内視鏡外科手術をAIで支援、臓器誤認を防ぎ手術事故をゼロへ

内視鏡外科手術をAIで支援、臓器誤認を防ぎ手術事故をゼロへ

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KEPPLE編集部

AI技術の発展が進む昨今、医療分野でのAI活用も多様化してきている。

主な事例では、医療データの収集・分析、病気の診断、治療計画の提案、自動問診、患者のモニタリングなど、活用方法は多岐にわたる。

政府の取り組みとしても、医療におけるAI活用を推進している。内閣府が発表した「AI戦略2022」の概要※1では、AI駆動の医療診断システムの開発、創薬におけるAI活用、AIを活用した医療機器の開発・研究における患者データ利用の環境整備などについて記されている。

矢野経済研究所※2は、医療分野でのAI利活用は黎明期から普及期にシフトしつつあるとする。同社によると、国内の診断・診療支援AIシステム市場規模は、2021年には約25億円であったのに対して、2027年までに165億円になると予測している。

このような状況下で、内視鏡外科手術支援AIの開発を行うのが株式会社Jmeesだ。

AI画像認識技術で内視鏡外科手術を支援

Jmeesは、2019年10月に4社目の国立がん研究センター発ベンチャーとして創業された。同社は成長が期待される技術系スタートアップとして、「J-TECH STARTUP 2023」にも認定されている。

細長い管状の医療機器である内視鏡は、取り付けられたレンズから患部をモニターに映し出すことが可能だ。内視鏡外科手術は、患者の体をできるだけ傷つけずに行われ、身体的な負担が少なく手術ができる。そのため、手術件数が増加しており、近年では年間30万件ほど実施されている。

一方で、内視鏡外科手術では臓器の視認が難しく、損傷リスクがゼロではない。内視鏡で複雑な臓器を把握することは容易ではなく、臓器の誤認・確認不足が発生しうる。実際、術中の臓器損傷のうち、80〜100%が臓器の誤認・確認不足に起因しているという。

同社は、こうした術中の臓器損傷のリスクを下げる、外科手術支援システム「SurVis™(サービス)」を開発している。SurVis™は、AI技術によりリアルタイムで手術を行う医師に損傷率の高い臓器の認識支援・注意喚起を行うプロダクトだ。

内視鏡装置から入力された映像を自動で解析し、手術モニター上に損傷率の高い臓器を色付けするなど、医師による臓器の誤認防止をサポートする。

SurVis(TM)機能説明

画像:Jmees 提供

同社の技術は、医療画像処理・コンピュータ支援外科分野の世界的なカンファレンスである「MICCAI Challenge」において、2021年から3年連続で入賞を果たしている。また、同社は、AIを活用した手術支援システムの特許を取得している。

現在は、SurVis™の医療機器としての認可申請を行っており、承認後の本格的な販売開始に向けて準備を進めているという。

代表取締役 松崎 博貴氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

国立がん研究センターでの収集データがAI開発の糧に

―― 従来の内視鏡外科手術にはどのような課題がありましたか?

松崎氏:内視鏡外科手術は手術痕が小さく、患者への身体への負担が少ないという特徴があります。しかし、その一方で、全体の内視鏡外科手術の症例のうち、約1%で損傷リスクが存在します。

臓器構造は複雑であり、内視鏡に搭載されたレンズから得られる映像だけでは、正確な臓器の位置を把握することが困難です。そのため、臓器の誤認・確認不足が発生しやすく、誤って臓器を損傷させてしまうと、危篤な合併症や、患者のQOLの低下をもたらします。

―― SurVis™の開発背景について教えてください。

私は東京大学大学院で、病理画像AI診断の研究を行っていました。また、創業期の医療AIのスタートアップに参画し、医療AIや画像認識に関する技術を培ってきました。

その後、国立がん研究センターで研究員として、症例の画像データをAIを駆使して医療に活用する方法を模索していました。車など構造が明確なモノであれば、AIに画像認識をさせやすいのですが、臓器は境界線がわかりづらくAIの活用に壁がありました。しかし、人である医師が臓器の判別を行えているということは、原理的にはAIにも区別が可能であると考え、臓器や症例の画像データを収集していました。

