AIはこの5年で目覚ましい進歩を遂げており、ChatGPTの出現によってAI市場はさらなる盛り上がりを見せている。大規模言語モデルの登場まで、同じテストにおいて人間の点数がAIを上回り、AIは簡易的なチャットボットや分析など、高精度な結果が求められない範囲でのみ利用されていた。それが2018年10月の大規模言語モデルの登場により急激な精度向上を果たし、2019年6月には人間の点数を超えるまでとなった。そして、2022年11月に公開された対話型AIのChatGPTは、攻撃的な言葉の使用やバイアスといったAIの有害な傾向を抑制しつつ、まるで人間とコミュニケーションをとるような自然な会話が可能となった。ユーザー数はリリースから5日で100万人、2カ月で1億人を突破し、SNSを通じて世界的にその存在を知らしめた。これにより、AIは「限られた人だけが操作・利用するもの」から「誰でも日常的に活用するもの」へと社会の認識が大きく変化した。
2023年3月にはChatGPTのAPIが一般公開され、様々なサービスに組み込まれることで、社会に大きな影響を与えている。今回は、ChatGPTをはじめとした生成AIについて考察していく。
AIとは
AIとは、人間が物事を考えるプロセスに近い形で動作するプログラム、または人間が知的と感じる情報処理や技術といった広い概念で理解されている※1。画像・音声認識、自然言語処理、需要予測、機械制御など様々な領域で活用される。
AI市場の現状
AIシステムのグローバル市場は、2023年に1530億ドル(前年比26.9%増)となり、2026年には3000億ドルを超えるとされる※2。AI後進国といわれる日本だが、米国企業とのAI導入率の差は縮まりつつある※3。2021年にEUがAI規制の枠組み案を提示し、米国のFTC(連邦取引委員会)がAI規制による摘発を開始するなど、欧米では法規制が強化された。欧米でAI導入に慎重になる風潮のなか、日本企業が導入率を伸ばしたと考えられる。一方、AIの利用におけるガバナンスの取り組みは、日本は米国に追いついていない状況であり、企業のみならず社会全体での対応が求められる。
生成AI(Genarative AI)とは
生成AIとは、画像、文章、音声などのコンテンツやアイデアを新たに生成することのできる人工知能のことである。大量のデータを学習することにより人間が作り出すような絵や文章を生成することができる※4。
生成AIは、多くの場合で人間よりタスクを完了するまでの時間が圧倒的に短いため、生産性の向上やコスト削減が可能になる。国内企業でも、ChatGPTを活用したマーケティング関連の製品が多く誕生しており、消費者分析やそれに基づく広告制作はより効率化されていくと思われる。さらに、AIによる置き換えが難しいと考えられていたデザイン、設計、プログラミングといった領域でも高度な業務に対応できるようになった生成AIサービスが誕生している。
生成AI市場の現状
生成AIの市場規模は、2032年までに2000億ドルになると推定され、生成AI市場が今後10年間、2年ごとに倍増すると見込まれる※5。半導体業界におけるムーアの法則のような加速度的な進歩を遂げている。そのため、株式相場が弱含む中でも、大型投資が活発に行われている。2022年だけでも、ベンチャーキャピタルは、生成AI領域へ20億ドル以上を投資しており、Microsoftが100億ドルでOpenAIの株式を取得、Googleは3億ドルでAnthropicの株式を取得した。同分野での起業意欲も高まっている。アクセラレーターのY Combinatorが2023年4月初旬に開催したデモデー(出資を受けたい企業が投資家の前で事業計画をプレゼンするイベント)では、参加した260社強のうち約4割をAI関連が占めた※6。
投資が活発である一方、生成AIの活用をめぐる各国政府の対応にはばらつきが出ている。米国政府は、システムの安全性や差別防止などの原則やリスク管理の手順書を公表したうえで、開発企業が安全確認の責任を負うとの姿勢を示した。いずれも法的拘束力はなく、開発企業に自発的な取り組みを促すことで技術革新に歯止めをかけない「小さな政府」の考えに根差した方針を取っている。欧州政府は、AI導入に慎重な姿勢が見られる。イタリアが2023年3月末にChatGPTの一時的な使用禁止を発表したことは記憶に新しい。また、欧州委員会は2023年5月にAI規制案を承認し、2024年以降の施行を想定している。AIの利用に関する包括的な規制を目指したものとしては主要国・地域で初めてとなる※7。日本では、2023年4月に生成AIの活用を巡り関係省庁の「AI戦略チーム」初会合が開かれ、行政における業務効率化のためにChatGPTの利用についての検討が始まった※8。
