ゴーグル不要の没入体験—フォレストデジタルが1.3億円調達し事業拡大へ

AIを活用したアニメ制作を手がけるCreator's Xが、1.1億円の資金調達を実施したことを明らかにした。今回のラウンドの引受先は、XTech Venturesと寺田倉庫。
Creator's Xは、共にU-NEXT HOLDINGSでロボティクス・AI分野の事業立ち上げに携わっていた藤原 俊輔氏と湯浅 義朗氏が2024年2月に設立。今回の資金調達と併せ、同社は名古屋のアニメ制作会社、K&Kデザインの完全子会社化によるグループインと、背景美術の制作スタジオ「スタジオSAIGA」の新設を発表。独自のAIツールを用い、グループ内でアニメ制作を進められる体制を整えた。
代表取締役 Co-CEOの藤原氏と湯浅氏に、同社のAI活用のポイントや創業の背景、今後の展望について詳しく話を伺った。
――現在の事業内容をご紹介ください。
藤原氏:Creator's XにAIエンジニアが所属し、「スタジオSAIGA」がアニメの背景美術、グループ会社のK&Kデザインがアニメ制作を担います。共同代表の私と湯浅が事業推進の役割を果たし、関係者全員で議論しながら、現場ニーズに即したAI活用のあり方を追求できる体制です。
――AIはアニメ制作のどんな場面で活用しているのですか。
藤原氏:たとえば、背景美術の制作です。アニメ制作において、背景美術には人物の描画とは大きく異なるスキルが必要で、遠近法などの専門知識も求められます。実際、アニメ制作会社も背景美術に関しては社内にリソースを持たず、専門スタジオに外注するスタイルが一般的です。
アニメ制作業界は全体的に人手不足で、制作会社は3、4年先までスケジュールが埋まっている状況ですが、中でも背景美術の人材難は深刻です。そもそも美大出身者など高度なスキルを持つ人でなければ務まらないのに加え、昨今はそうした人材がゲーム業界に就職するケースも増えてきました。背景美術のリソース不足が、アニメ制作工程全体のスケジューリングに影響しているとも言われます。
私たちはクリエイターが描き込みに集中できる環境を整えるために、AI活用だけに限らず、進行管理やオフィス環境の整備などもしていきたいと考えています。
――背景美術用のAIツールは今後外販も計画しているのでしょうか。
藤原氏:今のところは想定していません。アニメ制作業界において、AI活用の是非はまさに賛否両論です。当社の創業に際し、私たちが各所にヒアリングしたところでは、各制作会社の中でも人によって意見が分かれる現状が見えてきました。
当社としてはAIツールの開発・販売に特化するより、実際にAIツールを活用したアニメ制作のオペレーションまで社内で構築し、その型ごと大手制作会社などに共有するスタイルを取った方が、業界全体への貢献を目指す上で現実的と考えるに至りました。そんなタイミングでご縁を頂いたのが、今回グループに加わってもらったK&Kデザインです。
――K&Kデザインについて教えてください。
藤原氏:名古屋にオフィスを置き、少数精鋭で活動するアニメ制作会社です。AI活用に関してはアニメ制作業界でも先駆け的な存在で、経済産業省の「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」のオブザーバーも務めています。社外のAIツールを活用していたK&Kデザインと、アニメ制作部隊が社内にいなかったCreator's Xは、互いに相手にない機能を持ち、「AI活用によって、クリエイターがより活き活きと、創造的に活躍できる環境をつくりたい」という思いも共通していたことから、意気投合しました。
――創業の経緯をお聞かせください。
藤原氏:湯浅と私は前職でも同じ部門に所属し、一緒に事業開発に取り組んでいました。Creator's Xを立ち上げるきっかけとなったのは、ある日私たちの個人的なつながりを介して、あるアニメ制作会社から寄せられた「AIツール開発に協力してほしい」という相談です。お話を詳しく聞くうちにアニメ制作会社の専門性の高さや熱意に共感し、何か自分にできることはないかと考えるようになりました。一方で、闇雲にAIを活用することには違和感を感じ、アニメ制作会社と一緒に歩む方法を模索しました。
湯浅氏:私は以前、実写の画像や動画をAIで加工する事業を手がけたことがあり、当時はアニメーションにAIを活用するのはまだ難しいと判断していました。ここ数年のAIの進歩は目覚ましく、いよいよアニメ制作の領域でも実用に堪えるツールがつくれそうになってきたタイミングで、制作会社からご相談を受けた形です。アニメ制作者の長時間労働が常態化することで制作者を志す方が減り、今後さらに人手不足が深刻化してしまうことを防ぎたい。そのために私たちのAIの知見や事業推進の知識・経験を活かせるならぜひ挑戦したいと考え、Creator's X を創業しました。
藤原氏:アニメ×AIと言うと、キャラクター制作、もしくはアニメ制作全体をAIが行うような振り切った形をイメージされがちですが、当社ではAIはあくまで補助的な存在であり、主役はクリエイターです。AIの学習機能で再現可能なラインまでは自動で再現することで、クリエイターはより高度な表現を、より健全な労働環境の中で追求できるはずです。まずは当社グループの中でそれを証明し、業界他社にも波及させていくことで、クリエイターを志望する若者が増える未来へとつなげたいと思います。
――今後の事業展開は。
藤原氏:現在、自社のAIツールを活用したCM動画の制作を進めており、2025年度中にはストーリー作品をまるごと1話つくれる体制を整える計画です。エンジニアやクリエイター、さらには美術監督やプロデューサー経験者も対象に、採用活動を進めています。
長期的な目標は、クオリティの高い作品を制作し続けられる環境を整備することです。そのためにも我々自身がアニメ制作会社と一緒に、一つひとつ地道に、目の前の創作にしっかり向き合っていくことだと思っています。
湯浅氏:より良い作品を作り続けていくためには、アニメ制作者自身が、ワークライフバランスがとれた状態で創ることに没入できる環境が大切だと考えています。正しくAIを活用することでアニメ制作者やアニメ業界に貢献ができるよう、私たちの経験値と情熱のすべてを注いでチャレンジしていきます。
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