株式会社助太刀

2024年のスタートアップによる資金調達総額は8097億円(※プレスリリース情報に基づく速報値)で前年比15.5%増となった。対前年で落ち込んだ2023年から回復し、2022年比でも増加するなど、堅調な一年だったといえる。
(株)ケップルは、スタートアップの動向を把握するうえで、資金調達と同様に重要な指標として「従業員数」に注目。2023年12月~2024年12月の国内スタートアップの従業員数を集計し、スタートアップ動向レポート「従業員数から読み解く国内スタートアップの現在地2024」としてまとめた。今回は、レポートの中から建設セクターの従業員数推移や市場動向に関する解説を紹介する。
本記事で触れるセクター別レポートの全文は、ケップルが提供するスタートアップデータベース「KEPPLE DB」のスタータープラン(初期費用・月額無料)に登録することで閲覧できる。
建設分野に広がるデジタル化、i-Constructionが後押し
建設分野のスタートアップの設立数は、景気のサイクルや災害関連需要の影響を受けながら変動している。その中で、2016年に国土交通省がスタートさせた「i-Construction」の推進が追い風となり、2017年以降は設立数がやや増加傾向にある。
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注:上場したスタートアップや閉鎖企業などを含む
この時期に設立されたセレンディクス株式会社や株式会社アルダグラム、プライムライフテクノロジーズ株式会社は、それぞれ評価額100億円を超えている。このような企業の台頭とともに、労働集約型作業からデジタル技術を活用したスマート施工管理への移行が進み、測量や進捗管理、資材運搬の自動化などの分野で、これらを支えるスタートアップの設立が進んできた。さらに、直近では、労働力不足や技能継承の課題に対応するマッチングプラットフォーム、環境配慮型の建材や省エネ技術、AIを活用したデータ解析や逆解析技術など、特定分野に特化した新たなソリューションを展開するスタートアップが登場している。
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注:2024年1月時点=100として指数化(セクター全企業の従業員数が対象)
社会課題に応える建設産業の変革、世界で進むスマート化
建設産業は、都市化や人口増加に伴うインフラ需要に応え、社会の基盤を支える重要な役割を担っている。これまでの建設現場では、人力による測量や紙による設計図、現場での作業進捗確認といった手法が主流で、労働集約型の業務が中心となり、デジタル化や革新が遅れているセクターとされてきた。また、少子高齢化が進む国では、熟練職人の人材不足も深刻な課題となっており、技術の継承や現場の効率化が求められている。しかし近年、デジタル技術の進展により効率化と生産性向上が加速している。AIやIoT、クラウド技術を活用した施工管理システムや設計支援ツールに加え、BIM(Building Information Modeling)によって設計から施工までのデータ連携が進み、情報共有や進捗管理の効率化を可能としている。また、電動化やハイブリッド技術を搭載した次世代建設機械の導入や、リサイクル材を使用した建材開発など、環境負荷軽減を目指した取り組みも進展している。さらに、老朽化したインフラの維持や災害対策への対応も重要な課題であり、耐震補強技術やモニタリングシステムの導入が進められている。
2023年の世界の建設市場(建築(A)・工学(E)・建設(C)を含む)は12兆ドル規模に達し、世界最大級の産業の一つとされている※1。建設テック(Con-Tech)分野では投資額が急増し、スタートアップの新規参入も相次いでいる。2020年から2022年にかけて、建設テック領域への投資額は約500億ドルに上り、2017年から2019年と比較すると85%増加している※1。アメリカでは、政府による大規模なインフラ投資を背景に、技術革新を取り入れた建設プロジェクトが進展している。特に、3Dプリンティング技術やスマート建材が注目されており、ICONは迅速かつ低コストな3D住宅施工を、Viewはスマートガラスの製造を通じてエネルギー効率の向上を実現している。中国では、急速な都市化に伴う建設需要の増加を背景に、DX化が進展している。X Kool TechnologyはAIを活用した建築設計システムによる設計の効率化を、DJIはドローンによる測量や進捗管理で現場作業の最適化を実現できるとしている。ドバイでは、世界的にユニークな建設プロジェクトが進展している。世界初の3Dプリントオフィスビル「Office of the Future」は、主要構造部分の3Dプリントがわずか17日で完了し、3Dプリンター技術の実用性を示した。また、「The Sustainable City」では、再生可能エネルギーや水循環システムを導入し、持続可能な都市モデルの実現を目指している。
国内建設業に迫る構造転換、DXや法改正が業界を刷新へ
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※プレスリリース情報に基づく
2023年の国内の建設投資額は、資材価格高騰による建設コストの増加も影響し、71兆円に達すると見込まれている※2。一方、建設テック市場は500億円規模にとどまっており※3、建設IT投資額に占める割合もわずかである。このため、建設テック市場には、今後さらなる成長が期待されている。日本の建設業界は、老朽化したインフラの維持や災害リスク、職人不足への対応といった課題に直面しており、法改正や技術革新によりDX化が一層加速する見通しである。こうした状況の中、建設業界の労働環境の改善や生産性向上、技術革新への対応を目指し、建設業法や建築基準法の改正が進められてきた。最近では、2022年に公布された改正建築物省エネ法・建築基準法により、省エネルギー性能の向上や木材利用の促進が図られている(2025年全面施行予定)。法改正の全面施行により、省エネ技術や環境配慮型建材の需要が拡大し、スタートアップ企業を中心に新しいソリューションが生まれ、業界のデジタル化や効率化の進展が見込まれている。また、国土交通省が推進する「i-Construction」により、建設現場における新しい施工モデルが実現されつつある。さらに、建設職人の高齢化に対応するため、遠隔操作型建設機械やVRシミュレーションが導入され、効率化と技能継承が進められている。
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本セクターの、2024年従業員数ランキング(2023年12月から2024年12月までの期間を集計)と主要なカテゴリーに属する国内外のスタートアップの動向、掲載企業の一覧は KEPPLE DB でご覧いただけます。
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※1 McKinsey & Company From start-up to scale-up: Accelerating growth in construction technology
※2 政府統計の総合窓口(e-Stat) 令和6年度(2024年度) 建設投資見通し
※3 矢野経済研究所 建設現場DX市場に関する調査を実施(2024年)
Writer

高 実那美
株式会社ケップル / Data Analysis Group / Database Division / アナリスト
新卒で全日本空輸株式会社に入社し、主にマーケティング&セールスや国際線の収入策定に従事。INSEADにてMBA取得後、シンガポールのコンサルティング会社にて、航空業界を対象に戦略策定やデューディリジェンスを行ったのち、2023年ケップルに参画。主に海外スタートアップと日本企業の提携促進や新規事業立ち上げに携わるほか、KEPPLEメディアやKEPPLE DBへの独自コンテンツの企画、発信も行う。
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