株式会社Atomis

今年で33回目を迎えるスタートアップカンファレンス「IVS2026」が、2026年7月1日〜3日、京都市勧業館「みやこめっせ」ほかで開催された。
起業家、投資家、事業会社、行政、学生まで、イノベーション創出を支える多様なプレイヤーが京都に集結。
目玉であるピッチコンテスト「IVS LAUNCHPAD」やパネルセッション、スタートアップのべ340社による展示が行われた。また、市内各所のイベントスペースや寺社、町家などを舞台にしたサイドイベントも500件以上が開催された。実行委員会には、Headline Japan・京都府・京都市が参画。
今年のテーマは「Japan is Back」。会期中の来場者数は1.3万人を超え、京都市内各所は盛り上がりを見せた。
本稿では、3日間の様子をレポートする。
日替わりでのべ340社が出展 スタートアップマーケット
みやこめっせの「スタートアップマーケット」では、日替わりで1日100社が出展し、来場者へのプレゼンや交流を行った。

隣接エリアでは、日本各地の自治体や共創施設が出展し、各地のスタートアップ支援・共創の取り組みが紹介されていた。


ピックアップセッション:京都の企業を育てる文化と大学、スタートアップ
公式イベントとして3日間で全186回のセッションが開催され、政府関連機関や地方自治体、投資家、スタートアップ、大学など様々な立場から発信が盛んに行われた。

1日に開催されたパネル「Japan is Back:ノーベル賞級の発見を、いかに産業に変えるかー 北川進が拓いたフロンティアとディープテック投資の未来 ー」には、2025年にノーベル化学賞を受賞した京都大学の北川進 特別教授が登壇した。
セッションでは、基礎研究の成果をいかに産業へつなげるかを軸に議論が展開された。北川氏が開発した金属有機構造体(MOF:Metal-Organic Frameworks)※1の社会実装に取り組むAtomis代表の浅利氏、京都府の西脇知事、日本テクノロジーベンチャーパートナーズ代表の村口氏らが登壇し、素材スタートアップが直面する「死の谷」をどう乗り越えるかについて意見を交わした。
※1 金属有機構造体(MOF:Metal-Organic Frameworks):金属イオンと有機分子を規則的に組み合わせ、内部にナノサイズの孔を持つ多孔性材料。北川氏は「ナノサイズのレゴブロック」と表現する。ガスの吸着・貯蔵、CO₂回収、水の浄化、触媒などへの応用が期待される。

2日に開催された「Morning Pitch×NEDO ドリームピッチ〜日本の一次産業の底力!次世代フードイノベーション〜」では、日本農業などアグリテック・フードテック4社が登壇。後継者不足など多くの課題が指摘されている農畜水産領域で新しい技術・ビジネスを展開している様子が披露された。

同日のパネル「世界で勝てる日本技術発のバイオテック―日本の成長戦略」では、投資家・政府・スタートアップ・製薬会社の各立場から議論が交わされた。
テーマは、日本が世界有数の医薬品創出国でありながら、スタートアップ発の世界的新薬がまだ生まれていないという課題だ。薬価や製品化のハードル、投資リスクの高さといった構造的な課題もあるが、一方で政策的な追い風も吹いてきている。その一つが、認定VCの投資額の2倍相当を補助金として支給するAMEDの「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」である。
成功事例が生まれれば資金と人材が流入し、好循環につながる。日本の創薬ベンチャーは今が転換期だという認識が、登壇者の間で共有された。

今回のIVSでは、京都ならではのイノベーションを生み出す土壌についても多くのセッションで言及があった。
3日に開催されたパネル「試作から量産への死の谷を越える~『試作の聖地・京都』が支えるディープテック~」には、京都のものづくり中小企業43社からなる「京都試作ネット」が登壇。ものづくり企業が量産化に踏み込む前の、試作ソリューションを提供している。2025年のIVS LAUNCHPADで優勝したアドバンスコンポジット株式会社や、アフリカの水課題に取り組むスタートアップ株式会社Sunda Technology Globalとの連携について紹介された。京都には若い会社を支援する「恩送り」の文化があることが紹介され、アカデミアと中小企業の技術、育成文化が結びついている点が、京都の強みとして語られた。
IVS LAUNCHPADはSpace Quartersが優勝、「宇宙建築」という新分野に期待
3日には、開催20回目を数えるピッチコンテスト「IVS LAUNCHPAD」が開催され、国内外スタートアップ15社が熱戦を繰り広げた。
優勝を飾ったのは、「宇宙建築」に取り組む株式会社Space Quarters。オーディエンス賞には、株式会社TAIANが輝いた。
優勝:株式会社Space Quarters

