野への展開はありますか?

現在、まずは物流、倉庫、ホテルといった領域への展開を検討しています。特に、物流領域では事業会社からの引き合いも多く、注力しはじめています。

―― 今後の展望について教えてください。

今後、FAの領域においては海外への輸出が始まっていく予定です。また、FAだけでなく、さまざまな領域での海外展開も推進していきます。今後も、国内外にわたって「バリューチェーンOS」を構築し、リアルタイムデータのデジタル化によるサービスの普及に貢献していきます。

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参考:
矢野経済研究所 「ワイヤレス給電世界市場に関する調査を実施(2021年)

エイターリンク株式会社

エイターリンク株式会社は、ワイヤレス給電事業を運営する米国・スタンフォード大学発ベンチャー企業。 マイクロ波を使って最大20メートル離れた場所へ数ミリワットの電力を供給する技術を持つ。 同社は、心臓のペースメーカーをはじめとする「メディカルインプラントデバイス」をワイヤレス給電する研究開発を進めるほか、同技術のFA(Factory Automation)、ビルマネジメント、メディカルの3領域への応用を目指す。 その取り組みのひとつとして、オフィスの各席に温度・湿度・照度・気圧などを計測する「環境センサー」を配置し、オフィスの空調をスポット調整することで電気代のコストダウンを図る「タスクアンビエント空調」の実現に取り組む株式会社竹中工務店と共同で、「環境センサー」のワイヤレス給電の実証実験を行った。

代表者名田邉勇二, 岩佐凌
設立日2020年8月3日
住所東京都千代田区大手町1丁目6番1号大手町ビル6階Inspired.Lab内
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