研究を進める中で、実際に手術現場を見学する機会があったのですが、想定以上に手術中にトラブルが発生し、そのトラブルに起因して、患者の死亡事例やQOL低下に繋がっているという現状を目の当たりにしました。そして、現場の手術トラブルを防ぐAIの開発に乗り出すことを決意したのです。

元々研究で数多く集めていた臓器や症例の画像データを使って検証すると、AIにより臓器を認識することができました。そこで、国立がん研究センターの支援を受けつつ、より大量の画像データを収集し、AIに学習させたのです。その結果、精度の高いAIが完成し、製品化の実現に至りました。

代表取締役 松崎 博貴氏

代表取締役 松崎 博貴氏


―― 開発を進められる中で、どんな技術的な課題があり、どのように克服されてきたかを教えてください。

医療機器としてSurVis™の製品化を進めていく上で、超えるべきハードルが多数ありました。たとえば、機器を製造する上では品質マネジメントシステム(QMS)の規格を達成する必要があります。また、ソフトウェアプログラムを搭載した医療機器として、特定の開発要件を満たさなければいけません。薬事申請するための性能評価の方法も考えなくてはならず、さらに、製品を普及させるための販売戦略も立てなければいけません。

研究のみであれば、エンジニアと医療者さえいればある程度可能ですが、実際に社会実装するとなると、非常に多くの物事を考慮する必要があります。しかし、国立がん研究センターという環境のおかげもあり、必要な時期に必要な人材と出会い、多くの関係者の協力を得て乗り越えることができました。

―― 市場展開に向けてはどのような販売体制を築いていかれるのでしょうか?

さまざまなアプローチによる販売体制構築を計画しています。ひとつは、国立がん研究センターとつながりのある病院など、医療施設への直接営業です。

SurVis™の導入によって、損傷リスクやコストが低下し医療トラブルが減少すれば、医療施設のブランド力の向上にも寄与することをお伝えしていきます。加えて、実際の製品販売開始後に、まずは臨床研究として導入いただくための準備も進めています。

また、販売代理店を通じた全国への展開も検討しています。既存の大手医療機器メーカーとの連携についても、現在模索中です。

医療現場でのAI活用が当たり前の社会へ

―― 国内外で競合となり得る技術やサービスはありますか?もしあれば、それに対する御社プロダクトの優位性について教えてください。

実は海外では、手術中のAI活用は日本国内ほど進んでいません。研究としては取り組まれているものの、医療現場で実際に導入されている事例はほとんどありません。

その背景として、海外では臓器・症例画像の共有に課題が存在しています。米国や欧州では個人情報保護の観点から規制が厳しく、また画像データを一種の資産として捉えている病院が多いため、なかなか研究機関に画像データが集まりません。一方、国内では、国立がん研究センターを筆頭に、画像共有・活用が盛んです。

なお、国内には手術におけるAI画像認識の活用を進めようとしている他企業もありますが、当社とはアプローチが異なります。私たちのプロダクトは手術中のトラブル回避を目的として、損傷してはいけない臓器の注意喚起、認識支援に特化しています。そのため、医療者の臓器誤認の防止、損傷リスクの回避に強みがあるといえます。

―― 今後の長期的な展望を教えてください。

SurVis™の医療機器としての承認がおり次第、臨床試験を進めて行きます。今年中には、医療現場に導入される状態を目指しています。

現在は、取り組みに賛同していただいている施設と臨床試験実施に向けた準備を進めています。また、ご要望に応じて迅速に展開できるような販売体制も整えていきます。

世界を見渡しても、手術中のAI活用は実現しきれていません。我々のプロダクトがデファクト・スタンダードとして認知されるようになれば、医療現場におけるAI活用が当たり前になっていくと考えています。

今のところ、子宮摘出手術をターゲットに製品開発を行っていますが、将来的にはより多くの手術に対応していく予定です。手術時の事故の確率を限りなくゼロに近いところまで落とせるような製品へと進化させていき、車の自動運転のように、手術にもAI技術が活用される社会の実現を目指します。

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参考:
※1 内閣府特命担当大臣(科学技術政策担当)「AI戦略2022 概要
※2 矢野経済研究所「診断・診療支援AIシステム市場に関する調査を実施(2023年)

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  • #医療福祉IT支援
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