株式会社mento

「チームの熱量は管理職から」コーチング×AIで組織を変える──mentoが16億円調達


国内大手企業に導入実績を持つ管理職向けコーチングサービスを運営する株式会社mentoは、シリーズBラウンドにおいて、第三者割当増資15億円と融資1億円を合わせた、総額16億円の資金調達を実施した。
本ラウンドでは、Eight Roads Ventures Japanがリードインベスターを務め、既存株主のWiLに加えて、新たに三井住友海上キャピタルとAGキャピタルが参加。また、融資は商工中金からの実行で、エクイティとデットを組み合わせた調達となっている。
mentoは、厳正な審査を通過した約200名のプロコーチによる1on1コーチングを核とし、管理職に特化した育成支援を展開。パナソニックや伊藤忠商事、電通など大手企業を中心に累計6万時間以上のコーチングを提供してきた。コーチングを受けた管理職の約89%が行動変容を実感しているという。
今回の調達により、mentoはこれまでの個別支援に加え、チーム全体の変化を支援する「マネジメントサクセス」プラットフォームの開発に本格着手する。
資金調達に際し、CEO木村憲仁氏に、事業や今後の展望について伺った。
管理職専門コーチとして、日系大手を中心に支持を拡大
ーーmentoについて教えてください。
木村氏:一言でいうと、「管理職専門コーチ」を提供するサービスです。通過率10%以下の審査を経て選ばれた約200名のプロコーチが、企業の中間管理職に1on1で伴走し、日々のマネジメントやキャリア、人間関係の悩みに向き合いながら、課題解決と行動変容を支援しています。
人材開発の領域で根強いのが、投資対効果が見えづらいという課題。だからこそ我々は、単なる満足度にとどまらず、行動変容までを重視しています。アンケートやインタビュー、周囲からのフィードバックなど多くの情報を活用して多面的に変化を可視化することで、企業から信頼を得ているんです。
ーー管理職にフォーカスしている点が特徴的ですね。
もともとmentoは、ビジネスやキャリア、人間関係など、さまざまな悩みを抱える個人に対して、専門のプロコーチを紹介し、1on1のコーチングセッションを提供するサービスとしてスタートしました。
お客様のご要望に応えていくなかで、気づけば管理職の方々が最も大きなシェアを占めるようになっていたんです。日々のコーチングを通して多くの「本音」を聞くなかで、管理職こそが深い葛藤を抱えながらも、本気で「会社を良くしたい」と考えている存在であることに気づかされました。
近年では、「管理職の罰ゲーム化」といった言葉がトレンド化し、そのテーマを扱った書籍も多く売れています。それだけ、管理職にかかる負担は年々増しているということです。ジョブ型雇用や多様な人材との協働、ハラスメントへの配慮、そしてリモートワークによるチームの分断。さまざまな構造的な変化が、マネジメントを難しくしています。
しかし、管理職は組織のエンゲージメントを高めるハブであり、企業の競争力を支える中核でもあります。彼らが健やかに機能しなければ、組織全体の熱量は上がりません。
だからこそ私たちは、現場のリアルに寄り添い、管理職に特化した支援を磨き続けてきました。管理職の変化が、やがてチームを、組織を、日本社会全体を動かしていく。そんな信念でサービスを提供しています。

「誰もが受けられるコーチング」を──質と仕組みの両立
ーーmentoが他社と差別化されている点はどこにありますか?
従来のコーチングは、経営層向けに小規模・高額で提供されるエグゼクティブコーチングか、集合研修型のどちらかがほとんどでした。mentoはその中間に位置し、管理職層にも届く価格帯と質を両立。導入企業の規模やステージに応じて、数人から数百人規模まで柔軟に展開可能なスケーラブルなプラットフォームを構築しています。
また、フリーランスのコーチにプロジェクトベースで業務を依頼することで、固定的な人件費を抑えつつ、質の高いコーチングを実現。サービスは完全オンラインで提供されており、プロジェクトの設計、コーチのアサイン、日程調整、セッションの記録、進捗レポートまで、すべてがプラットフォーム上で完結します。これにより、人事部門の工数を最小限に抑えつつ、再現性の高い導入が可能となっています。

