株式会社HAKKI AFRICA

「マイクロファイナンス×モビリティ」で見据える展開とは──南アフリカ・インド進出狙うHAKKI AFRICA


アフリカでタクシードライバー向けマイクロファイナンス事業を展開するHAKKI AFRICAが、シリーズCラウンドの1stクローズにて19.7億円(エクイティ:8億円、デット:11.7億円)の資金調達を実施したことを明らかにした。今回の調達先は、SMBCベンチャーキャピタル、グローバル・ブレインなど8社。
HAKKI AFRICAはケニアに事業拠点を置き、タクシードライバーが事業用車両を購入するためのファイナンスを提供。独自のクレジットスコアリングシステムを強みとした事業を展開する。2024年8月には、エストニア発でライドシェアリング事業を手がけるユニコーン企業「Bolt」との提携を発表した。
代表取締役の小林 嶺司氏は、これまでに家具のECやシェアオフィスなどの分野で起業を経験。2019年にHAKKI AFRICAを設立した。HAKKI AFRICAの事業や今後の展開について、小林氏に詳しく話を伺った。
クレジットテックを駆使し、個人ドライバーへの融資を可能に
――事業の全体像をご紹介ください。
小林氏:日本では家や車を購入する際にはローンを組むのが一般的ですが、アフリカ諸国では現地の人が無担保での融資を受けるのは非常に難しいのが現状です。タクシードライバーでも、個人ドライバーの多くは事業用の車を所有しておらず、資産家の持つ車を借りて営業しています。
当社ではケニアの首都ナイロビの個人ドライバー向けに、中古車を担保とした融資を行っています。Uberのような配車アプリ事業を展開するBolt社と提携し、同社と契約するギグワーカーを主要顧客として、70~90万円程度の中古車を提供。3年半のローンを完済するまでの期間も、顧客はその車を使って営業できます。月々の返済金額は3万9000円程度で、これは資産家から車を借りる場合のレンタル費とほぼ変わりません。
レンタルと異なるのは、3年半後には車が顧客の資産になる点です。そのままタクシー事業を続けてもローンの返済がなくなる分手取りが増え、現地の銀行員レベルの収入を得られるようになります。このほか、車を担保に融資を受け、養鶏場など新たなビジネスを立ち上げることもできます。中には入手した車を他のドライバーに貸すレンタル事業を始める人もいます。

当社は2020年のサービス開始からこれまでに約3000人に融資を行っており、すでに返済を終えた顧客も出てきました。「HAKKIがなければ今の自分はない」といった喜びの声をたくさん頂いており、今後はケニア以外の国にも横展開を図ります。
――競合の状況は。
実はアフリカでは個人だけでなく事業者でも金融機関から融資を受けるのは難しく、2023年に$1M以上調達した貸金業者は当社含めてたったの3社です。また当社が2022 年に日本の商業銀行からアフリカ貸金事業向けで融資を受けたのが、日本初のケースでした。当社の場合、日本の企業からエクイティやデットでの資金調達が可能なため、これがケニアでの与信にもつながったと言えます。
資金調達が難しい関係から、ケニア発のマイクロファイナンス事業者は、20年、30年と継続してきた事業の利益を原資に少しずつ規模を拡大してきました。それでも自動車のファイナンスはお金がかかることもあり、結果的に当社を含む3社で市場を独占している状態となっています。
――同業3社の中で、競合優位性となっている点は。
大きな特徴は「Credit Techを使ったファイナンス」であるということ。ケニアではM-PESAと呼ばれる電子マネーが広く普及しており、流通額はGDPの約40%に上っています。当社はM-PESAのデータを活用し、独自の解析システムを構築・運用しており、これが貸倒率の低さと固定費の圧縮につながっています。貸倒率は他社の1/5~1/4程度、固定費も1/4程度を実現しています。
融資の申し込みを受けた際は、M-PESAのデータから顧客の営業状況などを把握し、スコアリングして与信の判断を行います。融資の上限額や頭金の割合は与信に応じたランク分けをしています。
返済の際もM-PESAで送金してもらい、各顧客の返済状況が自動で可視化される仕組みになっているため、管理コストが抑えられ、人為的なミスも防げます。もう一点、自動化のメリットとして挙げられるのが不正を防止できること。担当者が顧客の返済額を勝手に減額する代わりにキックバックをもらうといった、新興国で起きがちな不正のリスクをなくしています。
担保である車が顧客の手元にあることから、最大のリスクは車を持ち逃げされることですが、これも今まで1件も発生していません。ナイロビ中にバーチャルフェンスを張り巡らせており、万一無理やり突破しようとした場合には、遠隔でエンジンを切り、車を差し押さえられる仕組みとなっています。
次の進出先は南アフリカとインド 日本でのIPO目指す
――小林さんは起業のご経験が豊富ですね。
私は当社が3社目で、日本でWebビジネスと不動産事業を経験した後、ケニアに来たのが2018年です。

ケニアでは、現在のビジネスモデルにたどり着くまで、Amazonのようなeコマース事業などさまざまな事業を試したものの、どれもうまくはいきませんでした。eコマースにしても、ロジスティクスの整った国だからこそ成立するビジネスであって、現地の事情をよく理解しないまま持ち込もうとしたのは甘かったなと、今振り返れば思います。この時期、小さな失敗を繰り返しながら学べたことが、現在の事業展開に活きています。
――今回調達した資金の使途は。
デットで調達した11.7億円はケニア国内での新規事業に、エクイティの8億円は新たに進出する南アフリカとインドの市場開拓に使う想定です。
進出先は今後アフリカを中心に順次増やしたいと考えていますが、数年中のIPOに向け、当面はガバナンスを利かせやすいエリアにしたい思いもあり、英語が使える南アフリカとインドを選びました。基本的にはケニアでの経験をベースに事業構築していく計画ですが、インドに関しては二輪車タクシーが普及しており、電気自動車も政府が導入推進を掲げているため、これらに対応したモデルも検討を進めます。

――今後の目標は。
直近の目標としては、これからの1年間で、ケニアと南アフリカ、インドの3カ国合計で5000人に融資することを目指します。
マイクロファイナンス×モビリティの事業領域には、大きな可能性を感じています。タクシードライバーの他、車を使うギグワーカーのニーズとしては、インドなどで伸びているクイックコマースと呼ばれるスーパーからの配達ビジネスなども有望です。
新興国で起業する日本人はまだ少ないですが、経済成長のダイナミズムを肌で感じられ、日々チャレンジ精神を刺激されています。当社の活動状況を発信することで新興国に関心を持つ日本の皆さんの参考になれば嬉しいですし、ご一緒に日本市場でのIPO準備に取り組んでくれる方がいらっしゃれば大歓迎です。
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