救急医療の現場にインセンティブを導入──ドクターズプライムの挑戦

救急医療の現場にインセンティブを導入──ドクターズプライムの挑戦

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医師向け人材サービスなどを運営するドクターズプライムが、シリーズAラウンドにて3.9億円の資金調達を実施したことを明らかにした。今回の調達先は、Dual Bridge Capital、ニッセイキャピタルとSMBCベンチャーキャピタル。

ドクターズプライムは、総合病院で救急部門の責任者などを務めた田 真茂氏が2017年に創業。これまでに医師の当直アルバイトに特化した人材紹介サービスや医師向け動画配信サービスを展開し、約3万人の医師会員を抱える。オンラインで医師に健康相談ができる新サービスのローンチを間近に控え、今回初めてエクイティでの資金調達を行った。

代表取締役の田氏に、3つの事業の仕組みや医療業界の課題、今後の展望について詳しく話を伺った。

業界初のインセンティブ導入で、救急車のたらい回しをなくす

――事業の全体像をご紹介ください。

田氏:医療は誰もが人生の中で利用するサービスである一方、提供する側と受ける側の間に圧倒的な情報の格差があり、患者が自分のニーズに合った医師や治療を選ぶことは難しいのが現状です。また医療界には、「一人でも多くの患者を救う」ことに医師のインセンティブが働きにくい構造があります。診療現場よりも論文の執筆で実績を積み上げた医師が評価されやすいためです。

勤務医としてこうした現状をつぶさに見てきた私が、医師の評価の仕組みを変え、医師と患者の情報格差を埋めるために立ち上げたのがドクターズプライムです。現在、3つの事業に取り組んでいます。

最初にローンチしたWork事業は、当直医と病院をつなぐ人材紹介サービスです。医師にとって勤務先以外の病院での当直アルバイトは大切な収入源になっており、若手から教授層まで日常的にアルバイトをしています。こうしたアルバイトは通常、時間給のみで成り立っているところ、当社は救急車の受け入れ回数に応じたインセンティブを初めて導入しました。

体制イメージ図

今、救急車の搬送時間が長くなる傾向にあり、主な原因は受け入れ先の病院がなかなか見つからないことにあります。救急隊が出発前に病院への電話をかけ続けなくて済むよう、当社では「Dr.'s Prime Work」を利用した医師の当直先を救急隊に公開しています。これが累計16万人、年間で6万人の救急患者の受け入れにつながっており、全国の救急受け入れ数の約1%に当たります。

病院側にとっても、当直医が救急車を断り続けてしまうようでは経営上プラスにならないため、救急車の受け入れに積極的な当直医を確保したい意向があります。このニーズをとらえたWork事業は、ローンチ当初から順調に紹介数を伸ばしてきました。

――次にローンチしたAcademia事業も医師向けサービスですね。

診療に役立つ動画コンテンツの配信サービスです。Work事業でアクセスできるのは救急医療の現場、かつ医師が新たなアルバイト先を探しているケースのみですが、動画配信サービスであれば外来を含め、さまざまな医療現場で活躍する医師に利用してもらえます。当直の際、自分の専門分野以外の救急患者も臆さず受け入れられるよう、知識を高めてもらうことにもつながるサービスです。

医療向け学習番組 フロー

Academia事業は製薬会社などの広告収入で成り立つ一般的な動画配信サービスですが、医師向けの類似サービスと異なり、動画視聴に伴うポイント付与がないのが特徴です。ポイ活目的に動画を見に来るユーザーがいない分、広告のコンバージョン率も比較的高いのです。医師向けサービスは国内の医師30万人の限られたパイを取り切った後は、アクティブ会員数をどれだけ増やせるかの勝負になります。当社はポイントではなくコンテンツの質で会員を惹きつけ、安定的なファンを増やすことを狙っています。

スタートアップスカウト

患者の人生に寄り添う、「顧問医師」を広めていく

――今年新たに患者向けのサービスを開始されるのですね。

Work事業とAcademia事業の長期的な目的は、診療現場への貢献度に基づいた医師の評価制度の確立です。当直アルバイトで多くの救急患者を受け入れた医師、Dr.'s Prime Academiaで講師を務め、多くの医師ユーザーのレベルアップに寄与した医師が貢献度に応じた評価を獲得し、患者からも選ばれる仕組みをつくっていきます。

これまで一定の医師会員と評価ポイントを集めることに注力してきましたが、いよいよ患者向けのサービス「LifeDoctor」を5月にローンチします。体の不調を感じた際やセカンドオピニオンを求めたい際など、健康に関する不安や疑問をいつでも相談できる「顧問医師」を選べるプラットフォームで、相談を受けた医師は1分以内に回答します。患者の人生を通じ、継続的に寄り添う存在となることを目指し、LifeDoctorと名付けました。一定のサービスレベルから有料化するフリーミアムの形で提供する想定です。

Myカルテ 画像

LifeDoctorからの回答や紹介先の医師による診療結果は、患者自身がスマホで確認できる「Myカルテ」に蓄積されます。自分の健康状態を把握できるようにしたうえで、信頼できるLife Doctorが寄り添うことで、医師と患者間の情報格差を減らしていきます。

糖尿病や高血圧などの生活習慣病のケアでは、担当医師との関係性が悪化して医療から離脱し、症状を悪化させてしまうケースが多く見られます。ここにも患者が医師に対して臆してしまい、本音で話しづらいという情報格差から来る問題が潜んでいます。Myカルテを基点に予防医療を機能させていくことは、医療費の増大を抑えるためにも大切な取り組みです。

――エクイティでの資金調達は今回が初めてですね。

創業当初からWork事業の売り上げが順調だったため、これまでは自己資金と借り入れのみで伸ばしてくることができました。私は勤務医時代に起業を決意した後、メドレーに誘っていただき、瀧口代表の下で2年間学びつつ、許可を得て副業でWork事業に取り組む期間がありました。当直アルバイトをしつつ、当直先の病院に人材紹介サービスを販売できたのです。

今回、エクイティでの調達に踏み切った主な目的は、LifeDoctor事業を担うマネージャー陣やエンジニア陣の採用を加速させることです。加えて、Academia事業でも動画撮影のクオリティアップを図るため、動画制作のプロデューサーやMCの経験者を増やします。社員数は現在の30人強から、2026年3月には150人まで拡大させる計画です。

――今後の事業展開は。

当面はLifeDoctor事業の立ち上げに注力しますが、その先のプランもいろいろとあります。Myカルテ上のデータを活用し、ユーザーが日常的に健康を意識した行動を取れるよう、AIが食事メニューなどを提案するサービスも構想しています。

医師が全力で患者に向き合える環境、患者が医師と対等に話し、信頼関係を築ける仕組みをつくることは決してきれいごとではなく、実現可能だと私たちは信じています。そして、誰もが「自分で健康のたずなを握れる」世界をつくるためには、社内外に仲間を増やすことが重要です。医療に関して少しでも疑問をお持ちの方、ぜひ当社をのぞきに来てください。

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