大気中からCO2を捕捉、DAC技術で挑むカーボンニュートラルの実現

大気中からCO2を捕捉、DAC技術で挑むカーボンニュートラルの実現

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KEPPLE編集部

近年、世界中の国々で脱炭素化に向けた取り組みが加速している。EUは、2050年までにカーボンニュートラルを目指す「欧州グリーンディール」を策定。米国では、再生可能エネルギーへの大規模なインフラ投資や電気自動車への移行が進む。

アジアでは、中国が2060年のカーボンニュートラルを目指し、再生可能エネルギーへの投資が拡大している。日本も2050年のカーボンニュートラルを目標に掲げ、2030年までに2013年比で温室効果ガス排出量を46%削減するという中間目標を設定している。

このように、世界的に気候変動対策の重要性が高まる中、再生可能エネルギーの利用拡大やエネルギー効率の向上など、脱炭素化のための多様なソリューションが開発・推進されている。その技術の一つとして注目を集めているのが「Direct Air Capture(DAC)」だ。

DACは、0.04%しかない大気中の薄い二酸化炭素(CO2)を直接回収し、地中に埋めたり、合成燃料等の原材料として活用することで気候変動を緩和する技術である。そして、日本で新たなDAC技術の開発に挑む企業がPlanet Savers株式会社だ。

ゼオライト吸着材を用いたDAC技術

同社は、JICAで中東の電力・エネルギー開発や政策支援などに携わった経験を持ち、連続起業家でもあるCEOの池上 京氏と、東京大学大学院にてゼオライト吸着材開発、システム設計研究に従事してきたCSOの伊與木 健太氏が2023年7月に設立したスタートアップだ。DACにおける低コスト・高性能な新たなシステムの研究開発、社会実装に取り組んでいる。

日本では、火力発電所や化学工場などから排出されるCO2を回収し、地中などに貯留する技術「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」に取り組む企業が徐々に出始めている。一方、DAC技術については、一部の大手事業会社が取り組んでいるものの、革新的な技術を持つスタートアップはまだ出てきていなかった。

そもそも、大気中から低濃度のCO2を回収するためには、高いコストがかかることが課題であったが、同社は、伊與木氏の持つ独自のゼオライト合成技術、システム設計技術でこの領域に挑んでいる。

天然のゼオライトは沸石とも呼ばれ、1756年に発見された多孔性の結晶構造を持つ鉱物である。その独特な構造により優れた吸着材として機能することがわかっており、合成技術が年々進化している。

同社の技術により開発されたゼオライトは、CO2吸着量の向上、低コストでの容易なCO2脱離、高い耐久性と高速合成を実現可能である。そして、その高性能なゼオライト吸着材を用いた、モジュール型DAC装置の設計も行う。2024年1月頃にはDACシステムの試作モデルが完成予定で、さらに開発を加速させていくという。


今回の展望などについて、CEO 池上 京氏とCSO 伊與木 健太氏に詳しく話を伺った。

気候変動への意識の変化

―― 国内において、気候変動問題に関する取り組みにはどのような課題がありますか?

池上氏:日本でも気候変動問題への関心が高まりつつあり、それに関連するスタートアップも増えてきています。しかし、現在はCO2排出量の可視化やアドバイザリーに焦点を当てたSaaS事業やコンサルティング事業が主流であり、次のステップであるCO2排出削減に向けた先進的なテクノロジーを提供する企業が不足しています。脱炭素化のためには、排出してしまったCO2を回収することは重要であり、今後ますますこのようなソリューションが必要になってくると考えています。

欧米ではDAC企業だけでも数十社存在し、ケニアでもDACのプラントを作る動きも出てきていますが、日本ではまだゲームチェンジャーとなるようなクライメートテックのスタートアップは現れていません。政府の支援策も増えてきていますので、今後、私たちのように海外の成功事例を参考にして、CO2回収技術や、その他の革新的なディープテックスタートアップに取り組む企業が増えてくれることを期待しています。

―― DACの技術開発に取り組まれたきっかけを教えてください。

池上氏:私は以前、JICAで働いており、当時から社会に対してインパクトを与えるようなビジネスに携わりたいという思いを強く持っていました。中東でインフラ開発を支援しており、運輸や交通、上下水道、電力などさまざまな分野に関与し、特に電力に関しては、太陽光、風力などクリーンエネルギーの分野に携わりました。一方、当時日本ではまだ気候変動への意識が低く、逆行するようなソリューションが採用されていることに気付き、欧米における問題意識とのギャップを感じていました。

その後、イギリスに留学し、気候変動問題に対する意識の高い友人たちと出会い、さらにこの問題への関心が深まりました。帰国後、日本においても、線状降水帯や自然災害、温暖化など、気候変動の影響を目の当たりにし、脱炭素化対策への遅れについて危機意識が高まりました。今取り組まなくては、状況はますます悪化していくと感じたことがきっかけのひとつです。

