大手企業開拓AIのSales Retriever、9500万円を調達──“記録するCRM”から“提案するAI CRM”へ

大手企業開拓AIのSales Retriever、9500万円を調達──“記録するCRM”から“提案するAI CRM”へ

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大手企業へのエンタープライズ営業を支援するAIツールを開発・提供するSales Retriever株式会社は、PKSHA Algorithm FundおよびANOBAKAを投資家に迎え、融資等を含む累計9500万円の資金調達を実施したと明らかにした。調達資金は、機能拡充やリサーチAIの精度向上、大手企業特化型CRMの構築、採用拡大などに充当する予定だ。

Sales Retrieverは、2023年12月に設立されたスタートアップだ。公開情報をもとに営業に必要な情報を整理し、どのようにアプローチすべきかを提案するAI・ABM支援ツール「Sales Retriever」を提供している。IR資料やニュース、採用情報、組織情報などを横断的に調査し、大手企業の組織構造や、アプローチすべき部署とキーパーソンなどを整理し、その企業が抱える課題や提案内容を仮説として提示する。

Sales Retrieverの企業分析画面。企業情報や採用状況、部署情報、提案ドラフトなどを一覧で確認できる(画像:同社提供)
Sales Retrieverの企業分析画面。企業情報や採用状況、部署情報、提案ドラフトなどを一覧で確認できる(画像:同社提供)

同社によると、すでに富士通やエスプールなどの国内上場企業、マーサージャパンやキナクシス・ジャパンなどの外資系企業を含む複数社に導入されている。

国内のBtoB営業では近年、中小企業向けから大企業向けへのシフトが進んでいる。法人向けサブスクリプションサービスの提供企業においても、大企業を主要な対象とする割合が2023年の11%から2025年には25%へ上昇したという民間調査結果もある。

一方で、同社代表取締役の松本成行氏によると、大企業開拓は難易度が高い。ターゲットとなる企業数が限られるうえ、購買には複数部署・複数人が関与し、電話AIエージェントの導入の広がりにより代表電話やテレアポによる接点づくりも難しくなっている。そのため、量を重視した営業活動ではなく、企業ごとの組織構造や課題を深く理解したうえで、精度高くアプローチすることが求められているという。

大企業開拓の難しさと、創業の背景

松本氏は、東京工業大学でAIを研究した後、WAPや物流系スタートアップなどを経て、A1A株式会社を創業し、取締役CPOとして参画。その後、ギリア株式会社でエンタープライズ向け営業・AIコンサルタントに従事した。Sales Retrieverは、松本氏にとって3度目の起業となる。

松本氏は創業の背景について、こう話す。

(実際に営業に携わる中で)エンタープライズ向けに営業するのは、非常に難易度が高いと感じていました。既存の営業支援ツールもいろいろ使っていましたが、本当にぴったり合うものがなかったんです。

大手企業にアプローチするには、いきなりサービス説明をしても受け付けてもらえません。その会社にどのような課題があるのか、なぜ自社のサービスが合うのかを、コンパクトに説明する必要があります。そのために、IR資料や決算説明資料、中期経営計画書のような数百ページあるPDFを自分で読み込み、部署の電話番号や役職者の名前をGoogle検索していました。一社に電話するだけで、30分から1時間かかってしまうこともありました。

これを続けていると、大手企業向けに営業する機会そのものが減ってしまう。であれば、自分で作ろうと考えたのがきっかけです。

Sales Retrieverは、大手企業開拓に必要な情報収集と提案準備をAIで支援する。対象企業の組織構造や部署情報、キーパーソン、部署ごとの取り組みや課題仮説を整理し、営業担当者がどの部署に、どのような文脈で提案すべきかを把握できるようにする。

AIが構築した組織図・部署情報の画面。部署単位で連絡先や関連人物を確認できる (画像:同社提供)
AIが構築した組織図・部署情報の画面。部署単位で連絡先や関連人物を確認できる (画像:同社提供)

松本氏は「大企業では部署や関係者が多く、誰に、どのような文脈でアプローチすべきかを見つけるのが難しい。Sales Retrieverは、企業ごとの情報をAIで整理し、提案先となる部署やキーパーソン、訴求メッセージまでレコメンドすることで、属人的だったエンタープライズ営業の再現性を高めていきたいと考えています」と話す。

同社は、企業リサーチと提案準備に関する独自の特許技術(特許第7851042号)も保有する。事前に構築した企業DBや人事DB、IR-DBなどを組み合わせることで、汎用AIエージェントよりも正確かつ並列にリサーチできる点を特徴とする。

同社が行なった検証では、20社を同時にリサーチする条件で、OpenAIの最新モデルと比べて約6倍のキーパーソンを抽出できたという。松本氏は「複数社をまとめて調べても企業ごとの情報が混じりにくく、より正確に組織図を作れる点が特徴だ」と説明する。

導入企業では、大手企業開拓における事前準備時間の削減や商談数の増加といった成果も出ているという。松本氏も「設立から2年半ほど経ち、プロダクトができてきた」と手応えを口にする。

大企業開拓に求められる「狙い撃ち型」の営業 

今後は、新規開拓に加え、既存顧客へのアップセルやクロスセル支援にも機能を広げる。公開情報だけでなく、社内に蓄積された商談履歴や提案資料などもAIが解析し、新たな提案機会を見つける構想だ。

松本氏は「公開情報だけでなく、社内のクローズドな情報も含めて、全部合わせて提案を考えるのが次のフェーズです」と語る。たとえば、過去の商談議事録やメール、企業ニュースをAIが解析し、別部署やグループ会社への提案機会を検知することで、営業担当者が見落としていたアップセルやクロスセルの可能性を拾い上げる狙いだ。

松本氏は、中長期的な展望についてこう話す。

私たちが目指しているのは、大手企業向け営業に特化したAI CRMです。これまでのCRMはデータ入力が中心でしたが、Sales RetrieverではAIが必要な情報を集め、営業担当者に次に取るべきアクションを提示する。営業を本当に助ける基盤にしていきたいと考えています。

念頭にあるのは、日本企業特有の組織攻略の難しさだ。大企業では複数部署が意思決定に関わり、長い勤続年数を経て構築される人間関係も複雑だ。人事異動やジョブローテーションによって社員同士の関係性も変化する。これまで担当者ごとにメモやPowerPoint、Excelで管理されていた組織情報や人物関係をAIで蓄積・更新し、営業ルートや提案機会のレコメンドにつなげていく考えだ。

同社は年内に導入100社を目標として掲げ、次の資金調達ステージに向けて事業を推進する方針としている。大手企業開拓を、個々の営業担当者の経験や勘に頼るものから、データとAIによって再現性を高めるものへ変えられるか。Sales Retrieverの今後の展開が注目される。

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