AiCANが1.8億円の資金調達を実施――児童相談現場向けSaaSの開発強化へ

AiCANが1.8億円の資金調達を実施――児童相談現場向けSaaSの開発強化へ

xfacebooklinkedInnoteline

児童相談所など児童福祉の現場向けに業務支援SaaS「AiCANサービス」を展開するAiCANは、HIRAC FUNDおよびANRIを引受先とする第三者割当増資を通じ、総額1.8億円の資金調達を実施。これにより融資を含む累計調達額は約6.0億円となる。今回の調達資金は、プロダクト開発の強化、営業体制の拡充、人材採用などに充てる方針だ。

同社は2020年に設立され、児童相談所や市区町村、保健課などを対象とした児童虐待対応支援業務のデジタル化を推進してきた。主力サービスの「AiCANサービス」は、タブレット端末で利用可能なWebアプリケーションとクラウドデータベース、AIを活用したリスク予測分析基盤を統合。現場の情報入力や共有作業の負担軽減に加え、蓄積データの解析結果に基づく対応指針の提示が可能となる。加えて、法改正や現場課題への迅速な対応を実現するSaaSモデルを採用しており、導入時には自治体ごとにカスタマイズした職員研修や運用支援も実施している。

サービスの主な機能は、児童虐待案件の経過記録や調査項目のリスト化・ガイド表示、現場間でのチャットや写真共有、入力しやすいユーザーインターフェースと閉域ネットワークによるセキュリティ確保、AIによる類似ケースや再発リスク指標の提示、帳票出力や電子決裁機能、他機関との連携機能(開発中)などがある。経験の浅い職員でも過去事例や根拠に基づき判断を補強しやすく、調査記録に要する時間を従来比で約6割削減できたとの報告がある。同社によると、2023年に全国6自治体、2024年に7自治体で実証実験を行い、2025年4月時点では、全国9自治体にサービス提供を開始しているという。

代表取締役の髙岡昂太氏は、臨床心理士・公認心理師・司法面接士として児童相談所や医療・司法機関で15年以上の現場経験を有する。2017年から産業技術総合研究所 人工知能研究センターで主任研究員を務めている。研究と実務の双方から、児童虐待対応における人手不足や専門性の高さ、知見・データの蓄積と循環の必要性を実感し、ICTやAIを活用した業務支援の仕組みを構築するため、2020年に起業した。

国内の児童虐待対応を取り巻く状況として、こども家庭庁の統計によれば2022年度の児童相談所による虐待相談対応件数は20万件を超え、過去最多となっている。一方で、職員1人あたりの担当件数は都市部を中心に増加傾向が続き、現場では人材不足や判断の属人化、他機関との連携の難しさ、データ活用の遅れなどが課題とされてきた。特に、リスク評価や意思決定の標準化が十分に進んでおらず、経験や勘に頼る運用からの脱却が模索されている。また、行政領域、特に福祉分野のデジタル化の遅れも顕在化しており、業務支援SaaSの導入例は限定的であった。

競合としては、従来の紙やエクセルを用いた運用、福祉分野向けの業務支援パッケージ、米国など海外で普及している児童保護関連ICTシステムなどが存在する。しかし、児童虐待相談の意思決定プロセスを標準化し、データ活用や業務フローの変革を現場とともに推進するサービスは、国内ではまだ少数にとどまる。

今回の資金調達により、AiCANは営業・開発体制の拡充と、プロダクトの機能改善、新たな領域(教育・保健・社会的養護など)への展開強化に取り組む。今後は児童虐待対応を担う自治体や医療、教育、保健機関などへのサービス横展開や、データに基づく政策立案支援といった領域も見据えている。

画像はAiCAN HPより

掲載企業

Share

xfacebooklinkedInnoteline

新着記事

STARTUP NEWSLETTER

スタートアップの資金調達情報を漏れなくキャッチアップしたい方へ1週間分の資金調達情報を毎週お届けします

※登録することでプライバシーポリシーに同意したものとします

※配信はいつでも停止できます

投資家向けサービス

スタートアップ向けサービス