アカデミア発8社が集結──「1stRound」第14期採択企業ピッチ交流会レポート

アカデミア発8社が集結──「1stRound」第14期採択企業ピッチ交流会レポート

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KEPPLE編集部
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東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)が主催するアカデミア系アクセラレータープログラム「1stRound」は2026年4月13日、第14期採択企業を発表した。

発表に先立つ4月10日(金)、東京・文京区のHiraku Gate で採択企業によるピッチ交流会が開催された。数百件の応募から選ばれた8チームが登壇し、農業・宇宙素材・造船・創薬・採用・医療機器・量子センサ・資源リサイクルと多岐にわたる分野で技術シーズや事業進捗を発表した。

1stRoundの特長は、「ファウンダー・ファースト」を掲げ、ノンエクイティで活動資金を支援する点にある。国公私立23大学・5つの国立研究機関が共催しており、2026年4月には奈良県立医科大学が新たに参画。応募はこれらのアカデミアと関係のあるチームに限られている。

東大IPCによると、過去には累計110チームが採択され、その後の資金調達成功率は約90%、大型助成金の採択率は50%以上にのぼる。今期は「法人設立済みのチームが多く、資金調達・事業連携が着実に進捗しているチームが多い傾向」だという。

アカデミアの最前線から飛び出した、個性際立つスタートアップを紹介する。

研究の最前線から生まれた、8つの挑戦

株式会社ソラマテリアル──「空気に浮く素材」で航空宇宙・モビリティを変える

「空気に浮くほど軽い新素材」の超軽量材料の研究開発・製品開発を行う名古屋大学発スタートアップ。密度は空気の0.5〜10倍という軽さ(同社調べ)に加え、断熱性・吸音性・電磁波遮蔽といった機能性も兼ね備える。

特に軽さが求められる宇宙・航空・モビリティ領域での活用を見込んでおり、人工衛星やドローン、自動車への実装へ向けた取り組みも進んでいる。ジャミング防御用素材としてもドローン各社から引き合いが相次ぐ。自動車メーカーとは2〜3年内の実車搭載を目指した共同開発を進行中であるという。JAXAパートナースタートアップにも登録されている。

素材スタートアップには量産化の壁があると言われるが、ソラマテリアルは製造工程がシンプルで、スケールしてもコストが積み上がりにくいとする点が注目を集めた。

※ジャミング:通信や信号を妨害して正常な伝達をできなくする行為

株式会社Hanasaka Bio.──植物の「休眠」打破、異常気象に強い農業へ

静岡大学農学部助教・富永晃好氏が代表を務めるアグリテックスタートアップ。独自に発見した低分子化合物「化合物X」により、バニラ・果樹・花・野菜・穀物などの発芽・開花を促進する技術を確立。今年度内に静岡大学発ベンチャーとして法人設立を予定している。

地球温暖化の影響で植物が休眠から正常に覚醒しない「眠り症」が世界的に拡大しており、花が咲かないことで農作物が実らなくなる問題が深刻化している。同社は1000種類以上の化合物スクリーニングを経て化合物Xを発見した。

最初のターゲットはバニラ。一部民間調査によると、バニラ市場規模は世界で約5000億円とされるが、バニラは年1回、1日しか花を咲かせないため、正常に開花できなければその年の収穫がなくなるという課題がある。同社は、世界で初めてバニラの開花を確実に促進することを実験により実証したという。同社は技術の社会実装を進めるとともに、バニラ以外の植物への応用も進める構えだ。

MicroCavitics──マイクロバブル x 超音波で心筋梗塞治療の時間との勝負に挑む

オーストラリアを拠点に活動する内科/循環器専門医・根岸一明氏が率いるメドテックスタートアップ。超音波の照射とマイクロバブル注入を組み合わせた「慣性キャビテーション技術」により、血栓溶解と微小循環の回復を実現するという。

「(心筋梗塞は)発症してから病院到着・ステント留置まで約3時間かかると言われているが、治療の開始までに2時間かかっている。この2時間は(救急車での搬送などにかかる時間で)治療ができないもどかしい時間」と根岸氏は語る。同社の技術を使えば、AED程度のサイズのデバイスを活用し、パッチを胸に貼ることで救急車内など病院外で治療を開始できるという。臨床試験では心筋細胞のダメージをほぼ半減させる成果を確認している。

技術そのものは既存の超音波とマイクロバブルの組み合わせだが、「20年間の安全性が証明されているのに、治療への応用という発想がこれまでなかった」と根岸氏は説明する。開発デバイスについては現在オーストラリアで薬事申請中で、EU・米国・日本と順次展開を予定する構えだ。

CaseMatch株式会社──採用の非効率を、AI面接 x プラットフォームで解決

CEO・松本拓樹氏、COO・山室公平氏が率いるHRテックスタートアップ。「採用市場は極めて非効率」という課題認識のもと、ハイクラス向けAI面接サービス「CaseMatch AI面接」と、AI面接により評価済みの人材データを収録したデータベース型採用プラットフォーム「CaseMatch ダイレクト」を展開する。

画一的な面接を行うのではなく、企業ごとに採用要件を明確化したうえで面接をカスタマイズ設計。また、受験結果を蓄積したデータベースから企業がスカウトを送ることで、候補者は繰り返し面接を受ける手間なく適切な企業とマッチングされる仕組みを実現した。「(英語試験の)TOEFLが果たす役割を、あらゆる職種・業種の採用で担う」としている。

本リリース後1年2カ月で累計75社に導入。累計受験者は10万人、登録者は1.5万人に達するなど、すでにトラクションが出ていることも関心を集めた。代表の松本氏は東大松尾研究室発スタートアップ・燈に創業メンバーとして参画していた経験を持つ。

