水素エネルギー社会を目指すスタートアップ5選

再生可能エネルギーを用いたグリーン水素のコスト低減を目指す東京大学発スタートアップ、株式会社pHydrogenが、シードラウンドで第三者割当増資による3億円の資金調達を実施した。引受先はインキュベイトファンドで、調達資金は海水電解システムの実証、事業連携、スケールアップに活用される予定だ。
pHydrogenは2025年1月設立。主に海水電解技術を用いたグリーン水素製造装置の開発と販売を手がける。開発拠点となっている東京大学南研究棟アントレプレナーラボでは、資源量が豊富で安価な金属(ベースメタル)と、世界中で利用可能な海水を原料にすることで、従来の水素製造に伴う希少金属や大量の淡水利用という課題に対応してきた。特に従来の水素製造装置では、イリジウムなど高価な貴金属や淡水が必要とされていたが、pHydrogenはコスト構造の見直しと供給・運用面での制約緩和を目指している。
水素は燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出しないエネルギーキャリアとして注目されているが、現状では多くが化石燃料由来の「グレー水素」に依存している。再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」への転換は、製造コストやエネルギー変換効率、原材料調達、地域資源の制約など複合的な課題を抱えている。特に水素製造装置は高価な貴金属を用いるケースが多く、導入コストや大規模普及の障壁となることが多い。さらに、淡水資源の少ない地域では原料水の調達に新技術が求められており、海水利用への期待が高まっている。
このような背景から、pHydrogenは沿岸部でのオンサイト水素製造や淡水難地域での大規模供給を視野に入れて技術開発を進めている。同社の技術は東京大学工学系研究科 髙鍋研究室の研究成果を基盤とし、代表取締役CEOの飛田貴大氏が創業した。取締役CTOは髙鍋和広氏が務め、長年にわたり水素関連の基礎研究と社会実装に取り組んできた。両名によるアカデミア発のスタートアップとして、基礎研究段階から産業応用を志向してきた経緯がある。
水素製造分野では、国内外の大手重工企業やエネルギー企業も参入を進めている。日本国内では三井物産、東芝エネルギーシステムズ、日立造船などが水電解装置の実証やプラント開発を推進しているほか、海外ではノルウェーのNEL、米国のPlug Power、英国のITM Powerといった専業メーカーが存在感を強めている。さらに、石油・ガス系の大手エネルギー企業もグリーン水素への投資を拡大しており、市場環境は競争が激しい。国際エネルギー機関(IEA)の推計によれば、2023年の水素生産量は9700万トンに達し、そのうち低排出型水素は1%未満に留まっている。今後の拡大にはコスト低減や供給安定性の確保、インフラ整備が不可欠である。
この市場環境下で、pHydrogenの技術は装置の低コスト化や希少金属を使わない構成、大量の水資源確保の容易さ、小型化による分散型利用といった特徴を持つ。従来型装置と比べて、導入コストや運用コストの低減が見込まれるものの、競合との差別化や大規模量産の実現性については、今後の実証・スケールアップで明確になる見通しだ。
今回調達した資金は、主に装置の大規模実証、量産化検証、人材採用に充当される。引き続き電解装置の高性能化や事業提携、沿岸部や淡水資源に乏しい地域への導入先確保に取り組む計画だ。
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