カミナシ、約22.1億円調達──現場データを経営につなぐ次の一手

カミナシ、約22.1億円調達──現場データを経営につなぐ次の一手

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株式会社カミナシは、工場や倉庫、店舗などで働く「ノンデスクワーカー」の業務を支援するクラウドサービス群を展開する。紙で記録していた作業内容や点検結果を、タブレットやスマートフォンから入力・共有できる仕組みを提供し、記録の回収、集計、転記などにかかる手間を減らす。

主力の「カミナシ レポート」による帳票のデジタル化を起点に、設備保全や従業員教育、現場のコミュニケーションなどへ製品群を拡充してきた。現場の「作業・人・設備」に関わる情報を蓄積・共有し、業務の効率化を支援する。さらに、業務ごとに分散していたデータをつなぎ、品質や安全、生産性の改善、経営の意思決定に生かす取り組みも進めている。

同社は2026年10月21日、インキュベイトファンドをリード投資家に、アルテミスベンチャーズ、千葉道場ファンド、NTTドコモ・ベンチャーズ、第一生命保険、京王れーるファンド、T&D Innovation Fund、KRAFTIA Innovation Fund、YMFGキャピタルを引受先とする第三者割当増資により、シリーズCで約22.1億円を調達したと発表した。あわせて、新事業戦略「現場オペレーションHub」構想を発表した。調達資金は、同構想の実現に向けた新製品の開発や新事業の体制づくり、製品間をつなぐ共通基盤の開発、それらを担う人材の採用に充てるという。

紙に眠っていた現場の情報は、AI時代にどのような価値を生むのか。代表取締役 執行役員 CEOの諸岡 裕人氏に、戦略の背景や顧客との取り組み、事業拡大に向けた課題を聞いた。

製品群を拡充 紙の中に眠っていたデータを蓄積し、AI時代の価値に

──2023年の取材では、複数のサービスを連携させる構想を伺いました。その後、事業はどのように進化しましたか。

諸岡氏:最も大きな変化は、製品数が1つから5つに増えたことです。2023年3月に「まるごと現場DX構想」を掲げ、帳票のデジタル化から設備保全、従業員教育などへ、対応する業務を広げてきました。

直近では、新規受注額の約7割が複数製品のセット契約です。月次経常収益(MRR)の約半分も、複数製品をご利用のお客様が占めています。個々の業務を効率化するだけでなく、将来のAI活用を見据え、現場のツールをカミナシに集約したいと考えるお客様も増えています。

現場には、まだデジタル化されていない業務が多く残っています。引き続き製品群を拡充しながら、次は蓄積したデータを経営につなげたいと考えています。

製品を横に広げてきた段階から、現場と経営を縦につなぐ段階へ進むイメージです。現場のデジタル化によって得られた情報を経営に届け、会社全体の課題を解決するところまで、提供価値を広げます。

──なぜ今、現場のデータを経営につなぐことに取り組むのでしょうか。

売り上げも利益も品質も、生まれる場所は現場です。本来、経営と現場はもっと近い関係にあるべきだと考えています。

ところが、本社は東京、工場は地方にあり、現場が24時間稼働する場合もあります。場所も働く時間も異なるため、経営が現場の実態を知るまでに、1カ月ほどの時間差が生じることもあります。利益が減った原因を調べようとしても、情報が紙の中にあり、集計に時間がかかるのです。

今回の現場オペレーションHub構想では、日々の業務からデータが蓄積され、それが経営指標につながり、業務間でも連動する状態を目指しています。例えば、点検で見つけた設備の異常を、修理や研修の見直しにつなげる。現場と経営、そして現場の業務同士をつなぐ中継点を担いたいと考えています。

今それに取り組めるのは、AIの進化によって一定の壁を越えられたからです。これまでも、月次の生産実績などの数値は基幹システムで管理されてきました。一方、作業の記録や写真、音声などの情報は、十分に活用されていませんでした。生成AIの進化によって、こうした情報も分析や改善に生かせる可能性が広がっています。

ただ、AIに働いてもらうには、材料となるデータが必要です。そのデータは、ずっと紙の中にありました。私たちは10年、それを地道にデジタル化してきました。その結果、インターネット上のどこにもない、汎用的なAIには持てない、現場のデータを蓄積できています。長く続けてきたことが、ここにきて新しい価値に繋がり始めているのです。

図:現場オペレーションHub構想(同社提供)

生産記録のデジタル化から、事故防止へのデータ活用まで

──6つ目の製品となる新製品「カミナシ 生産実績」は、どのような課題を解決する製品ですか。

製造現場では、生産の実績をまとめるシートに、出来高や不良、停止などを記録しています。生産性を分析・改善するために欠かせない情報ですが、今も紙で管理されているケースが多くあります。

紙を回収して集計し、Excelに転記する運用では、問題に気づくのが翌日以降になり、対応も遅れます。集計に時間を取られ、改善活動に十分な時間を割けないことも課題です。

