極度の貧困層まで金融サービスを届ける五常財団、スリランカで緊急人道支援に取り組む

極度の貧困層まで金融サービスを届ける五常財団、スリランカで緊急人道支援に取り組む

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KEPPLE編集部


五常・アンド・カンパニーは、金融包摂を世界中に届けることをミッションとし、途上国で小規模事業向けの小口金融サービス(マイクロファイナンス)を展開するスタートアップだ。

民間版の世界銀行を目指す同社は、2014年に慎 泰俊氏によって設立された。2022年9月時点で、5カ国139万人に金融サービスを届け、運用資産残高は1,000億円を超える。2022年11月には、シリーズEラウンドとして、国内外の機関投資家などから70億円の資金調達を公表。低価格で良質な金融サービスを2030年までに50カ国1億人以上に届けることを目指して、金融包摂の取り組みを進めている。

同社が順調に歩みを進める中で、代表を務める慎氏によって、2022年2月に立ち上げられたのが五常財団(一般財団法人 五常)だ。
五常財団は、五常・アンド・カンパニーを含む一般的な営利企業からは十分なサービスを享受できない人々の生活を向上させるプロジェクトへの資金提供や研究開発の実施を目的に設立された。

また、上記の活動に留まらず、直近ではスリランカの情勢悪化を受けて、緊急人道支援プロジェクトを実施するなど、財団が掲げるビジョンに沿った幅広い活動を行っている。

今回、スリランカの緊急人道支援プロジェクトを終え、その活動の報告とともに、五常財団を立ち上げた背景や今後の活動について、慎 泰俊氏に話を聞いた。

五常財団だからこそできる緊急人道支援

なぜ、五常財団として、スリランカの緊急人道支援プロジェクトの実施に至ったのか──。

「五常財団の設立に向け準備委員会を立ち上げていた2021年5月、インドでデルタ株が蔓延し、多くの方が亡くなる事態となりました。その際、日本でクラウドファンディングで資金を集めて、現地に薬などの支援物資を送った実績がありました。その経験を踏まえて、今回、スリランカの情勢悪化を鑑みて、実施に至りました」(慎氏)

当時、スリランカでは、デフォルトの懸念が高まるとともに、原油の枯渇とインフレにより、人々の生活は急速に悪化していた。

五常財団は、同年6月に食糧支援プロジェクトの実施を決定。本プロジェクトは五常・アンド・カンパニー株式会社のグループ会社であるSejaya Micro Credit Ltd. との協力体制のもと実施された。現地の厚生省と連携して、特にリスクが高い妊婦を特定して、現地大手スーパーマーケットのCargillsで利用できる食料券を用意。寄付で約1,500万円を募り、7,500名の妊婦の方々に食料券を配布を行った。


財団が受益者に行った調査によると、今回の支援では収入制限は特に設けなかったものの、月収が2〜3万ルピー(約7,500円〜11,000円)程度の低所得者層の方が多いことがわかった。また、ほとんどの食料券は配布した当日または翌日に使用され、回答者のうち95%が施策による生活へのインパクトが大きかったと回答。支援の有効性が確認されたという。

慎氏は「決して小さくない7,500世帯の人たちに対して、支援を届けることができたのはすごくよかった」と振り返り、五常財団だからこそ実施できたという手応えを語る。

「五常財団と五常・アンド・カンパニーは、それぞれ独立している別のものではありますが、今回の件を含めて連携しています。五常・アンド・カンパニーが事業展開している国であれば、各国のグループ会社が主要な地域に支店を置いています。緊急支援を行う際に一番大変なのはロジスティクスなのですが、両者が連携することで、スピード感を持って実施することができました。実際、国際NGOや国際機関からの支援はいまだにスリランカに届いていないと聞いています」(慎氏)

