製造業の人材派遣市場、労働派遣法改正などにより大手にチャンス【2023年7月更新】

製造業の人材派遣市場、労働派遣法改正などにより大手にチャンス【2023年7月更新】

written by

谷口 毅

日本の人材派遣市場

日本には、約143万人の派遣社員が存在し、雇用者全体に占める割合は2.5%である。リーマンショック直後は派遣社員が大幅に減少したものの、派遣社員の割合は、過去15年間安定して2~3%を推移している※1

欧米諸国に比べて、日本の派遣社員の比率はやや低い。アメリカとはあまり差がないものの、派遣業が世界で一番浸透しているイギリスとは派遣社員の比率が倍以上開いている※2。一方でイギリスでは、1年働いて半年休むなどの働き方の多様性を求めて派遣社員になることを選ぶIT人材などが一定数いると思われ、日本とは異なる事情が存在する。

人材派遣サービス市場の最大の特徴は、寡占化が進んでおらず、多くの中小企業が存在しているということである。最大手のリクルートでさえ、6.4兆円程度ある国内の派遣市場の中でのシェアは10%程度しかない。その要因としては、「参入が容易であること」、「規模拡大が難しいこと(採用を増やさないと売上が伸びない)」が挙げられる。

日本の派遣社員を職種別で見ると、事務職(派遣社員数の31%)、製造関連(派遣社員数の27%)、専門的技術職(派遣社員数の9%)などが多い。特定の派遣職種に特化した派遣サービス会社も多いため、派遣職種によってプレイヤーが大きく異なる。

事務派遣製造派遣技術者派遣
業務内容オフィス事務ライン作業研究開発
単価1000円台1000-2000円2500-6000円
主な上場企業リクルート、パーソル、パソナ日総工産、アウトソーシング、UTテクノプロ、メイテック、夢真ビーネックス
参照:※3

製造派遣サービス

今回は、人材派遣の中で、製造派遣サービスを取り上げる。製造業が日本のGDPに占める割合は24%と大きく、グローバルな競争優位性を持つ分野が多いため、派遣社員が担う役割は大きい。国内製造派遣・請負市場は、2023年には2.4兆円程度になると見込まれている※4

生産工程における労働者派遣事業所の派遣社員数は、コロナの影響で製造活動が停滞したことで、37万人(2019年)から33万人(2020年)に減少したが、2021年には37万人に回復し、2022年には41万人と過去最高水準レベルとなっている※5

一方で、製造派遣業界の課題はボラティリティの高さである。派遣業は一般的に、景気悪化に伴い利益が減少するが、製造派遣は技術者派遣と比べてもより景気に敏感であるといえる。また、中長期的には、AIやロボットの活用により、製造派遣のニーズが縮小する可能性もある。

業界として乗り越えるべき課題はあるものの、大手企業には追い風が吹いている。人材育成の高度化、同一労働同一賃金・労働者派遣法の法改正、事業承継問題への対応が求められる中で、大手企業が中小企業を取り込む動きがみられる。製造派遣上場大手4社の市場占有率は、2018年の11.5%から2021年の17.5%に上昇している※5数万社は存在している市場といわれており、大手にとって中小企業を取り込む余地は依然として大きい。

今回は製造派遣の大手企業に注目したい。以下の表に国内製造派遣における代表的な上場企業4社を挙げる。20%程度の売上成長を達成している企業が多く、足元の需要が旺盛であることが推測される。

アウトソーシングワールドHDUTグループ日総工産
時価総額(5/18/2023)1,5694961,070268
売上(直近年度)6,8981,8361,706908
国内製造派遣売上(直近年度)1,2247071,330731
売上成長率 (直近年度)21%19%9%17%
営業利益率 (直近年度)3.2%4.9%5.2%2.5%
※単位は億円

アウトソーシングの売上規模が依然として大きい。同社は、積極的なM&A路線を展開していたが、不適切な会計処理事案が発生したことに伴い、オーガニック成長にシフトする予定である。そのため、今後3年間の売上平均成長率は11.1%とこれまでの売上成長率に比べて鈍化するが、営業率は3.2%から5.2%に改善する計画を立てている(UTグループなどを利益率のベンチマークに置いているとみられる)。国内製造派遣事業も連結売上と同程度の成長率を見込んでおり、期待値が高いことがうかがえる。

UTグループは、投資家が低利益率企業に厳しい目を向ける中で、人員配置の適正化、採用単価の抑制、業務標準化などの利益率改善に取り組んだ成果が見られた。半導体市場の在庫調整や事業売却の影響で売上成長率が1桁台であったものの、EBITDAは4.8%から9.2%に大きく改善している。今期は、17%の売上成長を見込んでおり、成長戦略に再び回帰すると思われる。

ワールドホールディングスは、利益率を棄損せずに高い売上成長率を達成できている。プロダクツHR事業の製造分野は30%弱成長しているが、自動車業界など新たな市場を開拓できていることが要因のようだ。

日総工産は、部品不足やコロナ禍の影響による稼働減少の影響が続いており、営業利益率が低い。今期は、2.5%から3.6%まで回復を見込んでおり、これまでの悪材料が一巡するか注目である。

派遣社員の賃金がコストの大半を占めているが、賃金は下方硬直的であるため、通常、利益率を大幅に引き上げるのは難しい。ただし、インフレが加速する現在の状況では、顧客企業が単価引き上げ要請に応じる可能性が高く、利益率を改善させるチャンスともいえる。