ーー日本でのコーチングの浸透について、どのように感じていますか?
欧米では以前からコーチング文化が定着していますが、日本でも2020年以降急速に認知が進んだと感じます。2019年にローンチした当初は、「怪しい」「よくわからない」という声もありましたが、コロナ禍を経て状況は一変しました。
急激な環境変化の中で、在宅勤務やキャリアの不確実性が増したことにより、「誰かに相談したい」という声が社会的に顕在化したのだと思います。
加えて、働き方の多様化や将来の不確実性が増す中で、大企業の経営陣すら「10年後の組織がどうなっているか分からない」という感覚を持ちはじめています。不確実性の高い時代において、リーダー層の自己認識と意思決定を支援するコーチングの価値は、ますます高まっていると実感しています。
プロダクトカンパニーへの進化──「マネジメントサクセス」が目指す世界
ーー今回のシリーズB調達の背景は。
今回の資金調達は、mentoが「コーチングの会社」から「プロダクトカンパニー」へと進化するための重要な一歩です。
これまで培ってきた個別支援の知見を活かし、管理職個人の変化をチーム全体へ波及させる仕組みを、テクノロジーで実現しようとしています。
中核となるのが「マネジメントサクセス」プラットフォーム。これはAIとプロのコーチの力を掛け合わせ、マネージャーの行動とチームの成果をつなげるプロダクトです。
コーチングを通して見えてきたのは、管理職個人の課題をいくら改善しても、それだけでは組織全体の生産性向上に限界があるということ。背景には、業務の多忙さ、フィードバック機会の欠如、チーム状況の見えにくさなど、構造的な障壁があります。そこで、私たちはAIの力を使って、マネジメントそのものを支える仕組みを構築します。
中間管理職自身の課題解決やエンパワーメントにはプロのコーチが伴走し、チーム運営の円滑化やパフォーマンス向上にはAIテクノロジーが役割を担います。それにより、プロコーチとAIでマネジメントの役割を「シェア」できる世界を作ります。中間管理職個人からチーム全体へとwell-beingを広げ、さらに多くの人の「夢中をふつうにする」ことを実現してまいります。

「この国の熱量を上げる」挑戦は、まだ始まったばかり
ーー木村さんは以前、事業を「登山」にたとえて「まだ1合目」と話されていました。現在のご自身の感覚として、どこまで来たと思いますか?
進んではいるんですが、やっぱりまだ1合目だなと感じています。近づいてみると、思っていた以上に山が大きかった。でも、それだけ人生をかけて取り組む価値のあるテーマだと、あらためて思っています。
私たちは今、「People Transformation」を掲げています。DX化が進む時代だからこそ、本当に変えるべきは「人」の側だと考えています。デジタルとプロフェッショナルの力を掛け合わせて、人の可能性を引き出す仕組みを作りたい。目指しているのは、単なる業務効率化ではなく、働く人の「時間の価値」そのものを高めることです。
その先にあるのが、私たちのビジョン「この国の総労働熱量を上げる」ということ。最終的には、mentoを通じて「最近、日本が少し元気になってきた」と感じてもらえるような社会をつくりたい。そんな登頂の景色を、僕たちは本気で見に行こうとしています。
ーーこの挑戦を続ける中で、今あらためて感じている覚悟や思いを教えてください。
コーチングって、まだニッチな領域に見えるかもしれません。確かに、そういう面もあると思います。でも私たちは、人口が減少していくこれからの日本で、企業の生産性を上げながら、人々が幸せに生きていけるような世界をつくる、そんな壮大なテーマに本気で取り組んでいます。
今回の資金調達は、そのビジョンを実現するための第一歩です。ビジネスとしてもしっかり結果を出して、「コーチングって、日本の未来を変えるうえで大事なエッセンスだったよね」って、後になって言ってもらえるような、そんなビジネスに仕上げていきたいと思っています。
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