アスエネの次なる一手、42億円調達でグローバル展開とM&Aを加速

アスエネの次なる一手、42億円調達でグローバル展開とM&Aを加速

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KEPPLE編集部

「長期的に考えれば、大企業もスタートアップも海外で勝たなければ活路はない」──そう語ったのは脱炭素分野で事業を手掛けるスタートアップ、アスエネ代表の西和田氏だ。

同社はこの度、シリーズCラウンドの1stクローズにおける42億円の資金調達実施を発表した。27億円を調達した2023年3月のシリーズBラウンドに続く大型調達だ。2ndクローズを含めれば50億円程度になる見込みだという。

アスエネが提供するのはCO2排出量可視化サービス。創業は2019年だが、すでにシンガポールや米国に海外法人を設立し、海外展開を本格的に進めている。

今回の大型調達でアスエネが目指す次の展開について、西和田氏に話を聞いた。

脱炭素に日本も本腰、事業拡大の追い風に

2020年10月、日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言した。それから国内でも再生可能エネルギーの普及が進むなど、脱炭素に向けた流れは強くなっている。直近では、2040年を見据えた国家戦略として「GX2040ビジョン」の策定方針が示された。

アスエネがCO2排出量可視化サービスの「ASUENE(旧:アスゼロ)」を正式リリースしたのは2021年8月。3年弱で6000社の導入を達成した。

「この3年で顧客の脱炭素に関する理解が大きく変わりました。以前はCO2可視化と言っても、具体的なイメージができている人は少なかった。今では認知や知名度が高まり、CO2可視化を検討する際にはまずアスエネに相談する、というポジショニングができています」

CO2排出量の多い企業に対して、排出量取引制度への参加を2026年度から義務付ける方針も明らかになっている。2023年度に開始した現在の排出量取引制度には参加義務がなく、今回の変更で企業による脱炭素推進がより求められるようになった形だ。欧州を中心に進む排出権取引が、日本でも本格的に始動する。

SBIと共同で排出権取引所を開設

国内でも排出権取引の仕組みが整い始める中、アスエネは2023年6月にSBIホールディングスとの合弁会社「Carbon EX」の共同設立を発表した。同年10月には、カーボンクレジット・排出権取引所のサービスを開始している。

東京証券取引所が開設したカーボン・クレジット市場の取引対象は、国が認証するJ-クレジット。対するCarbon EXはJ-クレジットに加え、日本・海外のボランタリーカーボンクレジット(企業やNGOなど民間の団体が主導するカーボンクレジット)など幅広く取り扱う。

カーボンクレジット・排出権取引所の画像
サービス上で各クレジットの特徴や詳細を比較できる(画像:アスエネ提供)

「英語にも対応し、扱うカーボン・クレジットの種類が豊富で企業の利便性が非常に高い」という。登録社数はすでに1000社を突破した。東証のカーボン・クレジット市場参加者は278者(2024年5月15日時点)と差が開くが、東証も取り扱うクレジットの対象を拡大する考えを示している。

Carbon EXの優位性について、西和田氏は次のように話す。

「海外のカーボン・クレジットを扱いたくても、英語対応やそのためのオペレーション整備が必要です。幅広いクレジットの取り扱いは、そう簡単に真似できません」

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「製造業バーティカル」に活路

アスエネは海外展開にも本腰を入れている。2022年9月にはシンガポール、その翌年11月には米国での海外法人設立を発表した。

先んじて法人を設立したAPAC地域では事業も順調で、「アジアではまだCO2可視化ソリューションが少なく、いきなりASUENEが導入されることも多い」という。

競合も複数存在する中での海外展開。鍵となるのは「製造業バーティカル」だ。

西和田氏は「米国では、金融機関や小売に強いサービスが多く、製造業向けに実績豊富なサービスはありません」と話す。

実際、アスエネの顧客の半数以上を占めるのは製造業。製造業に強い日本でのサービス提供で得た知見やノウハウをもとに、「痒い所に手が届く」機能を備えている。水の使用量管理や廃棄物管理、製品別のCFP(カーボンフットプリント)可視化などは、製造業の顧客に特に喜ばれるという。

「すべての産業で活用できるという打ち出しでは差別化がしづらく、海外の顧客からすると、あえて日本製のサービスを採用する理由にはなりにくい。製造業の顧客が求める豊富な機能や、実績をアピールすることが海外での勝ち筋になっていくと考えています」

ASUENEの画面イメージ
ダッシュボードの画面イメージ(画像:アスエネ提供)

17社が出資、6社と業務提携

今回の資金調達では、国内外の17社が株主として参加した。三井住友銀行、SBIインベストメント、未来創生3号ファンド(スパークス・アセット・マネジメントが運営)がリード投資家となっている。

今回の調達資金は人材採用や生成AI・LLMへの技術投資、グローバル展開の強化に充当する。年内を目安に、既存事業とは異なる新サービスのリリースも予定しているという。

そして、資金の多くはM&Aに活用する。同業のCO2排出量可視化サービス事業者を含め、脱炭素やESG領域の企業をM&Aで買収していく考えだ。

「これまでオーガニックに事業を成長させてきましたが、本気で1兆円・10兆円企業を目指すためにM&Aは避けては通れません。昨年にはチームを編成しており、今後はM&Aを再現性のある形で実行していきます」

また、今回の資金調達と合わせて、三井住友銀行、SBIグループ、村田製作所、リコー、NIPPON EXPRESSホールディングス、KDDIとの資本業務提携も発表している。

各社とはデータの利活用や製品間連携など、それぞれの領域で協業を進める。村田製作所とは、共同で製造業向けサービスや同社サプライチェーン向け支援を強化する。

「村田製作所ほどの大企業になるとサプライチェーンの数も膨大です。Scope3の情報もすべて収集してCO2排出を削減することは非常に困難で、決して1社で解決できる課題ではありません。そこに向けた取り組みや機能開発にご期待いただいて協業に至りました」

アスエネストアの画像
3月には、連携パートナーのサービスや商品を購入できるマーケットプレイスを開設した (画像:アスエネプレスリリースより)

産業の脱炭素化をリードする存在に

「今後はすべての産業に脱炭素が入っていく」と西和田氏が話す通り、東証プライム上場企業にCO2排出量開示を義務付ける方針などの規制による後押しも背景に、今後さらなるGXの加速が予想される。

今では「サステナブルな社会に貢献しているか」は企業選びの重要な基準となった。環境問題への取り組みは人材採用にも直結し、明確に経営課題となっている。他の先進国に後れを取っている日本は、官民の連携を強化していくことが求められている。そのためには、その変革をリードするプレイヤーが必要だ。

「ネットゼロの世界は、アスエネ1社で実現できるものではありません。企業同士で協力をしなければ達成できない。今後各社とのパートナーシップをさらに強化する予定で、その布石として発表したのが今回の提携です。今後もさまざまなパートナーシップを組んで、成果を出していけると嬉しいです」

西和田氏の言葉に表れるのは、「脱炭素社会の実現」という大きなテーマに対する情熱とビジョンだ。アスエネは今後、これまでの実績を土台に企業との協力体制をさらに強める。その先にクリーンな社会の実現が待っているのか、今後の動向にも注目したい。

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