FaciloがシリーズB調達──AIで中古不動産流通はどう変わるのか

FaciloがシリーズB調達──AIで中古不動産流通はどう変わるのか

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新築マンションの価格高騰で、住宅市場の主戦場は中古へ移りつつある。その売買仲介で、営業担当者と顧客の間に「さみだれ式」に飛び交う情報をひとまとめにし、AIで分断された商流を繋ごうとしているのが株式会社Faciloだ。同社は2026年9月に、シリーズBラウンドで総額57億円(エクイティ39億円、デット18億円)を調達するとともに、7億円の融資枠を確保したと発表。

同社の不動産コミュニケーションクラウド「Facilo」は、2023年2月のサービス開始から約3年半で2300店舗に導入され、利用する営業担当者は1万3000名を超える(2026年9月の同社発表による)。今回は、AI査定を手がける株式会社コラビットのグループ会社化と、3つのAIプロダクトの投入も発表した。

目指すのは、分断された仲介業務をAIでつなぐ「AI共創エコシステム」だ。代表取締役CEOの市川紘氏に、中古流通市場に挑む戦略を聞いた。

新築から中古へ、不可逆なシフトが生む「情報の分断」

──御社の事業について教えてください。

市川氏:不動産仲介会社向けに、営業担当者と顧客のコミュニケーションを支えるクラウドサービスを提供しています。中古住宅の売買では、売主と買主、双方の仲介会社の間で資料や情報が「さみだれ式」に飛び交います。それをプラットフォーム上でわかりやすくひとまとめにするのが、私たちのサービスです。

「Facilo物件購入クラウド」のUI (画像:同社ウェブサイトより)
「Facilo物件購入クラウド」のUI (画像:同社ウェブサイトより)

仲介会社は提供する情報を簡単にまとめられ、業務生産性が上がります。売主・買主にとっては情報が整理され、顧客体験の向上につながる。物件を買う人向けと売る人向けの両方でプロダクトを展開しています。

今後はコミュニケーションの領域にとどまらず、AIで仲介業務全般を支える「AI共創エコシステム」の構築を目指します。

──中古住宅の流通に取り組む背景を教えてください。

私は日米の不動産テック業界で、約20年仕事をしてきました。キャリアの出発点は、リクルートの「SUUMO」の新築マンション領域です。当時は首都圏の新築マンションの供給戸数が現在の2倍ありました。

アメリカでは住宅流通に占める中古の比率が85%以上。日本は今、新築から中古へ移る過渡期にあります。新築マンションは価格が高騰し、2016年には販売戸数が初めて中古を下回りました。建築費は下がる見込みがなく、土地も限られている。これからは中古が主戦場です。

国の方針も変わりました。5年に一度見直される「住生活基本計画」は、日本の住まいの憲法とも言えるものですが、今春見直された4つの施策のうち3つは既存住宅に関するものでした。新築を多く建てて売る従来の国策から、ストック型住宅の有効活用へと完全にシフトしたのです。私たちが取り組むのは、まさにこの中古住宅の流通です。

──中古住宅の流通には、どのような課題があるのでしょうか。

新築は、デベロッパーが整理した情報を買主に届けるシンプルな商流です。一方、中古は言わばCtoCの取引で、売主と買主を双方の仲介会社が支えます。最大4者のステークホルダーが関わるうえ、物件ごとにまとまった資料もありません。

その結果、4者の間で資料や情報がばらばらに飛び交います。中古へのシフトが不可逆だからこそ、この煩雑さは大きな課題になるはずです。

ポータルサイトは「集客」、Faciloは「接客」のツール

──具体的には、どのようなサービスなのでしょうか。

最初にリリースしたのは、物件を買う人向けのマイページです。物件を購入する際、仲介会社からの提案資料はメールやLINEで次々と届きます。

ところが、メールはメルマガに埋もれ、LINEにはファイル保存期限がある。当社のマイページなら、届いたリンクをクリックするだけで、過去の提案物件まで一元的に確認できます。

さらに、通勤先までのドアツードアの所要時間や、周辺のスーパー、病院、学区、ハザードマップも表示。地図アプリや自治体のページで調べていた情報が一つにそろいます。売却する人向けにも、競合物件や媒体別の問い合わせ状況がわかるプロダクトを展開しています。

──ポータルサイトとの違いはどこにあるのでしょうか。

ポータルサイトは集客のツールで、Faciloは集客後の接客を支えるツールです。ポータルサイトで最初に問い合わせた物件を購入する方は、一般的には全体の5%ほどと言われています。残りの95%は、別の物件を提案してもらって購入します。また当社の調査では、問い合わせた物件の情報だけが欲しく、他の提案は不要という方は市場全体の2割でした。残る8割は提案を求めています。

理由の1つは、ポータルに載る物件が市場のすべてではないこと。仲介会社がアクセスできる「レインズ」※1にしかない未公開物件があります。もう1つは、商材としての単価が高く「全部取り」ができないことです。特別な日の食事や旅行なら、少し高くても許容できるでしょう。一方、家は「予算5000万円をオーバーするけど買ってしまおう」とはいきません。予算という上限の中で、何を守り何を捨てるか決めなければならないのです。

