AUDER株式会社
2.jpeg?fm=webp&fit=crop&w=1920)
同じビルに入る倉庫会社と卸会社が、荷物の確認を電話とファックスで繰り返す──。そんな食品流通業界の情報分断を、スマートフォン1台とAIで解消しようとするAUDER株式会社が、シリーズAラウンドのファーストクローズで総額4.5億円を調達した。
同社が2021年4月の創業以来手がけてきたのは、既存の倉庫管理システムや基幹システムに後付け(アドオン)できるAI検品クラウドサービスだ。出荷側から入荷側へ物流データを連携することで、検品・伝票処理の削減を目指している。
すでに大手小売企業での導入が進んでおり、検品時間の短縮やコスト削減の成果も出始めている。さらに、2026年9月には受注・入出庫AI-OCRを正式リリースした。AI-OCRの先行導入企業には福岡県魚市場株式会社が名を連ね、SKラインなど複数社も導入を予定している。JANコードを持たない生鮮品などに向けては、画像認識による一括検品に加え、OCRによる画像検品や音声検品といった新たな検品手法も順次投入していく方針だ。同社によると、大手小売A社ではカゴ車1台あたりの検品時間を60秒から20秒へ短縮し、3拠点合計で年間約1000万円のコスト削減につながったという。
同社CEOの各務友規氏と、COOの伊藤大平氏に、事業の課題認識から競合ポジショニング、今後の構想まで話を聞いた。
スマホ1台で入出荷検品をデジタル化し、出荷側と入荷側をつなぐ
──御社の事業内容について教えてください。
伊藤氏: 私たちは、AI×スマートフォンで入出荷検品をデジタル化し、出荷側から入荷側へ物流データをリアルタイムに連携する「AI検品クラウドサービス」を開発・提供しています。
食品流通に関わるメーカー、卸売業者、小売業者、倉庫業者といった各プレイヤーが、これまで紙や帳票でこなしてきた検品・仕分け作業を、スマートフォン1台で完結できるようにするプラットフォームです。既存のWMS(倉庫管理システム)や基幹システムへのアドオン形式で導入できるため、システムを刷新することなく、現場の業務をデジタル化できます。
食品流通の課題は、大きく3つあります。
1つ目は、納品元と納品先の間で物流情報が分断されており、事務担当者が現物や写真を見ながら都度入力する工数が発生していること。
2つ目は、現場作業者がいまだにハンディターミナル(HHT)や紙帳票を使っており、AIの進化を十分に享受できていないこと。
3つ目は、各社のシステムが閉じているため、データが連携されず、二重入力が常態化していることです。
AUDERでは、現場の作業をスマートフォンでデジタル化しながら、納品元と納品先の物流情報を連携していきます。単に拠点内の検品を効率化するだけでなく、サプライチェーン全体でデータがつながる状態をつくることを目指しています。

──なぜ食品、特に生鮮分野に注力しているのですか。
各務氏: 生鮮食品の流通は、他の商品と比べてオペレーションの複雑さが際立っています。賞味期限があるため、先入れ先出しの管理が厳格で、守らなければフードロスにも直結します。加えて、日本の食品流通は多品種少量で、季節変動も大きい。管理が非常に煩雑です。
そのため、大規模な既製システムを導入して一気に解決するというより、現場の人が複雑なオペレーションを回すことで対応しているケースが多い。特に生鮮分野では、農産物や鮮魚のように、当日とれたもの、当日届いたものを起点に物流が始まることもあります。事前に発注データがきれいに整っているとは限らず、送り状が商品に貼られて届いて初めて「何が来たのか」が分かることもあります。
伊藤氏:加工食品にはJANコード(商品識別用のバーコード)が付いていることが多いですが、生鮮の場合はJANコードがなかったり、同じ品目でも産地が違うと異なるJANコードが付いていたりします。つまり、「商品を特定する情報が統一されていない」という問題があります。
私たちのソリューションでは、入荷時や産地側のタイミングで独自ラベルを発行し、それを軸に作業を進めることができます。JANがない状態でも、現場で商品を特定し、デジタル化していける。これまでデジタル化が進みにくかった生鮮の領域でも、加工食品並み、あるいはそれ以上に効率的なオペレーションを実現できる可能性があると考えています。

──2026年9月に正式リリースされた「受注・入出庫AI-OCR」について教えてください。
各務氏: 生鮮食品の流通では、ファックスや紙の送り状でデータが届くため、そもそもデジタル化するためのデータ入力元がアナログのままです。その状態では、いくら現場作業をデジタル化するツールを用意しても、活用しきれません。
受注・入出庫AI-OCRは、その前段にあるアナログなデータをデジタル化し、私たちのWMSやモバイルソリューションにシームレスに連携するための機能です。発注書や送り状などの紙帳票を読み取り、入出荷予定データとして直接連携できるようにします。
既存のOCR製品は、帳票フォーマットをあらかじめ登録・学習させることで精度を担保する設計が多いと思います。ところが食品業界では、取引先ごとにフォーマットが異なります。すべての帳票を個別に学習させていては非効率です。
そこで、生成AIを活用し、RAG(検索拡張生成)技術を組み合わせています。商品名や取引先名といったマスタ情報をベクトルデータベースとして保持し、OCRで読み取った文字情報をRAGで突き合わせる。そうすることで、表記の揺れがあっても、正しいデータに変換しやすくなります。
フォーマットが異なる帳票にも柔軟に対応し、精度の高いアウトプットを目指せる点が特徴です。大手の生鮮流通事業者と現場課題を検証する中で、プロダクト開発を進めてきました。