一方で、今後も緊急人道支援を行うにあたっての課題も挙げる。

「緊急支援のための資金を事前に集めておけば、もっと早く支援を実施できたと思います。今後、気候変動や地政学リスクの高まりが予測されており、緊急支援が必要な場合は、引き続き取り組んで行きたいと思います」(慎氏)


より多くの人により早く金融サービスを届けるために

今回のような緊急人道支援プロジェクトにも取り組んでいくが、五常財団の活動の当初の目的は、営利企業からは十分なサービスを享受できない人々の生活を向上させるプロジェクトへの資金提供や研究開発の実施だ。

財団設立のきっかけは、五常・アンド・カンパニーの事業活動の中で見出した。

「私たちのお客様の約7割が1日1.9から5.5ドル未満で暮らす人たちで、この低所得者層の人たちが途上国では一番多いです。一方で、極度の貧困層と呼ばれる、1日1.9ドル未満で暮らしている人たちは3%程度しかいない、私たちのサービスが届いていないことがわかりました。」

「所得が低くなっていくにつれて、必要な金融サービスの規模も小さくなっていきます。そうすると、事業としてはなかなか採算を取ることが難しくなっていきます。営利企業かつ上場も目指す企業の事業としては、この層の人たちに対してすぐに十分なサービスを提供できないもどかしさを感じていました。そこで、財団を作って、寄付だからこそできる活動を始めようと思いました」(慎氏)


一般的には、企業財団は上場している企業の創業者が株式などの資産を寄付して運用されることが多いが、未上場のこのタイミングで立ち上げた背景について、慎氏は「全ての良いプロジェクトは準備に時間がかかる」と自身の経験を交えて語る。

「会社を立ち上げた際にも、もともとNPOでマイクロファイナンスに関わっていて、その助走期間があったことで、スムーズに事業を進めることができました。財団を通じた活動は初めてなので、今から取り組むことで、自身の資産を投じられるタイミングでは、もう十分に知見も溜まっていて、全力で走れる状態を実現できればと思い、このタイミングで開始しました」(慎氏)

初の採択プロジェクトが決定

現在、初のプロジェクトとして、貧困層向けに行っている家計簿調査を、数字が読めない・書けない人向けに拡大をするプロジェクトが採択され、資金提供を予定している。

この家計簿調査は、「フィナンシャル・ダイアリーズプロジェクト」として、五常・アンド・カンパニーで行われており、各国でランダムにサンプリングをして、家計簿の詳細なデータを集めている。いくつかの現金の支出と収入の項目を毎日追いかけていくことで、有用な洞察を得ることができる。実際、今回のスリランカにおいても、支出に占める食費の割合が急速に高まっていることが分かり、支援開始のきっかけになったという。

この調査の対象者を読み書きができない人たちに広げることで、その人たちがどのように資金をやりくりしているか、読み書きができる人とできない人の金融行動に違いがあるのかなどを明らかにする。そして、調査結果を活かして、より多くの人たちが経済的な自由を享受できるように取り組んでいく予定だ。

金融包摂における世界で最も優れた財団を目指して

慎氏は、今後の五常財団の活動に関して、五常・アンド・カンパニー同様に、大きな未来を見据えている。

「五常・アンド・カンパニーも創業時から民間セクターの世界銀行になるとずっと言ってきて、その実現に向けて私たちは着々と歩みを進めています。この財団も今は小さな活動かもしれませんが、将来的には金融包摂における世界で最も優れた財団になることを目指して活動しています。世界銀行はさまざまな機能を持っているのと同様、財団の活動が民間セクターの世界銀行の一機能になることを目指しています」(慎氏)

五常財団では、今後も採択プロジェクトを募集しており、応募要項に示された9つの仮説のいずれかを検証するプロジェクトに対して、最大500万円を助成する。

また、五常財団は、今回のスリランカにおける緊急人道支援プロジェクトの報告を行うとともに、今後の活動資金として寄付を募っている。詳しくは五常財団のホームページから確認することができる。今後の展開にもさらに注目が集まりそうだ。



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