国内製造派遣の企業紹介

上記の製造派遣企業の中で、投資家からの評価が高いUTグループを取り上げる。直近年度の売上に基づくPSR(株価売上高倍率) は、競合が0.2-0.3倍程度に対して、UTグループは0.6倍とプレミアムがついている。PER(株価収益率)で見ても、競合と比べると高い水準である(日総工産のPERも高いが、利益率が押し下げられていることが要因とみられる)。

UTグループ

  • 設立期:

    1995年

  • 代表:

    若山 陽一

  • 若山氏の製造派遣の雇用慣行を改善したいという強い思いから、正社員雇用・社会保険100%完備などを打ち出し、当時の業界の常識を覆す。2000年代前半には、技術の高度化を目指し、半導体事業に参入。しかし、リーマンショックにおける半導体業界の冷え込みもあり、2010年からは本業の製造派遣に回帰。近年は、製造業の対象業種拡大のため、買収を積極的に行っている。技術職社員は32,000人程度。

UTグループは、①マニュファクチャリング事業、②エリア事業、③ソリューション事業、④エンジニアリング事業、⑤海外企業の5つを展開している。2022年4月のセグメント変更に伴い、エリア事業と海外事業が追加されている。

マニュファクチャリング事業では、単価の高い大手製造工場への人材派遣・請負を行っており、連結売上の49%を占める中核事業である。エレクトロニクス関連が38%、輸送機器関連が33%、産業・業務用機械関連が29%占めており、特定の産業の景気動向に影響されにくい点で事業のバランスがよいといえる。

エリア事業は、旧マニュファクチャリング事業のその他分野を中心とする地域需要に対応する人材サービスを指し、連結売上の30%を占める。今後、地方の中堅企業のM&Aによる売上拡大に注力すると思われる。一方、マニュファクチャリング事業のEBITDA14%に対し、エリア事業のEBITDAは5%であり、顧客属性の違いを加味する必要はあるものの、利益率の改善の余地がありそうだ。

ソリューション事業は、大企業向け(日立、東芝など)に、顧客企業の社員をUTグループの社員として受け入れる構造改革ソリューションを行っている。連結売上に占める割合は11%と大きくはないが、26%という高成長(売却済のUTシステムプロダクツの売上高を除く)を達成しており、成長事業という位置づけである。

エンジニアリング事業は、設計開発・ソフトウェア・IT・建設エンジニア等の技術者派遣を行っており、売り上げの5%を占める(旧エンジニアリング事業に含まれていた設計・製造技術者分野は、マニュファクチャリング事業に変更されている)。この事業の最大の魅力は、利益率の高さである。技術者派遣を行っているテクノプロやメイテックも営業利益率は10%を超えている。専門性が高いことによる高い単価が利益率を押し上げているとみられる。

海外事業は売上の6%を占める。日本で働いたベトナム人技能実習生が母国で働ける環境を構築している。

中期経営計画では、2021~2025年にかけて、売上の年平均成長率24%増、EBITDAの年平均成長率33%増と意欲的な目標を掲げている。今後のアップサイドポテンシャルとしては、製造・技術者派遣領域でのM&A、人材育成による単価アップ、新規事業(人材紹介、HRテック領域など)の本格稼働が挙げられる。

製造派遣業界で、UTグループが高く評価されている理由としては、①成長期待が高い半導体業界向けのエクスポージャーが大きいこと、②ソリューション事業などの成長領域やIT技術者派遣などのキャッシュカウなどもあり、事業バランスが良いこと、③正社員雇用などの社員に優しい制度を打ち出すことで離職を抑制できていること(月間離職率は3%程度と業界平均の7-8%を大幅に下回っている) (※6)、④中期経営計画で高い成長にコミットして、業績を伸ばしてきたことが挙げられる。

海外企業の事例

製造業に特化する大手の海外派遣会社は限られている。そのため、日本の大手は、海外展開にあたって、現地の小規模な製造派遣会社を買収するという流れが続いている。例えば、UTグループは、2020年にベトナムのGreen Speed Joint Stock Companyを買収、アウトソーシングは、2016年にドイツのOrizon Holdingを買収している。

世界では、総合人材派遣会社が製造派遣も担っていると考えられる。Adecco(スイス)、ManpowerGroup(アメリカ)、Randstad(オランダ)が世界の人材派遣会社の中で規模が最も大きい3社である。これらの企業の競合には、海外展開をしているリクルートやパーソルが含まれる。日本の派遣市場と同様だが、世界でも各社のシェアは細分化しており、差別化が難しい業界(世界トップ3企業のEBITDAマージンは5%程度)といえる。

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参考:
※1 https://www.jassa.or.jp/keywords/index1.html
※2 https://www.yumeshin-hd.co.jp/ir/uploads/FY19-FY21_medium-term.pdf
※3 https://ssl4.eir-parts.net/doc/2154/ir_material_for_fiscal_ym26/111850/00.pdf
※4 https://www.nisso.co.jp/ir/upload_file/m005-m005_07/210512-1.pdf
※5 https://ssl4.eir-parts.net/doc/2146/tdnet/2282723/00.pdf
※6 https://www.fisco.co.jp/uploads/utgroup20170816.pdf

新卒で資産運用会社のFirst Sentier Investorsに入社し、アナリストとしてアジア・日本の株式の分析を行う。その後、リクルートでプロダクトマネージャーを経験。2022年にケップル入社。現在はデータベース部門を管掌、および海外事業部門を兼務。スタートアップデータ拡充のための企画、分析に加え、KEPPLEメディアやKEPPLE DBへの独自コンテンツの企画、発信を行う。

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