宇宙開発には、「ロケットより大きな構造物を宇宙に運べない」という制約が存在し、これが大型宇宙構造物の構築コストや投資対効果を制限してきた。同社は、建材とロボットを打ち上げ、宇宙で構造物を組み立てることを目指す。
これにより、同一サイズ当たりの構築コストを削減し、従来比10倍以上のサイズの宇宙構造物を実現できるとしている。
電源込みで約5kgまで小型化した電子ビーム溶接機と、高圧電源、施工ロボットシステムなどを一気通貫で自社開発している。月面開発と衛星通信の2市場をターゲットに据える。月面実証や商用化を見据え、2028年には宇宙環境での実証を国際宇宙ステーションの船外で行う予定だ。
優勝を受けて、共同創業者/COOの高橋 宗徳氏は、「我々の取り組む宇宙建築技術は、グローバルに見てもまだ存在していない技術。我々はその先端で開発を進めている」「(今回の受賞は)『面白そうだけど、本当にできるのか』という宇宙建築に対する懸念を、ワクワクや期待が上回った結果だと捉えて嬉しく思っている」(一部抜粋)と述べた。
2位:株式会社あかり保証

「おひとりさま」の課題に向き合うサービスを運営する。
同社は、主に単身の高齢者向けに、入院や介護施設への入居、賃貸物件の契約などの際に身元保証人・連帯保証人となるサービス「身元保証サービス」や、亡くなられた後の遺体の引き取り・遺品整理・不動産整理などを一括して行うサービス「死後事務サービス」などを提供する。現時点でチャーンは1件もなく、LTVは平均320万円となっているという。
代表取締役の清水 勇希氏自身が弁護士であり、法律相談を受けたことをきっかけに起業したというエピソードも注目を集めた。
3位:株式会社MUSE

小売店舗向けロボット「Armo」を開発する企業。 Armoは、品出しサポート、商品棚のスキャンと欠品の検知、買い物客の案内などを行うことができるマルチユースロボット。
店舗への導入時には、ロボットに巡回ルートを覚えさせるマッピングが不要で、図面をクラウドにアップロードするだけという手軽さも強みだ。
代表取締役CEOの笠置 泰孝氏によると、導入店舗は現時点で10社・50店舗まで拡大しているという。米国をはじめ海外展開も進めるとしている。
4位:株式会社inprog

トイレ清掃ロボット「CleanK」を中心に、清掃現場の人手不足と品質ばらつきの解消を目指すAIロボティクス企業。
狭い空間での複雑な動作を必要とし、コストがかかるが自動化が進んでこなかった清掃領域としてトイレに注目。「CleanK」は、汚れを検知し、便器のふち裏や便器内の清掃を自律的に行うことができるほか、稼働状況の可視化などの機能も搭載する。
5位:株式会社ZetaX

現役東大生の佐藤陽氏と柳澤京佐氏が創業したスタートアップ。
エッジAIで機械が壊れる前兆を検知し、工場停止による損失を防ぐ技術を手がける。
同社は電流と熱の波形データに特化した独自アルゴリズムによりAIモデルを1/1000の容量まで軽量化し、小型基板単体で動作できるようにしたという。これにより、完全オフライン駆動で学習・モニタリング・異常検知をすることができ、企業の機密情報が漏れるリスクにも対応できるとしている。
オーディエンス賞:株式会社TAIAN

ブライダル業界特化AI SaaS「Oiwaii」でウェディング事業者のDXや顧客管理をサポートするスタートアップ。全国の400式場以上で導入されているという。
国内30社と提携し、インバウンドウェディングのプラン設計からオペレーションまでを支援するサービスにも取り組む。
日本とほぼ同等の国際観光客数を持つメキシコでは年間約25万組がインバウンドウェディングを行っていることにも触れられ、潜在市場の大きさが注目を集めた。
株式会社UMIAILE

自律航行する小型無人ボート(ASV)を用いて、海洋データの観測・分析を行うスタートアップ。 自社開発の船体姿勢制御技術を活用し、小型ながら高速で水上航行可能とする「UMIAILE ASV」を開発。目的に応じた観測機器を搭載することで、海象情報や海洋生態系、海底地殻変動、ブルーカーボン量などの海洋データを観測・分析する。
海洋無人機に1.2億円の官民投資が決まっていることなど、政策の追い風を受け、同社は最初の顧客として防衛省を想定する。潜水艦による領海侵犯リスクへの対応を念頭に入れる。また、防災領域でも海底の地殻変動を観測する実証実験を実施済みであるという。
株式会社Elith