次世代に問題を先送りするのではなく、自ら行動して大きなインパクトを与えたいと考え、水素製造や人工光合成、プラスチックリサイクルなど気候変動に貢献できるものについていろいろと調べました。その過程で研究者の伊與木と出会い、DACの技術を用いた事業の立ち上げに至りました。

独自の強みを持つゼオライト合成技術

――伊與木さんのこれまでのゼオライト研究のあゆみについて教えてください。

伊與木氏:学生時代からゼオライトの合成技術や高機能化のための手法開発などを探求してきました。東京大学大学院で博士号を取得後に、マサチューセッツ工科大学の研究員としてアメリカに渡り、さらに触媒や反応などの応用に焦点を当てた研究にも携わりました。帰国後は東京大学に戻り、さらにゼオライトの吸着に関する研究に取り組んできました。

――御社の持つDAC技術の強みは?

伊與木氏:ゼオライトは200年以上前に発見された天然鉱物であり、合成技術も約70-80年前から開発が進んでいますが、私たちの持つ独自技術により開発したゼオライトは、高いCO2吸着力を持ち、簡単にCO2を脱離でき、少ないエネルギー消費で利用できることが強みです。ゼオライトの合成自体も、早く、低コストで、耐久性の高いものを作ることができます。さらに、装置も小型化でき、建設費を抑えられることも特長です。

(左)CEO 池上 京氏 (右)CSO伊與木 健太氏


―― DAC技術を開発するにあたり、苦労した点などはありましたか?

池上氏:幸いなことに、これまで開発は順調に進んできたと感じています。最初は海外のスタートアップと正面から立ち向かわなければならないため、本当に成功できるのか不安もありました。ピッチイベントでの評価が得られなかったり、助成金事業に採択されなかったこともありましたが、プラント設計や運営のプロフェッショナルなメンバーとの出会いにも恵まれ、少しずつ軌道に乗り始め、これまで進めてくることができました。

しかし、日本でのDACマーケットを発展させるためには、さらに政策的支援やCO2の地下貯留の取り組みが進んでいくことが必要不可欠です。そうなれば、マネタイズできるカーボンクレジットを生み出すことができるようになるため、このような動きを早めるべく今後も積極的な取り組みを行っていきます。

日本では、まだ企業の環境への取り組みにコストをかけることが難しい状況ですが、環境への意識は変わりつつあります。新たな制度や仕組み、企業の考え方の変化などにより、気候変動への対策がより進んでいくと考えています。

地球環境を守るための未来への挑戦

―― 御社の技術が普及した先の社会のメリットについて教えてください。

池上氏:我々のDAC技術が普及すれば、次世代に美しい地球環境を残すことに貢献できると考えています。産業革命前と比べると気候変動問題は深刻で、平均気温上昇が1.5度を超えると加速度的に温暖化が進む可能性が高まると言われています。将来的には、現在の生活環境を維持することが難しくなるかもしれないのです。これらを防ぐために、再生可能エネルギーへの転換やCO2排出量の削減に加え、DAC技術によるCO2回収も重要です。

―― 今後の長期的な展望を教えてください。

池上氏:私たちの技術は1年で一気に完成するものではなく、漸進的な開発が必要です。技術開発を進め、まずは2025年までに社会実装・商用化を実現することを目指しています。そして、2030年までに、我々の技術の量産化を進め、海外での事業展開も加速していきます。

現在のDACにかかるコストはまだ高く、1トンあたり500-1000ドルがかかりますが、2030年までにその価格を100ドル程度まで下げ、100万トン規模でCO2を回収できるようになることを目指します。また、CO2の回収だけでなく、CO2を原料として燃料やプラスチック材料をつくるための取り組みも始めたいと考えています。

さらに、気候変動への新たなアプローチを通じて社会的課題を解決し、地球全体にインパクトを与える事業を進めていきたいと思います。世界的に見ると、DAC領域には多くのプレイヤーがいますが、同時に多くのチャンスも存在すると感じています。この分野で勝ち切るつもりで取り組んでいますので、ぜひ応援していただけたら嬉しいです。

Planet Savers株式会社

Planet Savers株式会社は、二酸化炭素を大気中から直接回収するDirect Air Capture(DAC)の開発を行う企業。 同社は、大気中の二酸化炭素を直接回収し、排出量実質ゼロに貢献する技術であるDACの開発を行う。同社のDACは、吸着剤技術による二酸化炭素回収量増、二酸化炭素脱離容易な吸着剤を用いて、エネルギー使用低減などの強みを持つという。同社は、DACシステムを活用し、気候変動の課題解決に取り組む。

代表者名池上京
設立日2023年7月14日
住所東京都渋谷区神宮前6丁目23-4桑野ビル2階
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