言語の壁を打ち破る翻訳AI、社内コミュニケーション活性化のカギになるか

言語の壁を打ち破る翻訳AI、社内コミュニケーション活性化のカギになるか

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イノベーションの設計図

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KEPPLE編集部


少子高齢化に伴う国内の労働力低下が危惧される中、労働力の補完手段として外国人労働者の受け入れが進んでいる。

厚生労働省によると、2019年の外国人雇用事業所数は約24万2600で外国人労働者数は約165万8000人であった。対して、2023年には約31万8700の事業所が約204万8000の外国人を雇用していると推計している。

業務の効率化や人材確保の代替として、生成AIにも期待が寄せられている。メーカー製品の品質検査の自動化、ソフトウェア開発、広告制作など多種多様な分野で活用が見込まれる。

生成AIを活用して従業員のエンゲージメントを高めるSaaSを提供する株式会社エレクトリック・シープはシードラウンドにて、XTech Venturesおよびエンジェル投資家3名からJ-KISS型新株予約権による約2億円の資金調達の実施を発表した。

今回の資金調達により、第一弾のプロダクトとしてリリースしたSlack翻訳アプリ「TellYa」のマーケティング・販売活動に注力し、新規プロダクト開発人材、営業人材の採用を行う。これにより、エンゲージメントに関係する課題全般を解消する製品の開発を目指す。

外国語話者とのコミュニケーションを促進するSlack翻訳アプリ

同社が開発するTellYaは、Slack の投稿をリアルタイムで日英翻訳する Slack アプリだ。

翻訳ボットをSlackチャンネルに招待し、設定することで自動的に発言を読み取り、翻訳文を提供する。2024年3月時点では、日本語・英語に対応している。

画面イメージ

Slackチャンネル内で文章を投稿すると瞬時に翻訳文が生成される(画像:エレクトリック・シープ提供)


同サービスは大規模言語モデル(LLM)を活用することで、自然で高精度な翻訳文を生成可能だ。

外国人労働者を多く採用する企業でも、部署によっては英語が苦手な担当者は多い。TellYaの活用で、日本の制度を中心としたバックオフィスに関するやり取りや緊急時も、母国語を用いて自然なやり取りが可能になる。

Slack上での翻訳文の表示は、投稿に対して翻訳文を返信として表示するほか、用途に合わせて複数から表示方法を選択できるようにした。

料金プランは基本的な翻訳機能を備えたスタンダードプラン、ドキュメント翻訳などの追加機能まで利用可能なアドバンストプランを提供する。いずれも利用ユーザー数に応じて月額課金される。

今回の資金調達に際して、共同創業者兼代表取締役CEO 紀平 拓男氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

外国人材受け入れで生じるコミュニケーション課題

―― TellYaが必要な背景について教えてください。

紀平氏:国内での採用難も背景に、外国人労働者を雇用する企業が増加しています。IT企業では、エンジニアを採用する大企業やスタートアップが目立ちます。組織内に英語話者がいることは、珍しいことではなくなってきているんです。

そうすると今後、英語話者と日本語話者のギャップは大きくなっていくと考えています。エンジニア同士であれば、さほど問題はないかもしれません。

一方で、本来英語を必要としない職種の人が英語でコミュニケーションすることも増えるわけですね。少子化を背景に外国人材が増える中で、コミュニケーションに関する問題が増えてくると、ストレスなく使える高品質な翻訳ツールを利用することは非常に重要だと考えています。

―― Slack上で使える既存の翻訳アプリとTellYaの違いを教えてください。

これまでも、Slack上で入力したテキストの翻訳文を返すサービスはあり、私自身利用していたことがあります。こうしたツールはバックエンドでは素晴らしい翻訳ツールが使われていると思いますが、翻訳の質はあまり高くなかったように感じます。

Slack上での翻訳文の表示も、ユーザーにとって使いやすいものではありませんでした。例えば翻訳文がスレッドに投稿されるような場合、視認性が悪くなってしまいます。

ユーザー体験が良くないので、アプリの利用をやめようという議論が起こることも珍しくありませんでしたが、それでも必要としている人が多かったのです。

画面イメージ

国旗アイコンをクリックすると当人にのみ翻訳文が表示される表示方法を選択できる

(画像:TellYa公式HPより掲載)

インターネット・スマホに続く革新を目の当たりにして起業を決意

―― 創業のきっかけは?