11月1日に提供を開始した「カミナシ 生産実績」は、お客様のそのような課題を解決するために開発したプロダクトです。現場の方がタブレットなどに入力した情報を基に、可動率や不良率、停止時間などをリアルタイムで自動集計・可視化します。不良原因や停止理由を分析し、どの問題から改善すべきかを把握する機能も備えています。

これまで集計して経営に報告していた情報も自動で可視化されるため、経営層が状況を確認しやすくなります。

製造業のお客様にとって、生産性を改善して利益を生み出すことは、経営上の重要なテーマです。その課題を解決するために、必要なデータをしっかり集めたいと考えました。

図:「カミナシ 生産実績」UIイメージ(同社提供)

──蓄積した現場データを、経営課題の解決にどう生かすのでしょうか。

新事業「Project Lux」では、お客様ごとの事情に合わせ、カミナシ上の現場データと、お客様が保有するデータを組み合わせて活用する環境を整えます。

第一弾として、キリングループロジスティクス様と、物流倉庫内の事故を減らすための仕組みづくりに取り組んでいます。

同社には、過去にどのような事故が起き、どう対処したかを記録したデータがあります。一方、「カミナシ レポート」には、各拠点の日々の安全点検やヒヤリハットの情報が蓄積されています。この2つを統合して活用します。

ただし、生のデータをそのままAIに読み込ませれば、成果が出るわけではありません。データを整理したり、分析に必要な分類軸を加えたりして、活用できる状態に整えています。

目指しているのは、ある拠点で問題が起きた際に、AIが情報を捉え、レポートや改善に向けた教育資料を作成する仕組みです。それを翌日の朝礼などで全拠点に届けたいと考えています。

人手でレポートや資料を作ると、1〜2週間かかる場合もあります。全拠点への共有も大きな負担です。現場データとお客様のデータにAIを組み合わせ、情報を迅速に改善活動へつなげることを目指しています。

私たちは現場向けに6つの製品をそろえ、データを活用できる基盤も整えてきました。キリングループロジスティクス様のように、お客様と大規模な取り組みを進められている点においても進化しているポイントだと考えています。

図:「カミナシ 生産実績」イメージ(同社提供)

個別企業への支援を、再現性のある事業へ広げる

──Project Luxを、どのように拡大していきますか。

現時点では1社と取り組んでいる段階ですが、今後の展開次第では再現性を持って他のお客様にも提供したいと考えています。

物流では安全、食品では品質、製造業では生産性など、業界内で取り組みたいテーマは共通しています。そのため、同じ仕組みを横展開することは可能だと見ています。

鍵となるのは、顧客ごとの個別対応をどれだけ減らせるかです。お客様のデータを扱う以上、一定の個別性は残りますが、共通する部分は製品側でカバーしたいと考えています。

技術を理解し、ビジネスの感覚も持つ人材の確保も課題です。難易度の高い個別対応が残り続けると、特定の人材に依存してしまいます。仕組みを共通化し、一定の技能を持つ人材であれば案件を主導できる状態を目指します。

現場の努力が経営を変える、その成果を示したい

──今後2〜3年で、どのような成果を示したいと考えていますか。

「現場から経営課題を解決する」という構想を、具体的な成果で証明したいです。

現場をデジタル化して仕事が楽になったとして、それが会社全体にどのような価値をもたらしたのか。現場データとAIの組み合わせによって、どれほどの成果が生まれたのか。そこまで示せている事例は、まだ少ないと感じています。

私は、現場の可能性はもっと大きいと思っています。以前携わっていた家業(空港関連業務、機内食ケータリングや清掃などのアウトソーシング事業を手がけている )でも、現場の一人ひとりの努力で利益が出たり、品質が向上したりしました。品質が評価され、新しい契約につながった経験もあります。

現場には、それだけの力があります。一人ひとりの才能が、アナログな働き方の中で十分に生かされていない。その力を引き出し、「現場が経営を変えた」と示せる事例を、今後2〜3年で増やしたいと考えています。

──現場で働く人や経営者にとって、どのような未来をつくりたいですか。

経営者の方には、自社の現場を誇れるようになってほしいです。そうした環境であれば、現場の方もやりがいを感じながら働けると思います。

この仕事を始めて驚いたのは、「うちの現場はITを使いこなせない」など、現場に自信を持てていない経営者の方が多かったことです。私は家業で、現場の一人ひとりが持つ力を見てきました。その可能性を、もっと発揮できる状態にしたいと考えています。

個人的に、ずっと持ち続けている目標もあります。娘が将来、就職活動で「現場で働きたい」と話したとき、自分はどう答えるのか。起業当初は、仕事の大変さを知っているからこそ、止めてしまうと思っていました。

しかし、今はその選択を自信を持って応援できるようにしたいと思っています。現場で働く素晴らしさや楽しさ、やりがいを、自信を持って語れるようになりたい。そのためには、まだ越えるべきハードルがありますが、実現できそうな手応えも感じ始めています。

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