日本の大学発スタートアップの現状
2021年10月時点で日本の大学発スタートアップは3306社確認されている。2020年の調査で確認された2905社から401社増加し、企業数および増加数ともに過去最高を記録した。特に慶應義塾大学が前年から85社増加しており、伸びが顕著だった。大学別ベンチャー企業数のトップは東京大学が329社(前年比+6社)、2位の京都大学が242社(前年比+20社)、3位の大阪大学が180社(前年比+12社)となっている※1。業種別では、「バイオ・ヘルスケア・医療機器」分野が最も多く、次いで「IT(アプリケーション、ソフトウェア)」分野が多い※2。
近年、大学発スタートアップや産学官連携を支援する様々な政策が推進されている背景から、大学発スタートアップが増加している。2001年に経済産業省による「大学発ベンチャー1000社計画」が発表されて以来、大学の人材育成や研究を支援する様々な政策が実施されてきた※3。また、都市部の大学だけでなく、地方の大学発スタートアップ創出や産学連携の推進等を支援する「地域の中核大学等のインキュベーション・産学融合拠点の整備」といった経済産業省による事業も2022年より行われているため※4、今後も大学発スタートアップは増加を続けると考えられる。
東京大学発スタートアップの現状
今回は、日本の大学発スタートアップで最も企業数が多い東京大学発スタートアップに焦点をあてる。東京大学発スタートアップの業種内訳は、ICT 、ライフサイエンス、ヘルスケアが約3分の1ずつ、残りは素材、環境、デバイス、エネルギー関係などで占められ、近年はディープテック系スタートアップが多く創出されている※5。東京大学でスタートアップの創出が盛んな理由は、3つ挙げられる。
1つ目は、優秀な人材の起業を促進・支援する環境の充実だ。例えば、無償のアクセラレータープログラムである「FoundX」は、起業を志している東京大学の在学生、卒業生、研究者を対象として、ビジネスプランの検討や起業家同士のネットワーク作りなどを支援している※6。また、「東大創業者の会ファンド」では、東京大学出身の起業家が後輩の起業家を資金や人脈の面で支援するなど卒業生のネットワークの活用に積極的である。
2つ目は、VCによる積極的な支援が挙げられる。東京大学エッジキャピタルパートナーズ、東京大学協創IPCなどが東京大学発スタートアップを資金面で支援している。また、東京大学は、2021年に10年以内に600億円規模の新ファンドを設立する計画を発表しており、2030年までに700社の東大発スタートアップの創業を目指していることも追い風になっている※7。
3つ目は、IPOした東京大学発の企業が多く存在している点だ。2022年時点で64社ある大学発の上場企業のうち※2、株式会社ユーグレナをはじめとする東京大学発の上場企業は累計25社存在し※5、全体の約4割を占めている。卒業生の成功事例が多いことも起業を促進する一因となっていると考えられる。
カオスマップと注目企業
本カオスマップでは、12種類のカテゴリーに従い、ケップルの独自調査で選定した74社の東京大学発スタートアップ(上場企業、上場子会社含む)を掲載している。以下、各カテゴリーにおける注目の企業を紹介する。
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製造
製造カテゴリーには、基板や電池の製造、製造業に対する業務支援システムの企業などを中心に9社分類し、最も企業数が多いカテゴリーの1つとなった。2022年より文部科学省の「次世代X-nics半導体創生拠点形成事業」の拠点の一つとして採択され、半導体製造を効率化する体制を整えるなど設備面で充実しており、工学部などで技術力の高い人材を有することが要因と考えられる。
エレファンテック株式会社は、東京大学の川原 圭博准教授の研究成果をベースに、銀ナノインクを用いた電子回路のプリント技術を事業化し、2014年に設立された企業である。2023年5月時点での累計資金調達額は約90億円となっている。
エレファンテック株式会社は以下の記事でも取り上げている。
プリント基板の革新的製法でサステナブルな世界を目指す、エレファンテックが挑む巨大市場