従来のアプリに不便さを感じていたことも理由の一つですが、大きなきっかけとなったのは生成AIの登場です。良い意味で非常に大きな衝撃を受けました。生成AIは、インターネットやスマートフォンに続く大きな革新だと思っています。

私自身はこれまで、何度か起業をしています。ウェブが大好きで、プロダクトアウトで事業づくりをしていました。ただ、このLLMという革新は、しっかりと世の中に広げなければいけません。ここで起業しなければ自分の人生の否定になるかもしれないと、起業を決意しました。

代表取締役CEO 紀平 拓男氏

代表取締役CEO 紀平 拓男氏

翻訳を皮切りにコミュニケーションの課題解決へ

―― 調達資金の使途について教えてください。

LLM開発には多額のコストがかかります。プロンプトの実行ごとに費用が発生するため、フリーミアムのビジネスモデルをLLMで実現するのはかなり困難なのです。そのため、LLMの事業を初期に大きく伸ばすためには、資金を持つこと自体が強みになります。

また、増えているとはいえ、外国人労働者を積極的に受け入れている企業はまだそこまで多くありません。比較的ニッチな業界の中で、TellYaを通じて当社の認知を広げていくことが重要です。

こうした背景から、今回LLMの研究開発やマーケティング活動に充当する目的で資金調達を実施しました。

―― 今後の展望を教えてください。

TellYaについては、ドキュメント翻訳の機能開発を進めています。チャットと異なり、数十枚のドキュメントを翻訳しようと思うと、原価が一気にかかってくるわけです、そのためチャットとは異なるUXの提供が必要です。

LLMに関するビジネス全体に言えることですが、現状は技術力よりもデザイン力が大切だと考えています。ユーザーにとってどれだけ使いやすくするか、そこが今一番求められていると捉えて開発に注力していきます。

また、我々は、コミュニケーションに関する根本的な課題解決を目指しています。TellYaはその入り口となるプロダクトです。TellYaに続くプロダクトを生み出し、2025年には新プロダクトのPMF達成を目標にしています。

LLMは「人に寄り添う」技術

―― どのようなプロダクトの開発を予定しているのでしょうか?

例えば、LLMを活用したFAQと接続した社内検索アシスタントのようなサービスは珍しくないと思います。しかし、残念ながらあまりユーザーの評価を得ていません。

いくつか理由がありますが、そもそも社内ドキュメントはあまり構造化されておらず、更新されていないことが挙げられます。更新が面倒で投資対効果も見えにくいため、特に中小企業ではドキュメントが放置されているのです。

こうした誰もやりたがらない面倒な領域を代替する、AIアシスタントの開発を計画しています。

英語話者がAIアシスタントに何か質問をした際に、それが例えば経費精算に関するような内容であれば、データベースを参照して回答を得られるでしょう。複雑な質問の場合は難しいかもしれません。

そこで、答えられそうな従業員をAIが判別して、代わりに同じ質問を翻訳して投げかけるようなことを考えています。匿名で質問されるので心理的なハードルも下がり、従業員同士の知識交換が活性化するはずです。

このやり取りをデータベースに保存することでナレッジを蓄積し、社内ドキュメントの不備を発見してAIが修正提案するような世界観の実現を目指しています。

―― 読者に向けたメッセージをお願いします。

国内の少子化は避けられない問題です。その中で、私はLLMという技術が今後の国内の経済成長の根幹になると確信しています。AIを単純に人の仕事を奪うものではなく、人に寄り添うものとして育てるというミッションの達成に向けて取り組んでいきます。

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※ 厚生労働省 「「外国人雇用状況」の届出状況表一覧(令和5年10月末時点)


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