2000施設で活用の「落とし物クラウドfind」が7億円調達──拾得物の二次流通見据える
「落とし物クラウドfind」を運営するfindがシリーズAラウンドにて、株式調達(第三者割当増資と株式譲渡)ならびに銀行融資により総額7億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドの引受先は、Dual Bridge Capital、HIRAC FUND、DIMENSION、ベータ・ベンチャーキャピタル。融資における借入先は三菱UFJ銀行とみずほ銀行、北國銀行。
「落とし物クラウドfind」は、2023年6月にローンチ。鉄道会社や商業施設など導入先企業の落とし物管理を効率化するクラウドサービスと、LINEのチャット機能を活用した利用者からの問い合わせ代行をセットで提供する。契約先は24社2000施設以上に広がり、2024年9月現在のARRは1.7億円と急成長を続けている。
代表取締役CEOの高島 彬氏に、「落とし物クラウドfind」の仕組みや今後の事業展開について詳しく話を伺った。
鉄道や商業施設の業務現場を悩ませる「落とし物」
――サービスローンチから約1年半で急速に導入先を増やしています。
高島氏:交通機関や商業施設など多くの利用者が訪れる現場において、落とし物の対応は手のかかる課題です。「落とし物クラウドfind」の最初の導入先で大切なパートナーでもある京王電鉄では月に約15,000個の落とし物が発生。拾得するたびに登録作業を行い、忘れ物の取扱所に集めて管理し、利用者からの問い合わせにも対応しなくてはなりません。しかも、イヤホンや手袋のような拾得数の多い落とし物は、なかなか落とし主の特定に至らないのが実情でした。
「落とし物クラウドfind」の導入により、落とし物対応にかかる業務時間を5分の1まで削減し、利用者からの問い合わせに対する返還率は3倍に高まりました。現在の契約先24社のうち半数近くが鉄道会社で、ほかにタクシーやバス、百貨店、スタジアム、テーマパークなどがあり、主にお客様経由での紹介を起点に契約を増やしています。さらに警視庁遺失物センター内の落とし物業務にも、一部findが活用されています。
――「落とし物クラウドfind」を介して、落とし物がどのように管理され、落とし主の手に戻るのでしょうか。
落とし物を見つけた際の登録作業は、従来はPCなどでの文字入力や一部手書きで行われていましたが、findを使えば現物の写真撮影で済みます。撮影画像をもとに、落とし物の特徴など照合に必要な情報をAIが抽出し、登録します。
落とし主からの問い合わせ対応は、当社の専属のオペレーターチームが代行します。例えば「京王線 忘れ物」といったワードで落とし主がWeb検索すると、「find」のLINE登録に誘導されます。そこで探している物の画像もしくは類似の画像や落とした場所・日時を送れば、最短1分以内に当社のオペレーターが回答します。オペレーターの操作画面には、類似度が高いとAIが判断した落とし物画像が自動的に表示されるので、候補から最終確認するだけでマッチングが可能になります。
――資金調達と併せて、多言語対応のチャット開発も発表されました。
海外から日本を訪れる人はLINEを使えないケースが多いことを踏まえ、自前のチャットを開発中で、2025年2月から提供開始する予定です。落とし物が戻ってくることにかけては、日本はトップクラスの国ですが、さらに多くの人に日本の素晴らしい文化を感じていただけるようになると考えています。
26年4月までに80社1万施設に導入へ 二次流通にも乗り出す
――高島さんはオリックス勤務を経て、findを起業されました。もともと独立志向だったのですか?
いずれは父の経営する工場を継ぐつもりで、オリックスに入ったのも経営者に必要なお金周りの知識を習得したい・全国の経営者から学びを得たいと思ったためでした。スタートアップに興味を持ったのは、オリックス時代の後半、事業開発部門でセーフィーなど勢いのあるスタートアップと協業し、その熱気にひかれたのがきっかけです。findの共同創業者である和田は当時、出資検討先のスタートアップにおり、会話を重ねるうちに意気投合しました。
――「落とし物」に着目した理由は。
恥ずかしながら私自身が貴重品の入ったリュックサックをなくし、当日立ち寄ったお店や利用した交通機関など各所に問い合わせたものの、その問合せプロセスが非常に骨が折れるもので、なおかつ結局見つからない体験をしたからです。「落とし物が必ず見つかる世界へ」という当社のビジョンは、この原体験から生まれました。
創業後はビジョンはあるもプロダクトはない、お客さまはいない。ビジネスモデルに関しても1年近く固まらず、モックアップを作ってはつぶしていく非常に苦しい期間でした。そんな中、アクセラレーションプログラムを介した京王電鉄との出会いが転機になりました。落とし物対応に課題感を持つ社員の方より、忘れ物取扱所や新宿駅などで業務見学・体験の機会を頂いたことから、現場課題を把握でき、現在のモデルが生まれたのです。その後も、お客さまの現場に足繁く通い、落とし物対応の実務に深く入り込み、findの導入検討先に対しても「落とし物のプロ」として第三者視点でのアドバイスができるレベルの知見を蓄積してきたことが、当社独自の強みになっています。
――調達した資金の使途は。
一つは新機能開発です。findの問い合わせ窓口は現状、導入先の会社ごとに分かれており、例えば「京急線か東京モノレールのどちらかに忘れ物をした」という人は、両方の窓口にLINE登録する必要があります。今後は一度に横断的な検索ができるよう、データベースもオペレーションも統合を進めます。現在、博多駅に入る4つの交通機関・商業施設を対象に実証実験を行っており、将来的には「findにだけ問合せすれば解決」となるようなワンストップサービス・社会インフラになることを目指します。
人材採用にも注力します。特にお客さまの導入をサポートし、導入後のKPI達成を伴走するカスタマーサクセス部門は、案件増加に対応しなくてはならないため、一層拡充します。
――今後の事業展開は。
findはこれまで鉄道をはじめとするエンタープライズから導入を進めてきましたが、最近は宿泊施設、フィットネスクラブ、カラオケ店など中小規模施設からの引き合いも増えています。こうした企業のニーズに合わせ、使える機能を絞り込んだライトなプランもつくり、導入先の拡大を加速する計画です。2026年4月をめどに、80社10,000カ所への導入を目指します。findの導入先が増えるほど落とし主の利便性が高まり、導入先側も大変な業務を削減できるほか、利用者の満足度向上も期待できる。全方位にハッピーになれるプラスサムの事業だと自負しています。
加えて、落とし主が見つからなかった物品の二次流通に関しても、事業の立ち上げを進めています。企業が拾得した落とし物は1、2週間で警察に引き渡され、3か月後まで落とし主が現れなければ企業に返却されるか処分されるルールになっており、付き合いのあるリサイクル業者さんなどに二束三文で引き取ってもらっていたりします。こうした物品を当社で引き取って、適切な需給価格で広く一般消費者が購入できる仕組みをつくり、落とし物を拾得した企業にも利益を還元したいと考えています。
落とし物に関わるツールを提供する企業の中でも、落とし物にまつわる課題解決に特化した事業を展開しているのは当社のみです。引き続き強い当事者意識を核に、ビジョンへの共感と浸透を広げていきます。