株式会社Type-I Technologies──ナノメートルサイズのダイヤモンド量子センサ

量子科学技術研究開発機構(QST)発のスタートアップ。ダイヤモンド量子センサの研究をもとに、体液診断技術「量子リキッドバイオプシー」を開発し、従来技術より高精度かつ安価な検査の実現を目指す。

同社は、ダイヤモンドの中にNVセンターを人為的に作り出し、光センシングを可能とする技術に強みを持つ。同社のダイヤモンド量子センサは温度・pH・ラジカルを高感度に計測でき、高温・高腐食環境でも動作するほか、ナノメートルサイズまで小型化可能という特性を持つという。この特性を活用した非侵襲の医療検査システム「量子リキッドバイオプシー」は、がん・感染症の早期診断や神経変性疾患のスクリーニングへの応用を見据える。感度は既存技術の蛍光ELISA法と比較し、数桁倍程度の感度となる可能性もあるという。PoCではすでに実用化に近い精度を達成しているとする。製造インフラ向けには、配管内インラインセンサへの応用を見据える。

※NVセンター:ダイヤモンドの欠陥構造の一つで、ダイヤモンド中で窒素原子(N)の隣に空孔(V)ができた際の、NとVの中心のこと。環境変化を検知して量子状態が変わる特性を持つため、センサへの活用が可能。作製する際の位置制御などが難しく、技術的課題とされてきた。

Noahlogy株式会社──造船・海事産業をAIで変革する東大発スタートアップ

「海事産業をひとつにする」をビジョンに掲げ、造船・海事産業に特化したAXを行うスタートアップ。

造船業では、とりわけ設計を担う熟練技術者の高齢化と技能継承が深刻な課題となっている。一方で、次世代船舶(省エネ・無人船)や艦艇などは設計負荷が既存船を大幅に上回るなど需給ギャップが広がっている。

こうした課題を解決すべく、同社は熟練技術者と連携し、設計知見を引き継いだAIエージェントを開発。設計期間・工数の90%削減を目指す。

2024年11月の創業から約15カ月で国内20以上の造船所と連携しており、国内最大手の今治造船にもエンジニアが常駐し、データを吸い上げながら実用化を進める。2026年4月には、AI造船所の実現を目指す国土交通省のBRIDGE事業の採択も受けた。将来的には、海事産業サプライチェーン全体を繋ぐAIプラットフォームの構築も視野に入れる。経済安全保障やGXなど政策の追い風を受ける海事産業に完全特化したAIエージェントを開発し、既にトラクションを積み上げている点で注目のスタートアップだ。

Myracule株式会社──未踏化合物のライブラリー作成、創薬の可能性を広げる

有機化合物は理論上10の30〜60乗種類が存在するとされるが、製薬産業が活用できているのは10の9乗程度、つまり全体の100万分の1以下にすぎないとされている。

この「化合物多様性の枯渇」という課題に対し、同社は従来の化合物ライブラリーにない新規化合物を含む巨大なライブラリーを形成し、創薬が困難とされてきた疾患の治療薬開発の実現を目指す。独自アルゴリズムにより、コンピューター上で理論的に可能な全有機分子を系統的に生成することで、10の20乗通り規模のデータベースを構築するという。また、想定用途等に応じて化合物のスクリーニングを行うアルゴリズムも開発している。

東大IPC担当者は、同社事業を「創薬版の特化型Google」と表現。製薬企業へのライブラリーアクセス提供・受託スクリーニングに加え、自社創薬やライセンスアウトも視野に入れる。

ルーパーツ株式会社──リサイクルが難しいアルミを「高純度化」する世界初の技術

資源リサイクル技術を開発する東北大学発ベンチャー。CEO | 共同創業者・滝本康平氏と、30年間にわたり溶融塩電解研究を牽引してきた東北大学・朱 鴻民教授が共同創業した。

アルミニウムはリサイクルのたびに不純物が混入し純度が下がり、最終的にはエンジンブロックなどに用途が限定される「ダウングレード」が避けられなかった。同社のUPLOOP技術は溶融塩電解を活用し、スクラップアルミを新品の純度に精製するアップグレードリサイクルを世界で初めて実証。真地金製造比で30%以下の電力消費、混入したシリコン等の分離回収も実現する。

レアアースのリサイクルも並行して開発中。高環境負荷な溶媒抽出を使わず、電解装置でダイレクトに分離できる点が特徴で、国内完結型サプライチェーンの構築を目指す。来年初頭から工業炉スケールの実証に入り、その後電解装置のモジュール化により処理能力を拡大していく構えだ。

元ベンチャーキャピタリストとして300件以上のディープテックシーズをヒアリングし、夜行バスで東北大学に通い詰めて朱教授との関係を構築した滝本氏のストーリーも注目を集めた。

第15回の公募も開始、研究の社会実装の壁を越え、ディープテックの育成へ

東大IPCは採択発表と同時に、第15回「1stRound」の公募開始も発表した。1年に2回実施されるプログラムは年間数百件の応募を受け付け、採択率は約2%。採択企業はまさにアカデミア発の挑戦の中で選び抜かれた存在と言える。

研究開発の長いリードタイムや「死の谷」、経営人材の不足といった課題により、研究機関発の技術シーズの事業化は依然として難易度が高い。そうした中で今回採択の8社はいずれも、大学・研究機関で培われた強固な技術基盤を武器に、それぞれのフェーズで着実に前進している。今後のさらなる成長に注目したい。

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