次世代原子炉と蓄熱システムで描く、持続可能なエネルギー供給の未来

次世代原子炉と蓄熱システムで描く、持続可能なエネルギー供給の未来

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KEPPLE編集部


現在、地球温暖化対策などさまざまな領域において環境に対する意識が高まっている。エネルギー市場においても、CO2などの温室効果ガスの排出が抑制されたクリーンエネルギーが求められている。

矢野経済研究所によると、脱炭素社会を実現するための国内のエネルギー設備・システム市場は、2030年度には2兆3430億円になると予測されている。また、同社は2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させた状態)の実現に向けた世界的な動きから、国内の市場も3兆9850億円まで拡大すると推測している

次世代原子炉として注目される高温ガス炉および熱エネルギー貯蔵システムを開発する株式会社Blossom Energy、2024年2月に、プレシリーズAラウンドにて、第三者割当増資による総額3.5億円の資金調達を行ったことを明らかにした。

今回のラウンドでの引受先は、インキュベイトファンド、アニマルスピリッツ1号ファンド、常石商事、ReGACY Innovation Group、グロービスの5社だ。今回の資金調達により、累計の調達額は約4.5億円に到達した。

今回の調達資金は、さらなる技術開発の拡充とエンジニアや事業開発要員の採用に充て、開発システムの社会実装を目指す。

熱エネルギーの脱炭素化への挑戦

Blossom Energyは、大口の熱需要家向けに高温ガス炉を、小口の熱需要家向けには熱貯蔵システムを開発し、安価で安全なカーボンフリーの熱エネルギーの提供を目指す。

従来、原子力はCO2を排出しないエネルギーとして需要があるものの、他エネルギーと比較してエネルギー密度が大きく、事故に備える必要があった。しかし、同社が提供する高温ガス炉では、構成される素材と設計の特性から、過酷事故の発生リスクを原理的にゼロにさせている。

そもそも、日本の石炭や重油等の1次エネルギーの用途を調査すると、約3割は電気を作るために燃やされているが、約7割は熱を利用するために燃やされているという。同社は、電力の約2.7倍ものエネルギーを必要とする熱の脱炭素化に挑んでいる。

産業用高温熱の脱炭素化

(画像:Blossom Energy会社資料より掲載)

同社の高温ガス炉は複数の原子炉を並列に接続するクラスタ型を採用しており、同社はこの技術において特許を申請している。これにより、1基の炉心(原子炉において核燃料を装荷し、核分裂が活発に行われる部分)の開発で、多様な出力の高温ガス炉を提供できる。さらに、低コストかつ安全に、高温蒸気による効率的な熱エネルギーを供給できる。

クラスタ型高温ガス炉のプロダクトイメージ図

クラスタ型高温ガス炉のプロダクトイメージ図(画像:Blossom Energy会社紹介資料より掲載)

また、同社は再生可能エネルギーなど変動性が高いエネルギーから得られた電気を熱として貯蔵できる蓄熱式の蒸気ボイラーを開発する。これまで、日中に余剰に生成された再生可能エネルギーや工場から排出された排熱の活用は限られており、廃棄されてきた。同社は、こうしたエネルギーを貯蔵できるようにすることで、持続可能なエネルギー供給を実現する。蓄熱材には熱エネルギーを多く貯蔵できる黒鉛を活用している。主な用途は産業用の熱源、地域の暖房、発電、水素製造での活用だ。

蓄熱式の蒸気ボイラー試作機の完成イメージ

蓄熱式の蒸気ボイラー試作機の完成イメージ(写真:Blossom Energy公式HPより掲載)

今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 濱本 真平氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

原子炉技術を蓄熱式ボイラーに応用

―― 御社の事業内容について教えてください。

濱本氏:大型の工場等、大口の熱需要家向けには次世代原子炉となる高温ガス炉の開発を進めています。当社の高温ガス炉は、既存の技術を用いながらも独自の設計で、他の原子炉と比較して開発費・建設費を安価に抑えられ、過酷事故の心配がないという特徴があります。

小口の熱需要家に対しては、蓄熱式の蒸気ボイラーを開発しています。ボイラーには原子炉で培われた技術を応用しています。蓄熱材に黒鉛を用いたのも、原子炉の技術から着想を得ています。

―― 創業のきっかけについて教えてください。

私自身、筑波大学大学院で高温ガス炉の研究で博士号を取得し、日本原子力研究開発機構(JAEA)において、研究炉の運転・保守・研究開発に20年間従事しておりました。

そうした中で、国内の原子力技術は世界に引けを取らないレベルでありながら、原発事故などの影響から業界の勢いが不足していると感じていました。世界には50社を超える原子力関連ベンチャーが存在し、業界を牽引している状況もあり、スタートアップ的な手法によって技術開発を加速させられる可能性に挑戦するため、創業を決意しました。