──既存の倉庫管理システムとの関係はどのように整理していますか。
各務氏: 基本は既存システムへのアドオンとして使っていただく設計です。既存の倉庫管理システムは数量の管理や整合に強い一方、現場作業の細かな効率化まではカバーしきれていないことも多い。私たちはそこを、スマートフォンで直感的に操作できる形で補完します。
リプレイスを望むお客さまがいれば同分野のプレイヤーと競合する場面もありますが、基本姿勢は競争より協調です。既存システムを持つ会社との共同提案も十分あり得ると考えています。
3人で作り上げた「第二次創業」──ピボットの先に見えた本質的な課題
──創業の背景と、現在のビジネスに至る経緯を教えてください。
各務氏: 私は日本総合研究所の創発戦略センターで、大手小売と連携し、消費者の購買行動をデータ化してサプライチェーンの供給を最適化する取り組みを主導していました。ただ、大手企業では投資のハードルが高く事業化が進みにくい。自分でやるしかないと考え、起業しました。
当初はBtoC向けで出発しましたが、その過程で卸会社や物流センターから「その技術を物流現場のBtoBに使えないか」と逆オファーを受け、BtoBへのピボットで現在のプロダクトの骨格ができました。特に印象的だったのは、同じビルに入る倉庫業者と卸会社が、荷物の確認を電話で、入出庫の指示書をExcelとファックスでやりとりしていた光景です。売上数百億円規模の中堅企業でもこの実態で、システムやデータさえつながればリアルタイム共有で現場の手間は大きく減らせると確信しました。
BtoBへのピボットを機に、ビジネスを担うCOOの伊藤、テクノロジーを統括するCTOの西が加わり、3名で経営しています。この事業は3人で作り上げたもので、私たちには第二次創業という感覚があります。当初は未成熟だったプロダクトを急ピッチで立て直し、2024年に限定的なベータ版提供を開始、現在は本格的な横展開フェーズに入っています。
政策も追い風 食品流通をつなぐデジタルインフラへ
──今回の資金調達の背景と、調達資金の活用方針を教えてください。
各務氏: 大きな追い風になっているのが、2025年施行され、2026年にさらに対応が強化される物流効率化法です※。これまで物流は、荷主にとって外注先・コストセンターとして扱われがちでしたが、一定規模以上の荷主にも当事者としての対応が求められるようになり、「外に出しているからよい」では済まなくなってきました。その結果、検品時間や荷役時間の短縮が重要テーマとなり、スマートフォン1台で現場をデジタル化できる私たちへの引き合いも増えています。
調達資金は、大きく2つの軸で考えています。
1つはビジネスチームへの投資で、導入先を面的に広げ、お客さま同士のデータ連携によるネットワーク効果を高めていく。
もう1つはプロダクト開発の加速です。スマートフォン1台で取得できる現場の実行系データを強みに、AI-OCRを第1弾として新しいプロダクトを展開していきます。
2028年3月には100拠点への導入を実現し、食品流通のデジタルインフラとしての地位を確立することを目指します。
──今後の事業展開についてお聞かせください。
伊藤氏:物流だけでなく、受注や請求といった商流も含め、流通全体をSaaSでカバーしていきたいと考えています。
現状、日本の現場に適した流通システムは限られています。大規模なERP(統合基幹システム)や受発注・物流システムを導入しても、現場の運用にそのままでは合わず、大幅な作り込みが必要になるため、結局「各社が個別開発した個社最適」に陥っています。受発注・請求まで含めて流通全体をカバーするSaaSをつくれば、システム投資コストを抑えつつ、複数の企業が連携できる世界を実現できると考えています。
各務氏:今後導入先を広げ、お客さま同士のデータ連携によるシナジーを生み出したいと考えています。私たちのプロダクトは、出荷側と入荷側、卸と小売のように、複数のプレイヤーがつながるほど価値が大きくなります。そのためにまずは導入拠点を増やし、現場の実行系データを蓄積していく。足元ではJA全農との連携も進め、農産物が集まる集荷場から卸売市場をデータで繋ぐことを目指しています。
こうして蓄積した現場のデータを活用し、さらなるプロダクトも構想しています。その第1弾がAI-OCRで、紙やFAXといったアナログデータのデジタル化から支援していきます。
現場データがたまるほど、応用できる領域は広がっていきます。たとえば、パレット(荷役台)単位で積載量や容積が把握できれば、必要なトラックの手配をAIが支援できる。将来的には、自動運転トラックのような新技術を持つ企業とも連携し、食品流通に関わる各社が同じデータをもとに協調できる基盤づくりを私たちが担いたいと考えています。
※改正物流効率化法により、2025年4月に荷主等の努力義務化が始まり、2026年4月には一定規模以上の事業者にCLO(物流統括管理者)の選任や中長期計画の作成などが義務付けられた。