多国間で足並みをそろえるべく、共通のルール作りを目指す取り組みも見られる。例えば、日本が議長国を務める主要7カ国首脳会議において、生成AIについての議論がなされ、2023年内に著作権保護や偽情報対策などを含むG7としての見解をまとめることで合意した※9。
日本のビジネスでの利用率向上の余地は大きい。実際の仕事での利用率について、2割弱に留まるアンケート調査結果もでている。興味があるとの回答は7割を超えたものの、情報の正確性などへの懸念から業務利用は手探りの状況と思われる※10。
カオスマップと注目企業
本カオスマップでは、14種類のカテゴリーに従い、ケップルの独自調査で選定した国内20社、海外67社のスタートアップを掲載している(国内は、既存製品に生成AIを活用している企業も含む)。
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米国を中心に、生成AIに特化したスタートアップが多数存在するため、海外企業が多い結果となった。一方、国内では、マーケティング関連企業が従来のサービスにOpenAI社のGPTモデルを活用した機能を追加する事例が多く、生成AIを用いた製品を主力とした企業は限定的である。背景には、生成AI企業に対する投資が限定的であること(米国では、OpenAIが運営するファンドなどが存在する一方、国内では生成AIに特化したファンドは少ない)、生成AIに関わる人材が少ないこと、AI利用のルールづくり自体が行われている段階であることなどがあげられる。日本のAI導入率が米国を追随したように、国内スタートアップが今後多く誕生することが期待される。
以下、各カテゴリーを紹介する。
対話型チャット
対話型チャットには、機械学習や自然言語処理を用いて、任意のテキストに対してコミュニケーションが可能なサービスを展開する海外企業を4社分類している。
代表格は、OpenAIの「ChatGPT」であり、OpenAI、Hugging Face、Anthropicの3社がユニコーンステータスに達している。他のカテゴリーよりもユニコーン企業が多い理由としては、機能として汎用性が高く、人間の代替もしくは人間以上に作業を効率化し人件費削減につながる点が評価されていると考えられる。
国内企業では、オルツが大規模言語処理モデルを開発しており、累計調達額は62億円に及ぶ。同社が開発するモデルは、OpenAIのGPT-3と同水準のパラメータ(大きいほど高性能となる数値)である。最新版のGPT-4と比較するとデータ量では劣るが、ビジネス利用で重視される事実性の担保やカスタマイズ性に重点をおいている。会議やレポートなどでの個人の発言をログデータとして取り込む機能や報道向け資料のような信憑性の高い情報の学習により、AIが大量なデータを学習することで生じるハルシネーション(もっともらしく言うウソや間違い)を抑制する狙いがある。また、個人が入力した情報が運営者に伝わることのないよう開発されており、「ChatGPT」と比較してより企業向けの製品とされている※11。
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参考:
※1 総務省 「進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0」
※2 IDC 「Worldwide Spending on AI-Centric Systems Forecast to Reach $154 Billion in 2023, According to IDC」
※3 PwC 「2022年AI予測(日本)」
※4 NIKKEI COMPASS 「生成AI(ジェネレーティブAI)」
※5 Deloitte 「生成AI(Generative AI)のビジネスへの影響」
※6 日本経済新聞 「米Yコンビネーターが起業支援イベント 4割がAI関連」
※7 時事通信社 「欧州、規制案で先行 日米は技術革新に配慮 生成AI対応」
※8 日本経済新聞 「生成AI、政府業務利用へ検討 省庁チームが初会合」
※9 日本経済新聞 「生成AIのルール、年内に見解 G7閣僚級「広島プロセス」
※10 日本経済新聞 「生成AI「仕事で利用」2割 正確性などに懸念」
※11 ロボスタ 「日本発オルツの対話型AI「LHTM-2」は「ChatGPT」とどう違うのか!? 高性能AIチャットボットが普及する未来とは? オルツCTOに聞く」