―― 御社の技術を事業化できたポイントについて教えてください。

ここまで事業化を進めてくることができた大きな要因としては、高温ガス炉と蓄熱式の蒸気ボイラーの2つの事業を、同時に効率よく開発できていることです。両者の技術は表裏一体の関係にあります。具体的には、高温ガス炉の燃料はウランですが、電気を燃料と見なせば、その技術を蓄熱ボイラーに応用できます。

また、前職での経験も開発に活かすことができています。前職で黒鉛を使用した原子炉の開発研究を行っていたことから、蒸気ボイラーでも同様のことができるのではないかという仮説を立て、実際に黒鉛を用いた技術に反映することができました。

さらに、高温ガス炉は実用化まで時間を要する事業ですが、蓄熱事業は開発から実用化までスピード感を持って進められるので、まずはそちらでマネタイズしていけるというメリットもあります。

クリーンエネルギー創出とインフラの強靭化へ

―― 高温ガス炉の研究はこれまで長く続けられてきた中で、なかなか実用化に至らなかったということですが、どのような背景があったのでしょうか?

新たな原子炉の市場機会は非常に少ないです。技術自体の成熟度と、設置する国のエネルギー需要や予算が十分になるタイミングが合致する必要があります。こうした背景から、日本においては高度経済成長期に建設された発電所の置き換えが必要なタイミングに市場機会が来るのですが、その後は当面市場機会が閉じられることを想定しなければいけません。

また、スイッチングコストが高いことも原因のひとつです。原子炉で使用する原料ウランを運ぶところから、廃棄するところまで、様々な装置や設備が既存の軽水炉技術に最適化されています。そのため、新たな技術を段階的に導入していくことが困難です。一度にすべてを一新することも出来ないため、既存の技術にうまく適合させるとしても、導入コストを誰かが負担する必要があるため、これまで新規性の高い原子力技術の実用化は進みませんでした。

―― 高温ガス炉の実用化を進めるタイミングとしては、機が熟してきたのでしょうか?

現在、シェアの多くを占めるのは1970年頃に建設された発電所です。それらは、2030年頃には運用開始から60年を迎えます。施設は高経年化化が進み、経済性も低下しています。これらの施設リプレース需要が2040年頃に国内で最大になり、大きな市場機会になります。

また、世界的な脱炭素化の流れも追い風になっています。たとえ多少コストがかかっても、CO2を排出しないエネルギーを消費しようとするモチベーションが高まっていると感じています。

―― 御社の技術が普及した先のメリットについて教えてください。

当社の開発技術により、クリーンエネルギーとして、CO2を排出しない熱エネルギーを提供することができるようになります。このように持続可能なエネルギーが普及すれば、温室効果ガスを地表から切り離すための発電所の高い煙突が消える未来が来ると考えています。

また、当社の蓄熱ボイラーは、分散して設置できます。可搬性を持たせることも可能なため、震災時などにテンポラリーな暖房器具や給湯器を即座に用意でき、インフラの強靭化につながります。

また、過疎化が進む地域の空き家を改装して蓄熱システムを設置することで、その周辺民家の熱源になります。大型熱源の運営コストが賄えない過疎地域であっても、新しいエネルギー源となり得ます。

代表取締役CEO 濱本 真平氏

代表取締役CEO 濱本 真平氏

世界中のスチームのグリーン化へ

―― 調達資金の使途について教えてください。

今回の資金調達の約3分の1は、大型の業務用冷蔵庫サイズの商用0号機となる蓄熱式の蒸気ボイラー開発に充てる予定です。

残りは、世界中からの人材獲得に活用します。現在、私がエンジニアと経営を兼ねていることもあり、まずはエンジニアの採用に注力します。ボイラー開発の成功後は、拡販が必要となるので、営業職の採用にも力を入れていきます。

―― 今後の長期的な展望を教えてください。

世界中のスチームのグリーン化を目標にしています。製造業で使用されるスチームがグリーン化されれば、世界中で削減が求められる温室効果ガス排出の10%の削減に貢献できます。つまり、世界の気候変動対策の10分の1に寄与することとなるため、大変意義があると考えています。

また、まだ他にもエネルギー領域でのシーズアイデアがあります。段階的に内部で検証し、プロダクトをリリースするタイミングを見計らっていきます。このようなアプローチによって数十年、数百年必要とされる企業を作っていきたいと思います。

100年前までは、哲学が社会を良くする体系的な知識の役割を担っていました。しかし、その後は現在に至るまで科学が牽引しています。未来でも同様であるはずで、当社も科学に根ざした技術開発を行い、社会に新しい価値を提示していきます。

こういった思いに共感してくださる方には、ぜひ私たちのチームで共に色々なアイデアを形にしていただければと思います。

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※ 矢野経済研究所 「脱炭素社会を実現するための国内エネルギー設備・システム市場を予測(2021年)


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