例えば、希望駅から1駅都心から離れても、通勤特急が止まるのでむしろ早く着く。始発駅なので座って通勤できる。社内で「幅出し」「軸ずらし」と呼ぶ、こうしたプロの提案が求められます。Faciloのマイページには、その人にパーソナライズされ、プロが選んだ物件が並びます。

※1 レインズ(REINS:Real Estate Information Network System):国土交通大臣の指定を受けた不動産流通機構が運営する、不動産会社間の物件情報ネットワーク

AIをビルトインした基幹システムで「SaaS疲れ」を解消

──今回の調達資金の使途を教えてください。

不動産仲介業務における「AI共創エコシステム」の構築に投資します。仲介業務は多岐にわたり、それぞれが分断された状態です。業務とデータをつなぐため、自社でのプロダクト開発とM&Aによるラインナップ拡充を進めます。あわせて、それらを継続するための組織基盤を整備します。

──新たにリリースした「AI駆動CRM」と「AI駆動コンバーター」について教えてください。

これまでの約3年間は、ソフトウェアの助けがなかった営業担当者と顧客のやり取りを支える、新しいカテゴリのサービスを立ち上げてきました。一方、CRM(顧客管理システム)とコンバーター※2は、既存の基幹システムの領域です。

現場の方々は、Faciloを使うと顧客が喜び、売り上げが上がる実感を持ってくださっています。Faciloのファンになってくださる方も多い。一方で、基幹システムは別に使う必要があり、「SaaS疲れ」の声がありました。

昨今のAIの進化を踏まえ、AIを最初からビルトインすれば格段によいものが作れると確信しました。その手応えを得たため、後発での参入を決めています。

※2 コンバーター:物件情報をSUUMOなど複数のポータルサイトへ一括で入稿するシステム

──「簡易調査AIエージェント」は、どのようなプロダクトなのでしょうか。

売却の仲介では、査定依頼を受けて査定書を出します。実はその間に、見落とされがちな手作業があります。住所を登記上の「地番」に直して登記情報を取得し、売れる物件か、本人からの依頼かを確認するのです。この手作業を、AIエージェントが代わりに担います。

──今回グループインしたコラビットとの連携で、何が変わるのでしょうか。

これまで当社が支援できたのは、査定後の売却活動が中心でした。今回の連携で、より上流の集客から支えられるようになります。

売却の流れ。コラビットの不動産AI査定サービス「HowMa」で売主を集客し、簡易調査AIエージェントが物件を調査。査定書作成ツール「AI査定プロ」で査定書を作り、「物件売却クラウド」で売却活動を支える(画像:同社プレスリリースより)
売却の流れ。コラビットの不動産AI査定サービス「HowMa」で売主を集客し、簡易調査AIエージェントが物件を調査。査定書作成ツール「AI査定プロ」で査定書を作り、「物件売却クラウド」で売却活動を支える(画像:同社プレスリリースより)

査定書は「物件売却クラウド」のキラーコンテンツですが、当社では作れませんでした。別のツールで作った査定書を、アップロードしてもらっていたのです。「Facilo上でできないの」とよく言われていました。まさに分断された業務です。今回の連携で、売り仲介が一つのプラットフォーム上で一気通貫で完結します。

顧客とともに進化する、年間3000件超の改善サイクル

──急成長を遂げた一番の要因は何でしょうか。

個別業務を効率化するSaaSではなく、業務支援のエコシステムにこだわってきた点です。自然界のエコシステムになぞらえ、3つの特徴に整理しています。

1つ目は「価値共創性」です。顧客はマイページ上でお気に入り登録や内見の申し込みができ、そのフィードバックが次の提案の精度を高めます。ある営業の方は「お客様との共創プラットフォーム」と表現してくださいました。

2つ目は、食物連鎖のようにプロダクト同士がデータや画面でつながる「相互接続性」です。

3つ目が、特にこだわる「共進化性」です。現場で受けた要望は1営業日以内にフィードバックし、PdMとエンジニアが形にします。昨年は既存プロダクトだけで3000件以上の新機能やUI改善をリリースしました。「半年後には必ずよくなっている」と、自分が育てたプロダクトのように向き合ってくださる方もいます。

進化の遅いSaaSなら、AIの波の中で不要とされたかもしれません。AIを追い風にできているのは、このポジショニングが奏功したからだと思います。

接客から業界全体へ、AI共創エコシステムが描く不動産流通の未来

──今後の展望を教えてください。

不動産流通には、実は先ほど紹介した4者の5倍ほどのステークホルダーが関わっています。私たちがカバーしているのは、まだごく一部です。つながっていないのが当たり前だった業務をつなぐ、大きな循環のエコシステムを描きたいと考えています。

不動産業はGDPで約70兆円あり、製造業、小売業に次いで日本で3番目に大きな産業です。中古流通は、そのうち最大の約16兆円を占める市場であり、拡大傾向にあります。人口減少局面で、これだけの規模を占め、成長している市場は希有です。まずはこの市場に向き合い、周辺の金融なども含めたエコシステム全体をつなぐ存在を目指します。

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