同社は、AIセーフティ・セキュリティを土台に、企業向けAIプロダクトの開発から先端研究までを手がけるAIスタートアップ。AIセキュリティプラットフォーム 「GENFLUX」を開発・提供する。近年、シャドーAI※2が企業のセキュリティリスクとなっている。
GENFLUXは、未承認AIへのアクセスをブロックしたり、生成AIへの機密情報のアップロードを自動検知しブロックしたりする機能を兼ね備える。
※2 シャドーAI:企業・組織が正式に許可・管理していない生成AIツールやAIサービスを、従業員が業務で勝手に使ってしまう状態のこと
株式会社ロボトラック

AIと機械学習アルゴリズムを活用した、トラックの自動運転システムを開発している。
代表取締役CEOの羽賀 雄介氏によると、トラックは車体が大きく、ブレーキをかけてから停止するまでの時間も長いため、自動運転の一般乗用車とは異なるセンサーやアルゴリズムが必要だ。
EC普及により需要が増える中、ドライバーは不足しており、政府は2030年までに自動運転トラックを1000台確保するという目標を掲げている。 同社はすでにドライバー同乗の上で幹線道路・物流拠点間での走行実証を行っており、人の介入なしで走行することに成功しているという。
株式会社zooba

企業の情報システム部門の業務を支援する「zooba」の開発・販売を行う。
zoobaは100以上のSaaSと連携し、SaaSアカウントの管理や、従業員からの問い合わせへの対応などを、AIエージェント基盤でサポートする。担当者の承認を得た上で、未利用アカウントを抽出して停止したり、従業員からのアカウント付与などの依頼に自動で対応したりすることができる。
代表取締役CEOの名和 彩音氏によると、現在業種・業界を問わず100社以上に導入されているという。
Ryp Labs

食品に貼ることで鮮度を保つシール「StixFresh」の提供を行う米国発のフードテック企業。StixFreshは、植物が持つ自己防衛メカニズムを模した天然由来成分を配合しており、果物や野菜の腐敗やカビの発生を抑えるという。
すでにコストコ向けにエクアドルから輸出される青果物で活用されており、食品ロスを従来比で60%削減することに成功しているという。
Tofuchan

フィジカルなAIコンパニオン「Tofuchan」を開発する。
Tofuchanは、ユーザーと会話し、時間とともに学習する「AIペット / AIフレンド」。
ユーザーと対話するだけでなく、リアルタイム翻訳や予定・リマインダー管理などの機能も備える。デバイス外側の「シェル」を取り替えることで、声や話し方、性格などが変化するという。
この特性を活用し、IPとのコラボや限定シェルなど、コレクタブル商品としての展開も視野に入れる。
株式会社tamateco

日本のガチャガチャ文化とIPを海外に広げることを目指す、福岡発のスタートアップ。代表取締役CEOの松井一平氏は約30年の業界経験を持つ。
日本のカプセルトイの海外流通や、海外でのガチャガチャ店舗の立ち上げ支援を行うほか、キャッシュレス決済やPOSデータ連携機能を備えた独自マシンの開発も行う。
HiStranger

韓国・ソウル発のEmotion AI・コンテンツテック企業。人が映画や広告などのコンテンツを体験する際に生じる感情反応を、視線、表情、脳波、脈拍などのデータとして収集・分析し、AIが学習可能な「Emotion Intelligence」として構造化することを目指す。
主力ソリューションの 「Insight Flow」は、コンテンツ視聴中の生体信号や表情・視線データをリアルタイムに測定し、シーンごとの感情の高まりなどを時系列で可視化するAI分析プラットフォームだ。分析結果は、コンテンツ制作・評価・マーケティングに活用される設計となっている。
Satelyx

民間企業による宇宙開発の「死の谷」を克服すべく、宇宙機器やAI・ソフトウェアの軌道上実証(IOD/IOV)を支援するスタートアップ。顧客の機器やソフトウェアを自社衛星に載せ、宇宙空間での動作検証やデータ処理の実証を支援する。
第一号衛星を2027年後半に打ち上げ予定で、日本の推進系を活用予定だという。
「Japan is Back」の主役は誰か
起業家、試作を支える京都の企業、ノーベル賞級の研究を担う大学、投資家、そして各地の自治体や政府機関──立場の異なるプレイヤーが同じ場に集い、それぞれの現場からイノベーションを興し、産業を押し上げようとしていた。
1.3万人を超える来場者、のべ340社の出展、500件以上のサイドイベント。この3日間が映し出したのは、多様な担い手が交わる「交差点」としての熱量だった。この交差点から、次の1年でどんな動きが生まれるのか。来年のIVSが楽しみだ。










