Ms.Engineer、累計5.7億円の資金調達を実施──女性向けAI・IT人材育成事業の拡大を加速

Ms.Engineer、累計5.7億円の資金調達を実施──女性向けAI・IT人材育成事業の拡大を加速

xfacebooklinkedInnoteline

女性のAI・IT人材育成事業を手がけるMs.Engineer株式会社が、インパクト・キャピタル1号投資事業有限責任組合およびK4 Venturesを引受先とした第三者割当増資により、累計5.7億円の資金調達を実施した。調達した資金は、既存事業の拡大、人材採用、新規プログラム開発、全国展開の促進などに活用される予定である。

2021年に設立されたMs.Engineerは、未経験の女性を対象とした8ヶ月間のAI・ITスキル習得を目指すオンラインブートキャンプを主軸事業として展開している。カリキュラムは「AIスキル」「ソフトウェア開発スキル」「ビジネススキル」の3領域を中心に構成されており、アクティブラーニング手法や生成AIなどの最新技術も取り入れている点が特徴だ。卒業生は、経済産業省および厚生労働省が定めるITスキル標準(ITSS)レベル4に相当する高度IT人材として認定されており、同社によれば、卒業生の平均年収は484万円と、日本女性の平均年収を大きく上回る水準となっている。

プログラムの卒業率は自社調査で95%、就職率も90%以上と高い水準を示している。受講者のおよそ7割は地方在住の女性であり、リモートワークを視野に入れた柔軟な働き方や賃金向上を目指す層が多い。受講費用についても公的認定を取得しており、最大80%までの補助が受けられる仕組みを整備している。こうした取り組みにより、地方女性のデジタル人材としての活躍機会拡大と、国内におけるデジタル人材の裾野拡大に寄与する構造を構築している。

代表取締役のやまざきひとみ氏は、大手IT企業でのサービスプロデューサー経験を経て、独立後は動画メディア事業など複数の企業経営に携わってきた。同氏は、コロナ禍で顕在化した女性雇用の不安定さに直面し、「女性の経済的自立」や「賃金格差の解消」をテーマにMs.Engineerを設立したという。創業以来、地方女性や子育て世代が抱える課題を現場から収集し、実践的なカリキュラム設計を進めてきた。

国内のIT業界では、長年にわたりIT人材不足が指摘されている。また、ジェンダーペイギャップ(男女間の賃金格差)も依然として大きな課題であり、OECDの統計では日本の男女賃金格差は主要先進国の中でも高い水準にある。こうした背景を受け、政府や関係省庁は女性のデジタルリスキリング(再教育)支援を強化しており、「新・女性デジタル人材育成プラン」(内閣府・男女共同参画局)などの政策も打ち出されている。

女性IT人材の育成を掲げる民間サービスは複数存在する。SHE、Code Chrysalis、TechAcademy for Womenなどが主な競合であり、それぞれ独自のアプローチで女性のキャリア形成支援を進めている。Ms.Engineerは、女性専用・全オンライン・公的給付金対応などの特徴を前面に打ち出し、差別化を図っている。

今回の資金調達では、受講生への「インパクト測定・マネジメント(IMM)」の導入計画も含まれている。これは、受講や修了後の経済的・社会的変化を可視化し、その成果を事業運営へ反映する枠組みである。新たな資金を背景に、プログラムの多様化やAI教育コンテンツの開発、オフラインを含むコミュニティ形成の強化なども進める方針だ。さらに、全国規模でのパートナーシップ拡大や企業連携、地域女性向けプログラムの推進も見込まれている。過去には愛媛大学、新潟県、九州女子大学などと共同でプログラムを実施した実績もある。

教育HRテック分野は現在、資金調達や政策支援の拡大といった追い風を受けている。一方で、コロナ禍を経て対面学習への回帰や受講費用の負担、プログラムの難易度や満足度の維持といった課題も残されている。Ms.Engineerについても、受講料やサービス内容を巡る議論が一部で生じているが、女性のITキャリア形成やデジタル格差の是正を目指す動きの一端として注目されている。

今回の資金調達により、Ms.Engineerは全国展開や新規プログラム開発、受講生・卒業生コミュニティの拡充を進める見通しだ。

新着記事

STARTUP NEWSLETTER

スタートアップの資金調達情報を漏れなくキャッチアップしたい方へ1週間分の資金調達情報を毎週お届けします

※登録することでプライバシーポリシーに同意したものとします

※配信はいつでも停止できます

投資家向けサービス

スタートアップ向けサービス